タチコウガイゼキショウ Juncus krameri  Franch. et Savat. イグサ科 イグサ属
湿生植物

Fig.1 (兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)

湿地、溜池畔、河畔などの日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。
根茎の節間は短く、叢生する。茎は直立し、高さ30〜60cm、円筒状で径2mm内外となる。
茎葉は2〜3個、茎よりいちじるしく短く、円筒状で単管質、隔壁はごく明瞭。
頭花は多数つき、茎頂に凹集散状に集まる。最下の苞は円筒形、ふつう花序より長いが、短いこともある。
頭花は3〜10花からなる。花被片は長楕円状披針形で鋭頭、緑色で、長さ3〜4mm、内花被片は外花被片よりやや長い。
雄蕊は6個持つ集団と、3個持つ集団とがあり、花被片より短く、葯は卵形で花糸よりもいちじるしく短い。
刮ハは3稜状楕円形で褐色、先は鈍いが急に凸端になり、花被片と同長または少し長い。
種子は長楕円状の紡錘形で鉄さび色、長さ約0.5mm。
近似種 : ハリコウガイゼキショウアオコウガイゼキショウ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 イグサ科イグサ属コウガイゼキショウ亜属の比較@ 単管質の仲間3種

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国東北部、千島
■生育環境:湿地、溜池畔、河畔など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。比較的稀な種で、兵庫県下でも自生地は少ない。

Fig.2 全草標本。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  根茎は短い。茎は近縁のハリコウガイゼキショウやアオコウガイゼキショウよりも直立する傾向が強く、より長いことが多い。

Fig.3 基部。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  結実前の新鮮な茎の基部の鞘は赤紫色を帯び、葉耳はない。

Fig.4 葉鞘口部の葉耳。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  葉耳はほとんど突出せず、口部に幅狭く広がり、膜質。

Fig.5 花序。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  花序は茎頂につき、直立した中軸の節間が長く伸びるが、それに対して分枝した花序枝は短く、そこに頭花がやや密につくため、
  外見上は2段の凹集散状の花序を構成しているように見える。

Fig.6 頭花。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  頭花は3〜10個の小花からなる。刮ハは3稜状楕円形で褐色、先は鈍いが急に凸端になり、花被片と同長または少し長い。

Fig.7 果実形成期の小花。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  花被片は長楕円状披針形で鋭頭、緑色。刮ハは花被片と同長または少し長い。
  画像からは刮ハの先が急に凸端となっているのがわかる。

Fig.6 花被片。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  内花被片(左)と外花被片(右)。花被片は長楕円状披針形で鋭頭、緑色で、長さ3〜4mm。
  この個体は3個の雄蕊を持つ集団で、外花被片の内側に雄蕊が付いている。
  雄蕊は花被片よりも短く、葯は花糸よりもいちじるしく短い。

Fig.7 種子。(自宅植栽 2014.8/17)
  種子は長楕円状の紡錘形で鉄さび色、長さ約0.5mm。格子模様は不明瞭で、縦の隆条のみが明瞭。

Fig.8 偽胎生。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
  結実後の頭花から多数の芽生が見られた。これらのクローンは花茎が枯れて倒伏して発根するのだろう。

生育環境と生態
Fig.9 河川氾濫原の湿地に湛水状態で生育するタチコウガイゼキショウ。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/22)
大河川下流部の中州にある湿地のアシ群落の縁に、タチコウガイゼキショウがかたまって生育していた。
アシ群落の境界部ではタチコウガイゼキショウとともにシロバナサクラダデ、ウシノシッペイ、カモノハシ、ヤブマメ、トウオオバコが生育している。
アシ群落境界部から農道に移行する湛水しない場所ではヒメコウガイゼキショウ、クサイ、ホソイ、コゴメガヤツリ、タマガヤツリが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982 イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.66〜71. pls.60〜64. 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159〜167. pls.44〜45. 保育社
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜247. 神奈川県立生命の星・地球博物館
牧野富太郎, 1961 タチコウガイゼキショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 824. 北隆館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タチコウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. タチコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:110. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Nov.2014

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