ハリコウガイゼキショウ Juncus wallichianus  Laharpe イグサ科 イグサ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市・溜池 2007.7/1)

Fig.2 (兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2011.7/12)

湿地や溜池畔、湿田周辺の用水路などの湿地に生育する多年草。
やや古い大きな溜池で目にする機会が多く、抽水状態で生育しているものも多い。
茎は円筒状、または扁円筒状で直立し、高さ20〜60cm。茎葉は2〜3個つき円筒状単管質で、隔壁は明瞭、茎より短い。
頭花は多数つき、凹集散花序状になり、花序枝は斜上、または平開する。花序の最下苞は、花序よりもはるかに短い。
頭花は3〜6花からなり、花被片は外花被片より内花被片が少し長いか、ほぼ同長で、長さ3〜4mm、披針形で先はとがる。
雄蕊は3個あり、花被片のおよそ1/2長。雌蕊1個で、柱頭は3岐する。
刮ハは光沢があり、3稜状長楕円形〜披針形で、先はしだいにとがる。

湿地や水際に生育するものは、茎が倒れ込んで地表を這い、節から側芽を出して発根し、頭花には無性芽をつくることが多い。
また、冬期は矮小化するが常緑で越冬(西日本の例)し、地下にアオコウガイゼキショウのような休眠芽をつくらない。
近似種 : アオコウガイゼキショウタチコウガイゼキショウ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 イグサ科イグサ属コウガイゼキショウ亜属の比較@ 単管質の仲間3種

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 東アジア、インド、ヒマラヤ、オセアニア
■生育環境:湿地や溜池畔、湿田脇の水路など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:市内では中・北部の溜池に見られ、稀に水路や湿地でも見られる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・棚田の水路内 2010.7/5)
  水路内で高さ80cm近くに生育した大型の個体。多くの茎は倒れ込んでおり、基部寄りの節からは側芽が生じている。

Fig.4 溜池畔で抽水状態の成長期のハリコウガイゼキショウ。(西宮市・溜池畔の湿地 2007.4/20)
  常緑で越冬した後に上げる葉身は太くて柔らかい。葉は円筒形で単管質、径3mm前後。

Fig.5 花序を上げはじめた個体。(西宮市町・溜池畔の湿地 2007.5/31)
  開花期は常緑越冬したぶんだけアオコウガイゼキショウよりも早い。
  出現間もない花序は、アオコウガイゼキショウのような繊細さやか弱さはない。

Fig.6 花序。(兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2011.7/12)
  花序は凹集散状で、花序枝はよく分枝し、斜上または平開し、多数の頭花をつける。

Fig.7 頭花。(兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2011.7/12)
  頭花は3〜6花が扇状につく。

Fig.8 頭花の変異。(兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2011.7/12)
  きわめて稀にだが、小花が10個以上集まって球状の頭花をなすものが現われる。
  このとような変異が見られるものは花序枝の分枝が少ない。

Fig.9 開花したハリコウガイゼキショウ。(西宮市・湿田内の水路 2007.7/1)
  花被片は披針形で、先は鋭くとがる。
  雄蕊は3個つき、葯は長楕円形で、花糸よりも短い。
  雌蕊は1個で、柱頭は3岐、上部で捩れながら、やや平開する。
  開花はイグサ属の例にもれず午前中のみで、午後になると閉じてしまう一日花。

Fig.10 刮ハ。(西宮市・湿田内の水路 2007.7/1)
  内花被片は外花被片よりも少し長いか同長で、刮ハのおよそ3/4。
  刮ハは3稜状長楕円形〜披針形で、先端にむかって次第にとがる。

Fig.11 種子。(兵庫県篠山市・湿原 2014.8/14)
  種子は長楕円状の紡錘形、鉄さび色で、長さ約0.5mm。表面には明瞭な格子模様がある。

Fig.12 成長期の葉身。(西宮市・溜池畔の湿地 2007.5/31)
  太さは中部で3〜3.5mm。アオコウガイゼキショウよりもかなり太い。
  2列の気孔が接近している部分があり、肉眼ではその箇所が条線のように見える。
  アオコウガイゼキショウでは、このような2列の気孔列からなる条線は見られない。

Fig.13 葉身の縦断面。(西宮市・溜池畔 2007.1/19)
  葉身は単管質で、内部の仕切りは明瞭。
  仕切りには、アオコウガイゼキショウのような「たわみ」は見られない。

Fig.14 常緑で越冬するハリコウガイゼキショウ。(神戸市北区・溜池畔 2007.3/1)
  西日本では、冬期は矮小化して常緑越冬する。

Fig.15 冬期の基部と根茎。(西宮市・溜池畔 2007.1/19)
  根茎の節間は短く、多数の新芽が用意されており、アオコウガイゼキショウに見られるような越冬芽は形成しない。

Fig.16 倒れ込んだ茎の節に生じた側芽。(西宮市・溜池畔 2007.1/19)
  湿地や水際の大株の個体には、倒れ込む長い茎を生じるものがあり、節から側芽を出し、発根する。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 溜池で抽水状態で生育するハリコウガイゼキショウ。(西宮市・溜池畔 2007.7/1)
この仲間では抽水状態を好むほうである。これは常緑で越冬する場合、水中のほうが水温の変化が少ないためではないかと想像される。
この溜池ではシズイやチゴザサなどとともに抽水状態で生育している。
池畔にはシロイヌノヒゲ、イヌノヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、イヌノハナヒゲ、サワトウガラシ、サワギキョウ、ミミカキグサなどが生育する。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 溜池畔の湿原に生育するハリコウガイゼキショウ。(兵庫県小野市・溜池畔の湿地 2011.7/12)
ここでは表水がゆるやかに流れるチゴザサ、イヌノハナヒゲが優占する湿原に多数の個体が小群生している。
同所的にヤマラッキョウ、ミズギボウシ、イグサ、ノハナショウブ、ヤマサギソウ、カキラン、ミカワシンジュガヤ、コシンジュガヤ、イヌノハナヒゲ、
コマツカサススキ、アブラガヤ、コマツカサアブラガヤ、アゼスゲ、イヌシカクイ、コアゼガヤツリ、ヌマガヤ、トダシバ、カモノハシ、ヤノネグサ、
アキノウナギツカミ、ワレモコウ、ノイバラ、タヌキマメ、オミナエシ、ヌマトラノオ、ホソバリンドウ、スイラン、サワヒヨドリ、サワシロギク、
キセルアザミなどが生育し、非常に自然度の高い場所であった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       66〜71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.156〜167. pls.44〜45. 保育社
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ハリコウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 222. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ハリコウガイゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 148. 大阪自然史センター
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. ハリコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:112. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Nov.2014

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