アギスミレ Viola verecunda var. semilunaris  (A. Gray) Maxim. スミレ科 スミレ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2014.6/10)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2013.5/24)

ツボスミレ(ニョイスミレ)の変種で、アギスミレは東日本に自生し、ヒメアギスミレは西日本に自生するということになっているが、
西宮市では基本種ツボスミレ(ニョイスミレ)を含めた3種とも見られる。
ヒメアギスミレはアギスミレの1変異とする考えもあるが、生育環境や形態が明らかに異なるので、ここでは別変種とした。
ツボスミレとヒメアギスミレとの中間的な形態をしており、葉の表面には鈍く光るようなツヤがある。
この表面のツヤは他2種には見られず、区別するためのよい特徴となる。
しかし、花期以前のロッゼットは3種とも同じ形をしていて、葉の表面には強い光沢があって区別できない。
したがって、晩秋から開花直前までは同定できないので注意を要する。
花期はツボスミレよりも遅く、ヒメアギスミレとほぼ同時期で長期間にわたって開花するが、花は小型で1cm以下で花数も少ない。
普通、ツボスミレは人為的影響の強い畦などの、やや湿った日なた〜半日陰の場所に、ヒメアギスミレは日陰の湿地に多いが、
アギスミレは早春に直射日光が当たり、夏になると大きな草本の下草になるような自然度の比較的高い湿地環境を好む。
他の2種と比較して、中型〜大型の湿生植物が生長してくると、それにあわせて茎が斜上または直立して伸びる傾向が著しい。
上の画像のものも、夏になると大型化するトダシバの株元に生育していた。
近似種 : ヒメアギスミレツボスミレ(ニョイスミレ)

■分布:北海道、本州(特に東日本)
■生育環境:湿地
■花期:4〜6月
■西宮市内での分布:北部の山中の湿地で見られるが、ツボスミレ(ニョイスミレ)やヒメアギスミレに較べて稀。
              また、ツボスミレ、ヒメアギスミと混生することはない。

Fig.3 全草の様子。(西宮市・休耕田の水路脇 2007.5/29)
  標本用に掘り上げた個体。草高は約45cm。茎は葉腋で分枝しながら立ち上がっている。

Fig.4 アギスミレの花。(西宮市・水辺湿地林内 2007.5/27)
  花茎は立ち上がる。花はツボスミレ、ヒメアギスミレとほとんど区別がつかない。

Fig.5 花冠の側弁の毛の様子。(西宮市・水辺湿地林内 2007.5/27)

Fig.6 種子。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2014.8/14)
  種子は卵形で、淡黄白色、長さ1〜1.3mm。

Fig.7 種子の拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2014.8/14)
  表面には非常に細かい縦の隆条が並んでいる。

Fig.8 花後のアギスミレ。(西宮市・用水路脇 2010.7/5)
  葉は3角状心形となり、茎は縦方向に伸びる。

Fig.9 秋期のアギスミレ。(西宮市・山中の湿地 2007.10/14)
  周辺の植物が伸びると、それにあわせるように縦方向に斜上して分枝し、四方にシュートを伸ばす。
  葉も葉柄を弛ませることなく、長く上方へ精一杯のばしているような印象を受ける。ヒメアギスミレでは、茎は斜上することなく地表を匍匐する。
  開花期を過ぎると、他のスミレ科植物同様、閉鎖花を盛んに付け、画像中にも閉鎖花の果実が点々と見られる。
  この頃の葉は、ヒメアギスミレに似てブーメラン状の葉に近づくが、どちらかというとV字形に近く、葉先が急角度でとがる点でも区別が付く。

Fig.10 早春のアギスミレ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.4/18)
  アギスミレの開花はスミレの仲間のうちでも遅いほうで、溜池土堤ではタチツボスミレやニオイタチツボスミレが開花していたが、
  アギスミレはまだ新しい根生葉を広げ始めたところだった。この時期の草体はヒメアギスミレと区別しがたい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 古い小さな溜池が放棄されて土砂が堆積してできたと思われる貧栄養な湿地に自生。(西宮市・湿地 2007.5/13)
湿地ではオオミズゴケの群落が発達し、そこにサワギキョウ、サワシロギク、ヒメシロネ、カサスゲ、ヤチカワズスゲ、ヌマガヤ、トダシバが繁り、
アギスミレは下草としてところどころに点在している。
湿地の周囲にはハンノキ林が発達し、幼木が湿地内にも多数みられ遷移が進みつつある。

Fig.12 ハンノキ、アカメヤナギを中心とした水辺湿地林内で生育するアギスミレ。(西宮市・水辺湿地林内 2007.5/27)
水辺湿地林のやや土壌が盛り上がり、抽水状態とはならない場所で、イグサ、エゾイヌゴマ、ミソハギ、ヒメオトギリ、ゴウソ、
アゼスゲ、タチスゲなどとともに混生している。
根茎によって密な群生をつくるアゼスゲ群落の部分にはあまり侵入できていなかった。
ここでは混生する湿生植物の生長とともに、茎を斜上している様子が観察された。

Fig.13 休耕田の湧水がにじみ出す水路脇で生育するアギスミレ。(西宮市・休耕田の水路脇 2009.5/29)
棚田最奥にある休耕田の水路脇が小湿地状となり、湿生植物が小群落をつくっている。
同所的にヤチカワズスゲ、マツバスゲ、ゴウソ、タチスゲ、オニスゲ、シカクイ、イグサ、ミズギボウシ、サワヒヨドリ、サワシロギクが生育する。
西宮市内では、アギスミレはこのように自然度の高い場所に出現する。
すぐ隣りの谷ではアギスミレは全く見られず、ヒメアギスミレばかりが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. ツボスミレ(ニョイスミレ). 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.251〜252. pl.230. 平凡社
村田源, 2004 ツボスミレ・アギスミレ. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.54. pl.14. 保育社
牧野富太郎, 1961 アギスミレ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 401. 北隆館
村田源. 2004. ツボスミレ・アギスミレ. 『近畿地方植物誌』 68〜69. 大阪自然史センター
いがりまさし. 2005. ニョイスミレ類. 『山渓ハンディ図鑑6 増補改訂 日本のスミレ』 46〜51. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アギスミレ. 『六甲山地の植物誌』 160. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平, 2003. 兵庫県産維管束植物5 アギスミレ. 人と自然・兵庫県立人と自然の博物館 14:139.

最終更新日:9th.Nov.2014

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