タチネコノメソウ Chrysosplenium tosaense  (Makino) Makino
  山地・渓流の植物 ユキノシタ科 ネコノメソウ属
Fig.1 (兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/1)

Fig.2 (兵庫県篠山市・渓流畔 2011.3/31)

山地の渓流畔や林内のしめった場所に生育する多年草。山地渓流畔に生育するネコノメソウ属の中でも開花期は早い。
地中に走出枝を出し、花後にその基部がふくらみ、葉を出して独立する。
根生葉は柄があり、葉身は長さ4〜17mm、幅5〜25mmでほぼ円形で、基部は心形、ほぼ無毛で、5〜9個の丸い鋸歯があり、開花時にも残る。
花茎は高さ5〜10cmで、0〜2個の葉を互生し、ほぼ無毛で、集散花序を頂生する。
茎葉と下部の苞は根生葉と同形でより小さい。上部の苞は卵形で3〜5個の丸い鋸歯がある。
花は径約3mmで短い柄があり、萼裂片は平開、緑色、広卵形、鈍頭、長さ1.5〜2mm。
花盤は黄緑色〜淡緑色。雄蕊は8個で、花時に直立し、長さ約0.5mm、萼裂片より明らかに短い。葯は黄色。
花柱はきわめて短く、花時には直立するが、果時には平開する。種子は卵形、長さ0.6〜0.7mm、1稜があり平滑、微細な乳頭状突起が生える。

似たものを以下にあげる。
ツルネコノメソウC. flagelliferum)…花後に地上に走出枝を出す。雄蕊8個で、直立して花盤の縁から超出し、長さ0.7〜1mm。
                   開花時には根生葉は残らない。分布:北海道、本州近畿以北、剣山
チシマネコノメソウC. kamtschaticum)…葉は対生。雄蕊8個で直立し、長さ0.8mm、葯は鮮黄色または汚紅色。種子は長さ0.8〜0.9mm、十数条の稜がある。
                   開花時に根生葉は残る。次の変種ミチノクネコノメソウを同種とする見解もある。分布:北海道、本州近畿以西の日本海側。
イワネコノメソウC. echinus)…葉は対生する。花後に地上に走出枝を出す。雄蕊8個で直立し、萼裂片より短く、長さ0.5mm。葯は橙赤色。
                   開花時に根生葉は残らない。分布:本州(関東〜東海地方)、四国、九州。。
近縁種 : ツルネコノメソウチシマネコノメソウ、 イワネコノメソウ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州
■生育環境:山地の渓流畔、湿った林内。
■花期:4〜5月

Fig.3 全草の様子。(兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/1)
  花茎にはほとんど葉がつかず、あっても1〜2枚程度で花茎に互生してつく。花茎は赤味を帯び、葉腋をのぞいてほとんど毛はない。
  開花時にも根生葉は残り、円形で基部は心形、丸い鋸歯は5〜9個ある。

Fig.4 茎についた葉。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  茎につく葉は扇状で、葉柄の基部寄りに軟毛が見られる。

Fig.5 開花しはじめた花序。(兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/1)
  花茎は上部で2岐し、その後2出集散花序となる。上部の小型の苞は卵形で、3〜5個の丸い鋸歯がある。
  萼裂片は平開し、緑色で鈍頭。雄蕊は8個で、葯は黄色、萼裂片から超出しない。
  開花はネコノメソウ属の中でも早いほうで、里のヤマネコノメソウの開花時期とほぼ一致するか少し早い。

Fig.6 最盛期の花序。(兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/19)
  2出集散花序の中央から出た花はすでに花期は終わり、2個の心皮がふくらみはじめている。

Fig.7 果実。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  果実は刮ハ。2個の心皮はほぼ同形。いくつかの刮ハは裂開しつつある。
  苞葉は開花中や果実形成期にも生長し、基部はくさび形に近づく。

Fig.8 裂開した刮ハ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  刮ハは整った洋杯状に開き、底には多数の種子がある。種子は雨滴などによって散布される。

Fig.9 種子。(兵庫県姫路市・渓流畔 2014.5/8)
  種子は卵形、長さ0.6〜0.7mm、1稜がある。

Fig.10 種子の拡大。(兵庫県姫路市・渓流畔 2014.5/8)
  表面は平滑で、微細で短い乳頭状突起が生える。

Fig.11 地下の走出枝から生じたと思われる子株。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
  最初は花茎を上げる勢いのない株かと考えたが、それにしては小さく、根生葉には鋸歯が3個しかない。
  周囲のチョウチンゴケ類の間には、葉に鋸歯のない実生苗が沢山生じている。

生育環境と生態
Fig.12 湧水が表層を流れる岩壁で生育するタチネコノメソウ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/1)
渓流畔に多いが、渓流に沿ってある岩壁を地下水が濡らすような場所で最もよく眼にする。
近くにはユキノシタやイワタバコが見られた。画像下方の線形の草体はセキショウ。

Fig.13 渓流の流れのたもとで生育するタチネコノメソウ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2008.5/16)
苔むした渓流の岩上に、ミズタビラコ、ヒメレンゲ、ミヤマイラクサの子株などとともに見られた。

Fig.14 渓流中の岩上に生育するタチネコノメソウ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2009.3/26)
地下に短い根茎を伸ばして殖えるため、画像のように数株がまとまった形で生育しているのをよく見かける。



最終更新日:17th.May.2014

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