フトイ | Schoenoplectus tabernaemontani (C.C.Gmel.) Palla | カヤツリグサ科 フトイ属 |
湿生〜抽水植物 兵庫県RDB 要調査種 西宮市絶滅種 |
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池 2013.6/4) |
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Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池 2013.7/1) 溜池畔、河川敷、水路などに生育する大型の多年草。西日本ではやや稀。 地下に横走する匍匐根茎があり、節から茎を直立して群生し、高さ1〜2.5mとなる。 茎は白緑色、円柱形で、幅7〜25mm、内部は発泡スチロール状で中実。基部の鞘は薄膜質、葉身は退化し痕跡的。 花序は側生してやや下垂し、数本の花序枝を持ち、端に1〜3個の小穂がつく。苞葉は茎に続き、花序より短い。 小穂は狭卵形、開花時は淡黄緑色だが、熟すと赤褐色を帯び、長さ5〜10mm。鱗片は薄膜質で広倒卵形、長さ3.0〜3.7mm、縁と上部に毛がある。 痩果は長さ1.8〜2.4mm(嘴部含む)、倒卵形、灰黒褐色で平滑、光沢があり、横断面は扁レンズ形。刺針状花被片は4〜6個、下向きにざらつく。 柱頭はほとんどが2岐する。葯の長さ1.5〜2.1mm。 【メモ】 オオフトイとの区別のキーとなるのは痩果の長さ、葯の長さ、雌性期の小穂の色、3岐する柱頭があるかどうかという点。 これまで、相違点があまり明確ではなかったが、比較的キーポイントは多く、同定にはさほど苦労を要さないと思われる。 兵庫県下ではオオフトイのほうがフトイよりも2〜3週間ほど早く開花しているようだ。 各地の塩性湿地には、小型で根茎も細いフトイが生育しており、再検討を要する。 フトイには小穂が2〜3個枝先に集まるキタフトイ(f. creber)や、小穂が枝先に単性するナミフトイ(f. luxurianus)、 小穂が10〜15mmと細長いナガボフトイ (f. australis)が品種として報告されているほか、 栽培品種としてシマフトイ(f. zebrinus)やタテジマフトイ(f. picta)がある。 オオフトイ(S. lacustris)は、雌性期に小穂が赤紫色を帯び、痩果の長さ2.7〜3.2mm、葯の長さ2.1〜2.8mm。 柱頭は2岐するものと3岐するものが混じり、1個の小穂のうち1/3〜2/3程度が3岐する。 イヌフトイ(S. littoralis subsp. sublatus)は沖縄本島、大東島、石垣島、西表島の海浜近くに生育し、小型。6本の刺針状花被片がやや羽毛状となるという。 絶滅危惧種となっており、個体数が少ないためか、その実態がいまひとつはっきりとしない。 サンカクイとの種間雑種にコサンカクイ(S. ×arunensis)がある。3〜4稜形だが面はよくふくらみ、高さ約70cm、径5〜10mm。 小穂は数個、褐色、卵形、長さ約1cm。柱頭は2岐する。 近似種 : オオフトイ、 サンカクイ フトイとオオフトイの区別点の詳細についてはブログの「フトイ・オオフトイと海浜性小型フトイのもんだい 」を参照してください。 ■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 樺太、千島、朝鮮半島〜ヨーロッパ ■生育環境:溜池畔、河川敷、水路など。 ■果実期:7〜8月 ■西宮市内での分布:かつては武庫川の河川敷でフトイらしきものが見られたが、2004年の台風23号による氾濫のため絶滅した。 |
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↑Fig.3 全草標本。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) 地下に横走する匍匐根茎があり、節から茎を直立して群生し、高さ1〜2.5mとなる。 |
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↑Fig.4 根茎(一部不定根を取り除いたもの)。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) 匍匐根茎は太さ15mm前後、多数の不定根を出す。 |
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↑Fig.5 根茎は横走するため、茎は列をなして出ていることがある。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) |
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↑Fig.6 基部の鞘。(兵庫県篠山市・溜池 2013.7/1) 鞘は赤褐色を帯び、辺縁は薄膜質で裂け、糸網を生じる。鞘の葉身は退化的。 |
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↑Fig.7 茎の横断面。(兵庫県篠山市・溜池 2013.7/20) 茎は白緑色、円柱形で、直径7〜25mm、内部は発泡スチロール状で中実。 |
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↑Fig.8 フトイの花序。(西宮市北山町・植栽 2007.6/17) 数個の花序枝の先に1〜3個の褐色の小穂をつける。小穂の長さ長さ5〜10mm。 |
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↑Fig.9 雌性期の花序。(兵庫県丹波市・溜池 2013.6/7) 雌性先熟で、まず最初に雌蕊の柱頭が鱗片の間から出る。 雌性期の小穂は黄緑色で鱗片の縁は淡褐色を帯びる。 オオフトイの雌性期の小穂は赤紫色を帯びるが、わかりにくい場合は柱頭を調べるか、雄性期の葯の長さを調べる。 |
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↑Fig.10 2岐する柱頭が鱗片の間から出る。(兵庫県丹波市・溜池 2013.6/7) 柱頭はほぼ全てが2岐するが、ごく稀に3岐するものが混じる。 |
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↑Fig.11 鱗片。(兵庫県神戸市・溜池 2013.7/17) 鱗片は薄膜質で広倒卵形、長さ3.0〜3.7mm、縁と上部に毛がある。結実期の鱗片は茶褐色を帯びる。 |
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↑Fig.12 痩果。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) 痩果は長さ1.8〜2.4mm、倒卵形、灰黒褐色で平滑、光沢があり、横断面は扁レンズ形。(オオフトイの痩果は2.7〜3.2mm) 刺針状花被片は4〜6個、下向きにざらつく。 |
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↑Fig.13 葯。(兵庫県三田市・溜池 2013.6/4) 葯の長さ1.5〜2.1mm。(オオフトイでは2.1〜2.8mm) |
生育環境と生態 |
Fig.14 富栄養気味な溜池に生育するフトイ。(兵庫県三田市・溜池 2013.6/4) 丘陵部にある水面をヒシが覆うやや富栄養な溜池に生育している。 流れ込み上部には畑地があり、流れ込み部にはカサスゲが群生し、水際にショウブ、ガマが生育し、フトイは抽水状態で生育していた。 |
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Fig.15 棚田の小さな溜池で群生するフトイ。(兵庫県篠山市・溜池 2013.7/1) 棚田最上部にある小さな溜池の一画に生育状態の良いフトイが群生していた。 2次的自然度の高いやや中栄養な溜池で、ジュンサイが群生し、イヌタヌキモ、ホッスモ、ホソバミズヒキモが生育していた。 周辺にはオオフトイの自生地が多いが、池の持ち主にインタビューすると、最初からここに生育していたとのことだった。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科ホタルイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.176〜179. pls.160〜162. 平凡社 小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ホタルイ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.212〜217. pls.54〜55. 保育社 牧野富太郎, 1961 フトイ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 765. 北隆館 大滝末男, 1980 フトイ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 156,157. 北隆館 角野康郎, 1994. カヤツリグサ科ホタルイ属. 『日本水草図鑑』 96〜102. 文一統合出版 堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ホタルイ属(狭義). 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 435〜439. 神奈川県立生命の星・地球博物館 星野卓二・正木智美, 2003. ホタルイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 120〜137. 山陽新聞社 星野卓二・正木智美, 2011. フトイ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 678〜679. 平凡社 谷城勝弘, 2007. フトイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 152〜164. 全国農村教育協会 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. フトイ. 『六甲山地の植物誌』 253. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. フトイ. 『近畿地方植物誌』 166. 大阪自然史センター 黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. フトイ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:177. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:30th.Aug.2013 |