セキショウモ Vallisneria asiatica  Miki トチカガミ科 セキショウモ属
水生植物 > 沈水植物
Fig.1 (兵庫県加東市・溜池 2011.9/19)

Fig.2 (兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21)

湖沼、溜池、河川、水路などに生育する多年生の沈水植物。
泥上または浅い泥中に白色の走出枝を伸ばして次々に殖えていく。走出枝に突起はなく、平滑。
葉は根生し、線形(リボン状)、扁平で長さ10〜80cm、幅3〜9mm、先端は鋭頭または鈍頭。
葉の先端部付近の葉縁には鋸歯が目立つが下方は鋸歯がまばらになるか全くなくなる。
雌雄異株で、雌株は細く長い花茎を水面まで伸ばして雌花を浮かべる。子房は長さ1.5〜3cm、その先に3個の萼片と柱頭の2裂した3個の雌蕊がある。
雄花は水面まで到達せず、葉の基部から伸びた長さ数cmの花茎の先の苞鞘のなかに多数つまっている。
花茎が切れて苞鞘が浮上し、破裂すると雄花は水面に浮遊して雌花のそばに流れ着き、花粉を放出して受粉が起こる。
受粉後、雌花の花茎は螺旋状にねじれて縮み、雌花は水中に引き込まれて結実する。
果実の長さは様々で、20cm近くなるものもあり、径約3mm、内部には透明な粘液を含み、多数の種子が縦方向に並ぶ。
種子は円柱状紡錘形で長さ2〜4mm、表面にはまばらな突起がある。

セキショウモ属にはセキショウモの2変種の他に外来種を含めて2種あり、セキショウモに酷似するものも多い。
変種ネジレモ(var. biwaensis)は琵琶湖淀川水系の固有種で、葉が螺旋状にねじれ、葉縁の鋸歯は下部まで全体にわたる。
同じく変種のヒラモ(var. higoensis)は大型で常緑、熊本市とその周辺に限って生育する。
コウガイモV. denseserrulata)はふつう葉縁の鋸歯がセキショウモよりも目立ち、走出枝には微細な突起があり、ざらつく。
秋には走出枝の先にコウガイ状の殖芽を形成して越冬する。
オオセキショウモV. gigantea)はアクアリウム用に輸入されたものが逸出したもので、葉幅は1〜3cmと広く、常緑、鋸歯はほとんど目立たない。
近似種 : ネジレモ、 ヒラモ、 コウガイモ、 オオセキショウモ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ アジア、オーストラリア(?)
■生育環境:湖沼、溜池、河川、水路など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。過去に武庫川の記録があるが、確認できていない。

Fig.3 雌株の全草標本。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  泥上または浅い泥中に白色の走出枝を伸ばして次々に殖えていく。葉は根生し、線形(リボン状)、扁平。

Fig.4 泥上や浅い泥中に走出枝(ランナー)を横走する。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  走出枝は白色だが、泥上で太陽光のあたるものは葉緑体を持ち、緑色となる。
  走出枝の先端には新芽がつき、発根し、さらに新たな走出枝を次々に伸ばす。

Fig.5 溜池で開花中の雌株。(兵庫県加東市・溜池 2011.9/19)
  細長い花茎を水面に伸ばし、水面上で雌花を開花する。

Fig.6 水面上で開花した雌花。(兵庫県加東市・溜池 2011.9/19)

Fig.7 雌花とその拡大。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  雌花に花弁はなく、3個の萼片があり、その下には長い子房があり(子房下位)、子房は苞鞘に包まれる。
  雌蕊は3個あり、柱頭は2裂する。また、雄蕊の退化した仮雄蕊が3個ある。

Fig.8 果実期の雌株。螺旋状の花茎が目立つ。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)

Fig.9 成熟した果実(上)とその内部(下)。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  花後、花茎は螺旋状に縮んで雌花を水面下に引き込み、水中で子房は伸びて果実が成熟する。
  種子は果実内部で透明な粘液に包まれて、縦に配列する。萼片は脱落せずに残る。


Fig.10,11 粘液に包まれた種子(上)と種子本体(下)。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  種子は粘液に包まれている間は水中を半ば浮遊し、粘液が取れると水底に沈む。
  種子は円柱状紡錘形で長さ2〜4mm、表面には細かい縦じわが目立ち、しわの間には低い横の隆条があり、細かな格子状をなす。
  また、表面にはまばらに細い柔突起がある。

Fig.12 種子からの発芽。(自宅 2008.10/19)
  粘液を取り除くために水に漬けておいた種子を放置していたところ、およそ1週間で発芽するのが見られた。
  屋外ではふつう3〜4月に発芽するようである。


Fig.13,14 葉先の鋸歯とその拡大。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
  葉先付近の鋸歯は明瞭。葉の中部ではほとんど鋸歯がなかった。

生育環境と生態
Fig.15 溜池に生育するセキショウモ。(兵庫県加東市・溜池 2013.10/21)
丘陵に面し3方を堤防によって囲まれた中規模な溜池の岸近くに帯状にセキショウモが群生していた。
水面にはヒシが生育するが、全面を覆うほどではなく中栄養な溜池と考えられ、水底にはヒメホタルイ、クロモ、アイノコイトモが生育していた。

Fig.16 溜池畔に吹き寄せられたセキショウモ。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
秋に水鳥が飛来する頃になると、水鳥の摂食活動による水底の撹乱で、池畔に打ち寄せられる水草は多くなる。
ここでも、クロモ、オオカナダモ、タチモ、イヌタヌキモに混じってセキショウモが池畔に吹き寄せられていた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. セキショウモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 180,181. 北隆館
角野康郎, 1994 トチカガミ科セキショウモ属. 『日本水草図鑑』 29〜31. 文一統合出版
大井次三郎, 1982. トチカガミ科セキショウモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.6. pl.5. 平凡社
北村四郎, 2004 トチカガミ科セキショウモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.393〜394. pl.104. 保育社
牧野富太郎, 1961 セキショウモ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 700. 北隆館
内山寛. 2001. トチカガミ科セキショウモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 173〜175. 神奈川県立生命の星・地球博物館
浜島繁隆, 2001. ため池の植物 セキショウモ. 浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 (編)『ため池の自然』 p.72〜73. 信山社サイテック
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. セキショウモ. 『六甲山地の植物誌』 214. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. セキショウモ. 『近畿地方植物誌』 197. 大阪自然史センター
角野康郎・中村俊之・高野温子 2007. セキショウモ. 兵庫県産維管束植物9 トチカガミ科. 人と自然18:88. 兵庫県立・人と自然の博物館.

最終更新日:28th.July.2014

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