ヤナギスブタ Blyxa japonica  (Miq.) Maxim. トチカガミ科 スブタ属
水生植物 > 沈水植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・休耕田 2006.9/21)

Fig.2 (兵庫県宝塚市・溜池 2012.10/8)

Fig.3 (兵庫県三田市・水田 2012.8/31)

主に水田、流れの緩やかな用水路、溜池などで沈水状態で生育する1年草。
除草剤の使用や圃場整備によって急激に減少した種で、水質が良く、常に湛水状態の湿田や水路で生き延びている種である。
自生環境が著しく損なわれた結果、各地で絶滅危惧種に指定されている。

有茎で、高さ5cm〜25cmになり、よく分枝し多数の葉を付ける。
葉身は線形で縁には細かな鋸歯があり、長さ2.5〜5cm、幅1.5〜2.3mm。
夏から秋にかけて、葉腋から1個の両性花を出し、水面上で白色の小さな花を咲かせる。
花は無柄で、基部は膜質の苞鞘につつまれる。苞鞘の長さ1〜2cm。
子房は苞鞘につつまれ、長い糸状の花柱を水面に伸ばして水面上に3花弁の花を開花する。萼片は3個、淡緑色で披針形、鈍頭。
花弁は白色線形で、長さ5〜8mm、幅約1mm。雄蕊は3個、雌蕊1個で柱頭は3裂する。

特によく似た近縁種にセトヤナギスブタB. alternifolia)がある。本州中部以西に稀産し、ヤナギスブタと混生することもある。
ヤナギスブタより大型で、葉の長さ6〜8cm。種子の長さ約2mmで、表面に低い隆起が2〜10個あることでヤナギスブタと区別される。
国内には、他に茎が伸張しないスブタB. echinosperuma)、マルミスブタB. aubertii)が分布する。
スブタの種子は紡錘形で、両端に尾状突起が発達する。これに対し、マルミスブタの種子では尾状突起は発達しない。
スブタ属の水草は除草剤や環境改変に弱く、現在ではあまり見かけない。
近似種 : セトヤナギスブタスブタ、 マルミスブタ
関連ブログ・ページ 『京都の棚田で見られたスブタ属3種』

■分布:アジアの熱帯〜温帯域、オーストラリア
■生育環境:水田・用水路・溜池など、特に里山環境を良好に残す地域に多い。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:西宮市内では2ヶ所で確認できたのみで稀。北部の休耕田の水路、棚田の水田内で生育する。

Fig.4 全草の様子。(京都府・棚田 2013.10/11)
  スブタやマルミスブタと違って、有茎の1年生草本。
  セトヤナギスブタよりも小さく、茎の径は2mm程度(セトヤナギスブタは3〜4mm)。

Fig.5 開花中の個体。(兵庫県宝塚市・溜池 2012.10/8)
  花は非常に小さく、開花数が少ないと見落とすことがある。花弁は3個で白色、線形、長さ3〜8mm。

Fig.6 開花直前の花茎。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  この後、子房の先端の蕾が長く伸びる。

Fig.7 ヤナギスブタの未熟な果実。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  柱頭と長い花柱が残り、花柱の長さは水深に応じて伸びる。果実は縦に長い。


Fig.8,9 果実は苞鞘に包まれる。(西宮市・棚田 2008.8/10)
  画像下は果実を苞鞘から出したところ。

Fig.10 果実内部には種子が多数、縦に並んで成熟を待つ。(西宮市・休耕田 2007.11/1)

Fig.11 未熟な種子。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  Fig.8 から取り出した種子。まだ成熟しきっていないためか、長く伸びず丸みが強い。

Fig.12 熟した種子。(西宮市・棚田 2008.8/10)
  Fig.7 の熟した果実から種子を取り出したところ。種子は狭長楕円形で長さ約1.5mm、表面には縦しわがあり光沢がある。


Fig.13,14 葉先(上)と葉身(下)の拡大。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  葉には細かい鋸歯があり、葉脈は中央脈が明瞭で、それ以外は格子状となる。
  鋸歯はセトヤナギスブタより低く、やや不明瞭である。

Fig.15 生長初期のヤナギスブタ。(神戸市北区・管理休耕田 2007.7/15)
  この時期のものは、他のスブタ属の近縁種とは区別がつかない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.16 水田で生育するヤナギスブタ。(西宮市・棚田 2008.8/2)
減農薬により様々な水田雑草が見られるようになった水田で、ミズオオバコ、キクモ、コナギ、ウリカワ、オモダカ、ヒロハトリゲモ、シャジクモなどが見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 湛水休耕田で生育するヤナギスブタ。(兵庫県丹波市・休耕田 2010.10/7)
棚田際奥にある休耕田の山際近くが、山際からの湧水により湛水状態となっており、ヤナギスブタを含む沈水植物群落が見られた。
多くの部分はシャジクモが占めているが、シャジクモの切れ目にヤナギスブタ、スブタ、ホッスモ、キクモ、ミズハコベ、イボクサが生育していた。

Fig.18 溜池の浅水域で群生するヤナギスブタ。(兵庫県宝塚市・溜池 2012.10/8)
2次的自然度の高い地域の溜池の岸近くでヤナギスブタが群生していた。
溜池にはサイコクヒメコウホネ、ジュンサイ、ヒツジグサ、イトモ、イヌタヌキモ、ハタベカンガレイ、クログワイなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
牧野富太郎, 1961 ヤナギスブタ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 700. 北隆館
大滝末男, 1980. ヤナギスブタ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 186〜187. 北隆館
角野康郎, 1994. トチカガミ科スブタ属. 『日本水草図鑑』 p.24〜25. pl.26. 文一統合出版
山下貴司, 1982. トチカガミ科スブタ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.4〜5. pls.3〜4. 平凡社
内山寛. 2001. トチカガミ科スブタ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 174〜175. 神奈川県立生命の星・地球博物館
北村四郎, 2004 トチカガミ科スブタ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.395〜396. pl.104. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤナギスブタ. 『六甲山地の植物誌』 213. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヤナギスブタ. 『近畿地方植物誌』 197. 大阪自然史センター
浜島繁隆, 1982. ヤナギスブタとセトヤナギスブタの比較. 水草研究会会報 10:3.
角野康郎・中村俊之・高野温子 2007. ヤナギスブタ. 兵庫県産維管束植物9 トチカガミ科. 人と自然18:87. 兵庫県立・人と自然の博物館
松岡成久, 2010. ヤナギスブタ. 西宮市産植物補遺、並びに西宮市内に生育する要注目種(その2). 兵庫県植物誌研究会会報 85:4. 兵庫県植物誌研究会

最終更新日:18th.Oct.2014

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