ヒメアギスミレ Viola verecunda  A. Gray  var. subaequiloba  (Franch. et Savat.) F. Maek.. スミレ科
湿生植物
Fig.1 (神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2010.5/31)

Fig.2 (神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2013.5/23)

丘陵部〜低山帯の半日陰〜日陰の湿地や溜池畔に生える多年草。ツボスミレの変種。
雑木林や植林された杉林内の林床で、オオミズゴケが群落をつくるような緩やかな沢筋や湿地帯では必ず目にする。
草体は良く似たアギスミレよりも小さく繊細で、茎はアギスミレのように斜上せずに匍匐し、節から発根する。
葉は越冬期では心形でロゼットをつくり、ツボスミレやアギスミレとは区別がつかない。
花期になると匍匐茎を這わせながら、葉身基部が深くえぐれたように貫入するが、表面には光沢がなく
淡緑色であることによりアギスミレと区別できる。
花期を過ぎると匍匐茎は広く地表を覆い、葉身はブーメラン状となり葉先はアギスミレのように急角度で突出しない。
花は唇形、径1cm未満で白色。下唇には濃紫色の条線が入る。

【メモ】 兵庫県維管束植物のリストではアギスミレとしてまとめられているが、本種は生育環境や生態も異なることから変種として
     分けて扱うことが望ましいと思われる。
近似種 : アギスミレツボスミレ(ニョイスミレ)

■分布:本州(愛知県以西)、四国、九州
■生育環境:低山〜丘陵部にかけての半日陰または日陰の湿地、溜池畔など。
■花期:4〜6月
■西宮市内での分布:市内では中〜北部の低山の沢筋や湿地、溜池畔などで見られる。

Fig.3 開花期のヒメアギスミレ。(西宮市・雑木林内の湿地 2010.4/26)
  茎は地表をはって伸び、節から花茎を立ち上げる。

Fig.4 匍匐茎によって地表にマット状に広がった大株。(神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2010.5/31)

Fig.5 花は径1cm未満で小型。花数も少なく、スミレ科の中ではあまり見栄えがしない。(西宮市・雑木林内の湿地 2007.5/12)

Fig.6 唇弁と側弁には紫色の条線があり、側弁には毛が生える。(西宮市・雑木林内の湿地 2007.5/12)

Fig.7 閉鎖花が結実した夏の草体。(神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2014.7/2)

Fig.8 やや未熟な種子。(神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2014.7/2)
  卵形で長さ約1.3mm。左の種子にはわずかにエライオソームがついている。

Fig.9 種子の拡大。(神戸市・雑木林内の沢の源頭部 2014.7/2)
  縦の隆条がはっきりしないのは未熟なためか。

Fig.10 花後の6月中旬に見られたヒメアギスミレの葉。(兵庫県三田市・渓流畔 2014.6/12)

Fig.11 夏〜秋、ヒメアギスミレの葉は見事にブーメラン状となる。(西宮市・谷戸奥の湿地 2006.9/18)
  長い披針形の葉と白い花はサワシロギクのもの。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 雑木林と植林地境界にある湿地状になった沢筋に生育するヒメアギスミレ。(西宮市・雑木林内の湿地 2007.5/12)
同様の環境を好むサトヤマハリスゲの株元に根を下ろしていた。
前年に匍匐茎を出して多くの種子を蒔いたのか、周囲には沢山の幼苗が見られた。

Fig.13 谷戸奥の小湿地で生育するヒメアギスミレ。(西宮市・谷戸奥の湿地 2010.4/26)
谷戸奥の林縁部に湧水によるオオミズゴケ群落を主とする小湿地が形成されており、オオミズゴケ群落中や細流脇にヒメアギスミレが生育している。
ここではショウジョウバカマ、ノギラン、ミズギボウシ、イボクサ、マメスゲ、ヒメコヌカグサ、ヒメシロネ、サワシロギク、イヌツゲ、キガンピなどとともに見られた。

Fig.14 植林地林下のオオミズゴケ群落周辺に生育するヒメアギスミレ。(西宮市・植林地林下の湿地 2009.5/25)
スギ植林地の沢筋の平坦地がオオミズゴケ群落の発達する日陰の湿地となっており、そこにサトヤマハリスゲ、ツルリンドウ、トウゲシバとともに生育していた。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 社寺境内の湧水のある石垣に生育するヒメアギスミレ。(神戸市・社寺境内 2010.5/31)
ホソバミズゼニゴケ、トヤマシノブゴケ、ツルチョウチンゴケなどの蘚苔類で苔むした多湿の石垣に点在していた。
半日陰的な環境で、ヌカボシソウ、トラノオシダ、アカショウマ、コアジサイやウツギの幼木などとともに見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. ツボスミレ(ニョイスミレ). 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.251〜252. pl.230. 平凡社
村田源, 2004 ツボスミレ・アギスミレ. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.54. pl.14. 保育社
牧野富太郎, 1961 アギスミレ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 401. 北隆館
いがりまさし. 2005. ニョイスミレ類. 『山渓ハンディ図鑑6 増補改訂 日本のスミレ』 46〜51. 山と渓谷社
池田博・黒崎史平・三木順一 2003. アギスミレ. 兵庫県産維管束植物5 スミレ科. 人と自然14:139. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Nov.2014

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