カキツバタ Iris laevigata  Fisch. アヤメ科 アヤメ属
抽水植物  環境省準絶滅危惧(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)

湖沼や湿地などに生育する多年草。抽水状態で見られることが多い。
根茎は泥中に横臥、分枝して多くの繊維に被われる。葉は互生し、剣状広線形、長さ30〜70cm、幅20〜30mm、中脈は明瞭だが、隆起しない。
花茎は直立し、分枝せず、高さ40〜70cm、少数の短い葉をつけ、頂部に2〜3花からなる花序を持ち、頂端から順次下方に1日花を開花する。
花序の苞葉は1〜2個、広披針形または狭長楕円形、花柄は子房よりも短い。
花は青紫色で、花径は10〜15cm。花筒は短くふつう外花被片3、内花被片3。
外花被片は広倒卵楕円形で外側に垂れ、先は丸く、長さ6〜10cm、幅4〜8cm、中央基部に白い披針状の斑紋がある。
内花被片は淡紫色、倒披針形で直立し、長さ6〜7cm、幅1〜2cm、先は少しとがる。
雌蕊の花柱は3裂(花柱分枝)し、各裂片は外花被片の上にあって、先は外巻きして2裂。その基部の下に狭い襞となった柱頭がある。
柱頭は縁に歯がなく、淡紫色。雄蕊は3個、花柱裂片と外花被片の間にあって隠れる。葯は白色。雌蕊1個で、子房下位。
刮ハは鈍い3稜がある楕円形〜長楕円形、長さ4〜5.5cmで、8月に熟す。熟果は3裂し、反転して多数の種子を出す。
種子は光沢のある赤銅色で堅く、半球形の平盤状または三角錐状、径5〜6mm。

同属のノハナショウブ(I. ensata var. spontanea)が似るが、抽水状態で生育することは少なく、外花被片の斑紋は黄色、葉身の中央脈は隆起する。
またアヤメ(I. sanguinea)は湿地や水辺に生育せず、山野の草地に見られ、外花被片の斑紋は黄色地に紫色の細脈がある。
カキツバタには園芸品種が多数あり、野生状態でも白花品のシロカキツバタが見られることもある。
近似種 : ノハナショウブキショウブ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国東北部、シベリア東部
■生育環境:湖沼、湿地など。
■花期:5〜6月
■西宮市内での分布:市内には分布しない。県内では稀に見かけるが、自生か逸出か見極めがたい生育地が多い。

Fig.2 カキツバタの花冠。(兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)
  外花被片、内花被片、花柱分枝はそれぞれ3個づつあって花の外見全体を構成する。

Fig.3 外花被片と花柱分枝(裂片)。(兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)
  外花被片は広倒卵楕円形で外側の広い部分は下垂し、先は丸く、基部近くには白色の斑紋がある。
  外花被片の中央には花柱分枝(裂片)が被さり、裂片の先は2裂している。雄蕊や雌蕊など花の中核部は外からは見えない。

Fig.4 外花被片と花柱分枝(裂片)を開いたところ。(兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)
  花柱分枝(裂片)の下部に柱頭が現れ、花柱分枝と外花被片の間から雄蕊の葯が現れる。蜜腺はさらに奥まった花被片の基部にある。
  このような構造を持つ花には、ふつうもぐり込むことの得意なハナバチ類しか蜜を得ることができない。
  雄蕊の葯は外花被片側に下向きとなって開き、ハナバチ類が後ずさりして出るときに体表に花粉を付着させる。
  花柱分枝はこの時上方に押し上げられて、柱頭に花粉が付着することはない。ハナバチ類はすぐ近くにある花へと次々に吸蜜に訪れる。
  次のカキツバタの花に吸蜜に訪れ、もぐり込む際に体表に着いた先の花の花粉が、柱頭に付着して受粉が完了する。
  柱頭は花粉を受け取りやすくするために細かい襞を持っている。

Fig.5 カキツバタの熟果。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/12)
  黒変した熟果が裂開するタイミングを誤ったのか、10月になっても多数花茎に残存していた。

Fig.6 カキツバタの葉。(兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)
  葉は根茎先端から互生して抽出する。剣状広線形で、中央脈は隆起しない。

生育環境と生態
Fig.7 棚田際奥の休耕田脇の小湿地に群生するカキツバタ。(兵庫県丹波市・休耕田脇湿地・栽培逸出? 2009.5/5)
自然度が高い場所であるため、逸出か自生かの区別がつきがたく、このような場所は県内では割と多い。
付近には切花用の圃場跡もあることから、逸出の可能性が高いのではないかと考えている。
湿地内にはホソバノヨツバムグラ、ミズの仲間、セリが多い。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. カキツバタ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 108,109. 北隆館
佐竹義輔, 1982. アヤメ科アヤメ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.60〜62. pls.55〜57. 平凡社
村田源, 2004 ガマ科ガマ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.76〜79. pls.20〜21. 保育社
諏訪哲夫. 2001. アヤメ科アヤメ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 234〜237. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. カキツバタ. 『近畿地方植物誌』 138. 大阪自然史センター
黒崎史平・高橋晃 2007. 兵庫県産維管束植物9 アヤメ科. 人と自然16:107-109. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:1st.jun.2009

<<<戻る TOPページ