アゼスゲ Carex thunbergii  Steud. カヤツリグサ科 スゲ属 アゼスゲ節
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市・農道脇湿地 2007.5/17)

Fig.2 (兵庫県丹波市・溜池畔 2013.4/23)

アゼスゲの名のとおり、比較的環境良好な水田の畦や休耕田、中栄養な溜池畔・湿地に生育する多年草。低湿地の植生を形成する重要種。
農耕地周辺の湿った場所に良くみられ、日当たりのよい場所を好む。
地中に細長い根茎を横走させて群生し、時に休耕田などを一面に覆うこともある。
日陰に群生するものはあまり花茎を付けず、根茎を伸ばして殖える傾向があるようだ。

地下には横走する根茎があり、まばらに叢生する。
基部の鞘は褐色、または紫褐色の部分があり、その葉身の縁は内曲する。葉幅1.5〜4mm。
花茎は20〜80cmになり、頂部に3〜5個の小穂をつける。花序の頂小穂1〜2個は雄性で、側小穂は雌性。
雌小穂は長さ1.5〜5cm、幅3〜4.5mmの円柱形で、ときに先端部に雄小穂がつく。
雌鱗片は側面が黒紫色で、中肋は緑色、鈍頭で果胞より短いものから、鋭頭で果胞よりながいものまで変異に富む。
果胞は長さ3〜3.5mm、平滑で細い脈があり、嘴は短く、口部は平切形か、わずかに凹頭。
痩果は果胞に密に包まれ、倒卵形で長さ約2mm。雌蕊柱頭は2岐する。
近似種 : ヤマアゼスゲタニガワスゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 千島、サハリン
■生育環境:休耕田、用水路脇、中栄養な湿地、池畔
■花期:4〜5月
■西宮市内での分布:市内中部〜北部に広がる水田周辺や休耕田、湿地で普通に見られる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・棚田休耕田 2010.5/16)

Fig.4 基部と根茎。(西宮市・棚田休耕田 2010.5/16)
  基部の鞘は褐色。地中には細長い横走根茎がある。

Fig.5 花序の様子。(西宮市・棚田休耕田 2007.4/30)
 普通、頂小穂は雄性で側小穂は雌性だが、この個体の側小穂は長い雌小穂の上に小さな雄小穂がついている。
  このような現象はスゲ属のうちのアゼスゲ節に含まれる種にはよく見られる。

Fig.6 雌小穂の拡大。(西宮市・棚田休耕田 2007.4/30)
  鱗片は黒紫色〜紫褐色で中肋は緑色。
  この個体の場合は果胞よりも鱗片が短いが、果胞と鱗片が同長のもの、果胞よりも鱗片が長いものなど変異に富む。

Fig.7 果胞(左)と未熟な種子(右)の拡大。(西宮市・棚田休耕田 2007.4/30)
  果胞は長さ3〜3.5mm。嘴は短く、口部は平切形か、わずかに凹頭。
  痩果は果胞に密に包まれ、ほぼ円形。頂部は短い嘴状となる。  

Fig.8 開花中のアゼスゲ。(西宮市・棚田休耕田 2007.4/30)
  2岐する雌蕊の柱頭が良く目立つ。柱頭は花粉を受け止めるたに長くのびて毛を密生し、風媒花の特徴をよく表している。

Fig.9 溜池畔で大きな株を作るアゼスゲ。(西宮市・溜池畔 2007.4/30)
  ちょうど開花中で、葯の淡褐色、雌蕊の白、鱗片の黒紫色、若葉の淡緑色の組み合わせが美しい。

Fig.10 溜池で沈水状態のアゼスゲ。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/23)
  稀に完全に水没した沈水状態の個体を見かけることがある。
  この溜池では、この個体の全草が表水上に出るような干上がった状態は見たことがない。
  アゼスゲは長期水没にたいしてかなりの耐性があるようで、水深約30cmまで生育可能という。

Fig.11 冬期は常緑〜半常緑越冬する。(兵庫県三田市・溜池畔 2009.1/7)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 耕作放棄されて3,4年経た棚田の一画を占有するアゼスゲ。(西宮市・棚田休耕田 2007.4/30)
湛水しない部分に好んで生育しており、カサスゲ群落中には点々とヒメシダ、サワヒヨドリ、ヌマトラノオが見られる。
画像の右上のような湛水状態の場所にはアゼスゲはみられず、コジュズスゲの株が点々と生え、ミソハギ、ヤナギタデ、イボクサ、
ヒデリコ、メアゼテンツキ、セリが生育している。

Fig.13 水田の畦に自生するアゼスゲ。(西宮市・棚田 2007.4/30)
このような場所に生育する個体は刈り込みに頻繁にあうために、草丈は20cm程度と低く頑強に育ち、地下の根茎はよく発達する。
同じ畦にはアゼスゲよりやや早くミツバツチグリ、スミレ、カンサイタンポポ、スズメノヤリやクロカワズスゲが開花し、
アゼスゲと同時期にはヘビイチゴやウマノアシガタ、オオジシバリ、ツボスミレなどが開花する。
周辺の小川ではアゼスゲと良く似たスゲで大株をつくるタニガワスゲが生育していた。
里山の二次的自然環境が色濃く残っている美しい棚田だ。

Fig.14 水辺湿地林内で群生するアゼスゲ。(西宮市 2007.5/27)
ハンノキとアカメヤナギにより日射が遮られた湿地内の一画で密に群生しているが、日なたに生育するものに較べて花茎が少ない。
アゼスゲ群落には若干のミソハギやヤノネグサ、アキノウナギツカミが混生する程度で、純群落に近い。


【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. アゼスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.164. pl.145. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科スゲ属アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社
牧野富太郎, 1961 アゼスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 784. 北隆館
勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館
勝山輝男, 2005. アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123. 文一総合出版
谷城勝弘, 2007. スゲ属アゼスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 46〜56. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アゼスゲ. 『六甲山地の植物誌』 248. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. アゼスゲ. 『近畿地方植物誌』 161. 大阪自然史センター
辻盛生・軍司俊道, 2005. アゼスゲ・カサスゲ人工群落における地上部及び根茎の特徴. すげの会会報 11:27〜32.
辻盛生, 2006. 水辺緑化と水辺植物の地域性種苗, 亀山章(監)・小林達明・倉本宣(編)『生物多様性緑化ハンドブック』
      229〜245. 地人書館
辻盛生, 2006. スゲ属植物による水辺エコトーンの特性と水辺緑化技術の応用. 莎草研究 12:71〜78.
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. アゼスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:160.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:8th.Mar.2014

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