ツボスミレ(ニョイスミレ) Viola verecunda  A. Gray スミレ科 スミレ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・谷筋の疎林 2012.4/24)

Fig.2 (神戸市東灘区・湿った道端 2008.4/30)

水田の畦や溜池畔、湿地から湿った林道脇や草地まで、様々な場所で見られる多年草。
地上茎はやや這って斜上し、高さ5〜25cm。
葉身は扁心形または3角状心形で無毛かときにまばらな毛がはえる。長さ1.5〜3cm、幅2〜3.5cm。
托葉は緑色、披針形〜線状長楕円形、長さ7〜20mm、ほぼ全縁または少数の低い鋸歯がある。
花は径1cm程度と小さく、白色、唇弁には紫条があり、側弁には少し毛が生える。
本種は他のスミレ類に較べると花期は遅いほうである。
近似種 : アギスミレヒメアギスミレ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 台湾、朝鮮半島、満州、樺太、千島、中国
■生育環境:水田の畦、溜池畔、湿地、湿った道端や草地など。
■花期:4〜6月
■西宮市内での分布:中部の丘陵から北部にかけて普通に見られる。

Fig.3 半日陰の休耕田で生育する個体。(西宮市・休耕田 2007.5/5)
  市内産にしては比較的花数の多い個体。
  多雪地帯や高標高地のものほど花数は多い。

Fig.4 ツボスミレの花。(西宮市・湿った草地 2007.5/5)
  花は小さく1cm程度。唇弁には紫色の条線が入り、側弁には毛が生える。

Fig.5 花柱の様子。(西宮市・用水路脇 2007.5/17)
  柱頭は左右に張り出す。

Fig.6 側面から見た花。(兵庫県篠山市・河原 2009.4/9)
  距は短く、先はまるくふくらみ、ぼってりとしている。

Fig.7 ツボスミレの葉。(神戸市東灘区・湿った道端 2008.4/30)
  近縁種のアギスミレやヒメアギスミレのように基部は広く貫入せず、葉身は丸みを帯びた心形。
  葉先はとがるものもあれば、画像のように鈍頭となるものもある。

Fig.8 半日陰地で立ち上がった個体。(兵庫県三田市・用水路脇 2014.5/20)

Fig.9 花後の草体。(西宮市・渓流畔 2013.6/5)
  葉は少し大きくなるが、アギスミレのようなV字形や、ヒメアギスミレのようなブーメラン形にはならない。
  茎は斜上気味に広がり、草体はこんもりとした姿になる。

Fig.10 冬期の草体。(西宮市・小湿地 2010.12/20)
  茎は倒伏して多くは枯れ、数枚の根生葉が残り、基部には縮こまった新芽が見える。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 用水路脇の畦に生育するツボスミレ。(西宮市 2007.5/17)
定期的に草刈りが行われる場所で、同所的にカキドオシ、ヘビイチゴ、オニタビラコ、オオジシバリ、セリ、ヤマネコノメソウ、ヤブカンゾウ、
アキノタムラソウ、チドメグサなどが見られる。

Fig.12 湿った草地に生育するツボスミレ。(西宮市 2007.5/5)
一部で地下水が滲みだすような草地でスギナやヘビイチゴ、トウバナなどと混生。
周辺にはテキリスゲ、オタルスゲ、アオスゲ、ノゲヌカスゲ、キツネノボタン、ミツバ、イヌガラシ、メリケンガルカヤなどが見られる。

Fig.13 棚田の畦に生育するツボスミレ。(西宮市 2009.4/10)
クロカワズスゲ群落中にヨメナとともに生育している。

Fig.14 谷筋に群生するツボスミレ。(西宮市 2012.4/24)
谷筋の下刈りのなされる2次林の花崗岩の風化した斜面に群生している。
日当たりがよいので風化斜面の先駆的なナガバノモミジイチゴ、ウツギ、タニウツギやソヨゴ、ヒサカキの幼木などが生えるが、
登山道脇であるため適度に伐採され、明るい環境が保たれており、湧水がしみ出す場所も見らる。
周辺にはノギラン、マメスゲ、アリマイトスゲ、ヒカゲスゲ、クサスゲなどが生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 湧水の多い草地斜面に群生するツボスミレ。(兵庫県丹波市 2010.5/8)
山際の農道に面した日当たり良い半裸地状の湧水のある草地斜面に大きな群落が見られた。
生育箇所は湧水によって常に地表が濡れている場所で、ジャゴケ、ホソバミズゼニゴケ、ツルチョウチンゴケなどが地表を覆い、
そこにノイバラ、ニガイチゴ、ニガナ、ノミノフスマ、オトギリソウ、サワオトギリ、ヘクソカズラ、トボシガラなどとともに生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. ツボスミレ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.251〜252. pl.230. 平凡社
村田源, 2004 ツボスミレ・アギスミレ. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.54. pl.14. 保育社
牧野富太郎, 1961 ニョイスミレ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 400. 北隆館
いがりまさし. 2005. ニョイスミレ類. 『山渓ハンディ図鑑6 増補改訂 日本のスミレ』 46〜51. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アオガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 160. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ツボスミレ・アギスミレ. 『近畿地方植物誌』 68〜69. 大阪自然史センター
黒崎史平, 2003. 兵庫県産維管束植物5 ツボスミレ. 人と自然・兵庫県立人と自然の博物館 14:139.

最終更新日:25th.Nov.2014

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