アゼオトギリ Hypericum oliganthum  Franch. et Sav. オトギリソウ科 オトギリソウ属
湿生植物  環境省絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県摂津・水田の畦 2010.8/15)

水田の畦や用水路脇などに生える多年草。
茎は数本叢生し、よく分枝し、茎・枝ともに匍匐し、立ち上がると高さ10〜40cm程度となる。
葉は倒卵形または長楕円形、鈍頭、長さ13〜25mm、基部は狭まり、多少茎を抱く。
葉身には明点がほぼ均等に密に入り、葉縁には黒点が密に並ぶ。裏面は白色を帯びる。
花序は少数の花からなり、茎の先と枝の先に出る。花柄は長く、花よりはるかに長い。
苞は小型で葉状。萼片は披針形で、やや鈍頭、明腺が走り、さらに黒点が入り、縁には黒点がある。
花弁は長楕円形で、長さ7〜8mm、黒点と明点が入り、縁に少数の柄のない黒色腺球がつく。
雄蕊は少ない。花柱は長さ1.4〜1.6mmで、子房より短い。
刮ハは丸みを帯びて大きめで、長さ6.5mm、幅5.5mm。

形態・生育環境ともによく似たものに サワオトギリH. pseudopetiolatum)があり、用水路脇などに普通に見られる。
萼片や花弁に黒点はなく、花弁の長さ3.8〜6mmと小さい。
近似種 : サワオトギリオトギリソウ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州 ・ 朝鮮半島南部
■生育環境:水田の畦、用水路脇、溜池土堤など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内での生育は確認しておらず、兵庫県下でも自生地は少ない。

Fig.2 開花初期のアゼオトギリ。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.8/15)
  茎や枝の先に少数の花からなる花序をつける。

Fig.3 アゼオトギリの花。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.8/15)
  花はよく似たサワオトギリに比べるとかなり大きく、よく目立つ。開花はふつう晴天の午前中で、昼過ぎにはしぼんでいることが多い。
  萼片には明腺と黒点がある。花弁には明点と黒点があって、縁にも小さな球状の黒点がある。

Fig.4 地表を匍匐する茎と枝。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.9/16)
  刈り込みに遭って草体が痛んでいる。

Fig.5 アゼオトギリの葉。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.9/16)
  葉は倒卵形または長楕円形、鈍頭、基部は狭まり、多少茎を抱く。

Fig.6 アゼオトギリの葉裏。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.9/16)
  表面より白味を帯びる。強い日差しで明点が不明瞭な画像となってしまった。来年度に撮り直したい。

Fig.7 刮ハ。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.9/16)
  サワオトギリよりも大きな球形で、赤紫色を帯びることが多い。
  中央の刮ハは裂開しており、中の種子が見えている。

Fig.8 種子。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.9/16)
  種子は長楕円形、茶褐色で長さ0.7〜0.9mm、縦に1隆条があり、表面には格子紋がある。
  一部の種子には突起を持つものがあった。

生育環境と生態
Fig.9 水田の畦に生育するアゼオトギリ。(兵庫県摂津・水田の畦 2010.8/15)
比較的頻繁に草刈りされる畦の斜面にわずか数株が生育している。湿地よりも草丈の低い多湿な草地を好むようである。
定期的に草刈りの行われるような場所にしか生育できず、もともと自生地が少ないうえに棚田の放棄により減少している。
ここではヨモギ、コウゾリナ、キツネノマゴ、オヘビイチゴ、チドメグサ、チガヤなどの畦畔植物とともに生育しており、
アゼオトギリも本来は畦畔雑草的な性質を持つものであろう。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
籾山泰一, 1982. オトギリソウ科オトギリソウ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.113〜118. pls.110〜113. 平凡社
城川四郎. 2001. オトギリソウ科オトギリソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 733〜738. 神奈川県立生命の星・地球博物館
矢原徹一. 1998. アゼオトギリ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 327. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アゼオトギリ. 『六甲山地の植物誌』 126. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アゼオトギリ. 『近畿地方植物誌』 69. 大阪自然史センター
兵庫県, 2010. アゼオトギリ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落)』 42. (財)ひょうご環境創造協会.

最終更新日:3rd.Dec.2010

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