セトヤナギスブタ | Blyxa alternifolia (Miq.) Den Hartog | トチカガミ科 スブタ属 |
水生植物 > 沈水植物 環境省絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Aランク種 |
Fig.1 (京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 主に水田、流れの緩やかな用水路などで沈水状態で生育する1年草。 除草剤の使用や圃場整備によって急激に減少し、各地でほとんど見られなくなった水田雑草である。 有茎でヤナギスブタに似るが、より大型で茎の径3〜4mmとなる。 葉身は線形で縁には明瞭な細鋸歯があり、長さ6〜8cm、幅2.5〜4mm。 夏から秋にかけて、葉腋から1個の両性花を出し、水面上で白色の小さな花を咲かせる。 花はごく短い柄があり、基部は膜質の苞鞘につつまれる。子房は苞鞘につつまれ、長い糸状の花柱を水面に伸ばして水面上に3花弁の花を開花する。 萼片は3個、淡緑色で披針形、鈍頭。花弁は白色線形で、長さ約13mm、幅1mm以上。雄蕊は3個、雌蕊1個で柱頭は3裂する。 種子は紡錘形で長さ約2mm、表面にはごくまばらに低い突起があり、両端に尾状突起は発達しない。 近似種にヤナギスブタ(B. japonica)がある。 本州〜沖縄に分布、セトヤナギスブタよりも小型で、葉の長さ2.5〜5cm、幅1.5〜2.3mm。種子は1.5〜2mmで、表面は平滑。 スブタ(B. echinosperma)は茎が発達せず、葉はほぼ根生し、種子は紡錘形で、表面に低い突起を散布し、両端に尾状突起が発達する。 また、スブタに酷似するマルミスブタ(B. aubertii)は種子の尾状突起は発達せず、両端は円頭となる。 これらスブタ属の水草は除草剤や環境改変に弱く、現在ではほとんど見かけない。 近似種 : ヤナギスブタ、 スブタ、 マルミスブタ 関連ブログ・ページ 『京都の棚田で見られたスブタ属3種』 ■分布:本州(中部以西)、九州 ・ 東南アジア ■生育環境:水田・用水路など、特に里山環境を良好に残す地域に限られる。 ■花期:8〜10月 ■西宮市内での分布:西宮市内では見られない。兵庫県下でも絶滅寸前である。 |
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↑Fig.2 全草標本。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 有茎の1年生草本でヤナギスブタよりも大型となり、茎の径はふつう約3.5mmとなる。 |
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↑Fig.3 新鮮な葉。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 日当たりよい場所に生育するものは赤紫色を帯びる。 葉の長さ6〜8cm、幅2.5〜4mmでヤナギスブタよりも大きい(ヤナギスブタは長さ2.5〜5cm、幅1.5〜2.3mm)。 |
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↑Fig.4 葉縁の鋸歯。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 葉縁の鋸歯はヤナギスブタやスブタよりも明瞭である。 |
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↑Fig.5 開花中の花。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 花弁は線形、白色、3個あり、長さ約13mm(ヤナギスブタの花弁の長さは3〜8mm)。 |
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↑Fig.6 葉腋についた果実(刮ハ)。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 花後、果実が熟すにつれて3〜5mm程度の短い柄が伸びる。果実は大半が苞鞘によって包まれる。 中の種子が完全に熟すと、短い柄の先の関節から先が溶けて、中から粘液に包まれた種子がこぼれ出る。 果実の長さはヤナギスブタとほとんど差はなかった。 |
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↑Fig.7 果実内部には種子が縦に並んでいる。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 果実中の種子の数は少なく、ヤナギスブタやスブタの1/2に満たなかった。 |
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↑Fig.8 種子。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 種子は紡錘形で長さには幅があって1.8〜2.5mmの範囲内であった(図鑑では約2mm)。 『日本水草図鑑』では表面の突起は2〜10個と記されているが、突起を20個以上持つものもあった。 しかしこれは変異の範疇と考えた。スブタにこれに酷似する形状のものがあるが、より小さい。 ヤナギスブタには表面の突起はなく、平滑で、長さ1.5〜2mmとなる。 |
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↑Fig.9 分枝のない小さな個体。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 茎も長く伸びておらず、基部付近が軟泥に埋もれているとスブタと間違える可能性があるが、葉幅は少し狭い。 |
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↑Fig.10 赤紫色を帯びていない個体。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 水路内でヤノネグサ、アオコウガイゼキショウ、クログワイなどに覆われていたものを掻き分けて撮影したもの。 セトヤナギスブタは赤紫色を帯びる傾向が強いが、日照条件が充分でないと淡緑色となるようだ。 |
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↑Fig.11 セトヤナギスブタ(左)とヤナギスブタ(右)。(京都府・棚田 2013.10/11) |
生育環境と生態 |
Fig.12 棚田内の水路で生育するセトヤナギスブタ。(京都府・棚田内の水路 2013.10/11) 山側から湧出する湧水を温めるための素掘りの水路が水田山側に設けられており、その水中に少数の個体が点在していた。 同所的にヤナギスブタ、水田型イヌタヌキモ、イトトリゲモ、ミゾカクシ、コナギ、イボクサ、コケオトギリ、クログワイ、ホタルイ、 サンショウモなどが生育している。 |
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Fig.13 棚田の刈り取り後の湿田で生育するセトヤナギスブタ。(京都府・棚田 2013.10/11) これまでに一度も除草剤が使用されていない、昔ながらの膝まで泥にもぐる湿田内に少数が点在していた。 水田内にはヤナギスブタ、水田型イヌタヌキモ、イトトリゲモ、ミゾカクシ、コナギ、イボクサ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、 クログワイ、ミズガヤツリ、サンショウモなどが生育している。 この谷津にある棚田では水田内に他にマルバノサワトウガラシ、サワトウガラシ、エダウチスズメノトウガラシ、アゼトウガラシ、ヒルムシロ(暫定)、 キクモ、タウコギ、イトイヌノヒゲなどが生育していた。 外来種とされる水田雑草は見られなかったが、ホシクサ、シソクサ、ミズマツバ、スズメハコベは生育していなかった。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大滝末男, 1980. ヤナギスブタ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 186〜187. 北隆館 角野康郎, 1994. トチカガミ科スブタ属. 『日本水草図鑑』 p.24〜25. pl.26. 文一統合出版 浜島繁隆, 1982. ヤナギスブタとセトヤナギスブタの比較. 水草研究会会報 10:3. 角野康郎・中村俊之・高野温子 2007. セトヤナギスブタ. 兵庫県産維管束植物9 トチカガミ科. 人と自然18:86. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:14th.Oct.2013 |