アオコウガイゼキショウ
 (ホソバノコウガイゼキショウ)
Juncus papillous  Franch. et Savat. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市山口町・溜池畔 2006.9/24)
Fig.2 (兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/12)

溜池周辺や湿地、休耕田、河川敷などの明るい湿った場所に生育する多年草。
根茎の節間は短く、叢生し、茎は円筒状、またはやや扁円筒状で、単管質。直立、または斜上して高さ10〜30cmになる。
花茎には3〜4枚の茎葉がつき、花序枝は斜開して、多数の頭花をつけ、花序の最下苞は花序と同長か短い。
頭花は通常2〜6花まで。刮ハは狭披針形で先が嘴状にとがり、花被片の1.5〜2倍の大きさになる。雄蕊は花被片の1/2長。
別名はホソバノコウガイゼキショウで、同所的に見られることも多いハリコウガイゼキショウJ. wallichianus)よりも葉茎ともに細身で径2mm以下。

近縁種に山地性のニッコウコウガイゼショウ(J. nikkoensis)があるが、越冬芽を形成する地下茎が5cm以上、
アオコオガイゼキショウよりも小型で、雄蕊の長さは花被片と同長か長く、刮ハは披針形でアオコウガイゼキショウよりも太めな点で区別する。

【メモ】 人為的攪乱の多い水田ではほとんど見られない。休耕田で見かけることもあるが、そのような場所ではコウガイゼキショウよりも稀。
     湧水のある崩壊地や、砂防ダム内が湿地化していく過程では、コウガイゼキショウの次に出現することが多く、
     やがて湿地の環境が安定してくると近縁のハリコウガイゼキショウが出現してくるように思われる。
     イヌノハナヒゲ類、ヌマガヤ、トダシバ、カサスゲなどが密に群生している安定した湿原では個体数は少なく、
     湿地が攪乱から安定へ向かう比較的初期に一時的に繁栄する種であると考えられる。
     イノシシによる攪乱が頻繁に見られる比較的古い溜池畔や湿地では、ハリコウガイゼキショウが抽水状態で、
     アオコウガイゼキショウが岸辺に生育している光景を目にすることがある。

     ハリコウガイゼキショウに最も似るが、葉茎の太さや花序の小花の付き方、冬期常緑であるかないか、
     越冬芽の有無などで区別できる。
     だいたいにおいてハリコウガイゼキショウは水際を好み、溜池などでは抽水状態のものも多数見られるが、
     アオコウガイゼキショウは湿地上部の、表層を極浅い水が流れるような場所に多く見られる。

近似種 : ハリコウガイゼキショウタチコウガイゼキショウ、 ニッコウコウガイゼキショウ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 イグサ科イグサ属コウガイゼキショウ亜属の比較@ 単管質の仲間3種

■分布:日本全土、朝鮮半島、中国、シベリア東部
■生育環境:溜池畔、湿地、休耕田、河川敷など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:地方によっては絶滅危惧種だが、西宮市内では六甲山系の山麓付近から北部まで広く分布し、
              湿地や溜池畔で比較的普通に見られる。

Fig.3 果実期の草体。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/31)
  草体は大きくても30cm程度で、60cmにもなるハリコウガイゼキショウと比較すると繊細でか細い。
  花序の最下苞は花序よりもはるかに短い。花序には3〜数十個の頭花を付ける。

Fig.4 開花したアオコウガイゼキショウ。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/5)
  花期は7〜10月。雌蕊柱頭は3岐し、雄蕊3本で花被片の約1/2。雄蕊基部は刮ハ(子房)基部の3稜頂と接している。
 イグサ科の例にもれず、一日花で午前中に開花し、午後1時には閉じてしまう。

Fig.5 頭花は2〜8個の小花からなる。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/31)
 内花被片は外花被片よりもやや長いか、同長で、内外花被片ともに狭披針形で先はとがる。

Fig.6 赤く色づいた刮ハ。成熟する前の刮ハのためかやや痩せている。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/21)
 図鑑などでは「褐色を帯びる」と表現されるが、このような例外もある。

Fig.7 成熟途上の刮ハ。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/31)
 刮ハは3稜あり、花被片よりも長い。刮ハ先端部は嘴状に尖る。

Fig.8 成長期のアオコウガイゼキショウ。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.5/24)
 この時期の単管質の葉は、ハリコウガイゼキショウに較べて、はるかに細い。
  *注:一緒に写りこんでいる長披針形の葉はイネ科sp.のもの。他に、後方にモウセンゴケが見える。

Fig.9 休耕田で花序を上げ始めた個体。(西宮市・休耕田 2007.6/27)
 休耕田では同所的にヒロハノコウガイゼキショウ、コウガイゼキショウが見られたが、本種が最も少なかった。

Fig.10 特徴的な開花前の花序。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/31)
 このような繊細で細かな頭花を上げるのはアオコウガイゼキショウのほかには見られない。

Fig.11 倒れ込んだ茎から発根した状態。(西宮市・休耕田 2007.8/30)
 水際に生育するものの中には、茎が倒れ込み発根して子株をつくるものがある。
  このような状態のものは倒れ込んだ花茎の小穂から盛んに不定芽を形成しているのが観察される。
  画像のものも、小穂から不定芽を生じている。

Fig.12 アオコウガイゼキショウの葉とその縦断面。(自宅室内育成 2007.3/8)
  葉は単管質で明瞭な隔壁があり、隔壁は株元に向かってたわむ。画像では向かって右側が株元側になる。

Fig.13 葉の基部には明瞭な葉耳があり、膜質透明。(自宅室内育成 2007.3/8)

Fig.14 葉の表面には気孔がほぼ等間隔で縦に並ぶ。(自宅室内育成 2007.3/8)
  ハリコウガイゼキショウでは気孔列のうちの2列が接近しているものがあり、肉眼ではそれがうっすらとした条線に見える。

Fig.15 冬期に掘り上げた株。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.1/19)
  冬期には地上部は枯れて、立ち枯れた前年株の周りを取り囲むように越冬芽を付ける。
  越冬芽は10月頃には地下でつくられはじめる。
  前年の枯れた花茎は丈夫で、冬期にも残っていることが多い。  

Fig.16 冬期に地下部で見られる越冬芽。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.1/19)
  越冬芽はミョウガ状で赤味を帯び、カメノテ様に集合し、集合した越冬芽をよじれた地下茎に1〜複数個付ける。
  小さな株の場合は、集合した越冬芽を1つしか付けないものが多い。
  ハリコウガイゼキショウの場合は冬期も常緑のこじんまりとした株となり、このような越冬芽はつくらない。

Fig.17 割れて冬枯れた刮ハ。この状態でも同定は可能。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.1/19)
  刮ハは3稜ある。熟した刮ハは先端が嘴状に尖る。
  冬期に冬枯れた状態で、このような刮ハが残るものはヒロハノコウガイゼキショウがあるが、花茎が多管質である点で区別は容易。


Fig.18,19 アオコウガイゼキショウの種子。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.8/31)
  種子は楕円形で、長径は0.5mm程度。表面には明瞭な格子模様がある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.20 砂防ダム内にできた湿地に生育するアオコウガイゼキショウ。(西宮市・砂防ダム内湿地 2007.9/6)
市内では溜池畔や休耕田のほか、砂防ダム内でもよく見かける。砂質の湿地を好むのだろうか。
ここは細流に囲まれた中州状の場所で、ヤマイ、カワラスガナ、アブラガヤ、イグサ、タマコウガイゼキショウなどのカヤツリグサ科、
イグサ科の湿生植物が目立っていた。

Fig.21 古い砂防ダム直下の裸地に生育するアオコウガイゼキショウ。(西宮市・崩壊地の砂防ダム 2007.5/24)
少量の湧水が地表に滲み出し、落ち葉などの堆積物がない貧栄養な立地条件で、モウセンゴケとともに見られた。
画像上側の草地ではトダシバに混じって、ホソバリンドウ、ショウジョウバカマなどが見られる。

Fig.22 休耕田の用水路脇に生育するアオコウガイゼキショウ。(西宮市・棚田の休耕田 2010.9/20)
自然度の高い溜池直下の棚田がイノシシの撹乱によって耕作放棄され、草刈りに遭わなかったた、めかなり大きな株のアオコウガイゼキショウの開花が目立っていた。
アオコウガイゼキショウは素掘り水路と水田を隔てる畦にチゴザサ、イグサ、イヌシカクイ、サワヒヨドリ、アブラガヤ、キセルアザミ、ヌマトラノオ、ミズギボウシ、
イボクサ、ノミノフスマ、アゼガヤなどとともに生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.23 湿原内の攪乱地に生育するアオコウガイゼキショウ。(神戸市・湿原 2011.10/16)
かなり大きな規模の自然度の高い貧栄養な湿原内の攪乱地にアオウコウガイゼキショウが数個体かたまって生育していた。
湿原内には比較的小型の個体が散生しているが、攪乱地によく適応するアオコウガイゼキショウはここでは伸び伸びと生育し、大きな株となっている。
周辺にはケシンジュガヤ、イヌシカクイ、イヌノハナヒゲ、ミカヅキグサ、サギソウ、ヒメカリマタガヤ、イヌノヒゲ、シロイヌノヒゲなどが生育しているが、
攪乱地ではケシュンジュガヤも湿原内の他の場所のものに比べてやや大きく育っていた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982. イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       66〜71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.156〜167. pls.44〜45. 保育社
牧野富太郎, 1961 ホソバノコウガイゼキショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 824. 北隆館
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
長田武正・長田喜美子, 1984 アオコウガイゼキショウ. 『野草図鑑 3 すすきの巻』 p.28. pl.26. 保育社
近藤浩文, 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アオコウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アオコウガイゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 148. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
下田路子, 1983. ため池の水辺に生育する小型の「両性植物」について. 水草研究会会報 11:1〜3.
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. アオコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:111. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Nov.2014

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