タニガワスゲ | Carex forficula Franch. et Sav. | カヤツリグサ科 |
湿生植物 |
Fig.1 (兵庫県丹波市・溜池畔 2010.5/14) |
||
Fig.2 (兵庫県篠山市・渓流畔 2013.5/22) 日なた〜半日陰の渓流中の岩上や大きな石の隙間、細流の脇、山間の溜池畔などに生育する多年草。 根茎は短く、密に叢生し株をつくる。基部の鞘は葉身を欠き、濃褐色で糸網を生じる。葉幅2〜4mm。 花茎は30〜70cmになり、頂部に3〜6個の小穂をつける。頂小穂は雄性で、側小穂は雌性で直立し、長さ2〜5cmの円柱形。 雌鱗片は側面が黒紫色で、中肋は緑色、果胞より短い。果胞は長さ3〜3.5mm、平滑で嘴は長く、縁に小歯があり、口部は鋭く2裂する。 痩果は果胞に密に包まれ、倒卵形で長さ約2mm。雌蕊柱頭は2岐する。 アゼスゲ(C. thunbergii var. thunbergii)やヤマアゼスゲ(C. heterolepis)に似るが、密に叢生して画像のような大株となることが多く、 葉はアゼスゲに比べて硬くざらつく感じがある。ヤマアゼスゲとは果胞の嘴が長く、その縁に小歯があることで区別がつく。 大株になると大変花付きがよく、多数の花茎をあげ、ひと目でアゼスゲやヤマアゼスゲと区別がつく。 近似種 : アゼスゲ、 ヤマアゼスゲ ■分布:北海道西南部、本州、四国、九州、対馬 朝鮮半島、中国北部 ■生育環境:低山地の渓流に多く、里山でも見られる。 ■花期:4〜5月 ■西宮市内での分布:北部の棚田脇を流れる小川で、十数株が確認できた。市内ではやや稀。 |
||
↑Fig.3 タニガワスゲの花序。(兵庫県三田市・里山の溜池直下の細流 2007.5/11) 頂小穂は雄性。側小穂は3〜6個付け雌性で直立する。 |
||
↑Fig.4 雌小穂 (兵庫県三田市・里山の溜池直下の細流 2007.5/11) 鱗片は周辺部が黒紫色で中肋は緑色、果胞よりも短い。 |
||
↑Fig.5 果胞と鱗片。(兵庫県三田市・里山の溜池直下の細流 2007.5/11) 果胞は扁平で長さ3〜3.5mmで種子を密に包む。楕円形で長い嘴があり、嘴の縁には小歯があり、口部は鋭く2裂する。 画像の果胞は長さ3.5mm。 他種との明瞭な区別点である嘴の縁の小歯は、種子が熟す頃には脱落しているものも多く、注意を要する。 |
||
↑Fig.6 基部。(兵庫県三田市・里山の溜池直下の細流 2007.5/11) 基部の鞘は濃褐色で糸網を生じる。 |
||
↑Fig.7 開花中の個体。(兵庫県丹波市・渓流畔 2014.4/9) 鱗片と葯、柱頭のコントラストが美しい。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.8 棚田脇の細流に生育するタニガワスゲ。(西宮市・棚田脇の細流 2011.6/1) 周囲にはゼンマイ、ドジョウツナギ、アマザミ、ワレモコウ、オニスゲなどが生育する。 前日に大雨が降って水かさが増し、流れに翻弄された跡がある。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.9 山間の谷池の池畔に生育するタニガワスゲ。(兵庫県丹波市・溜池畔 2010.5/14) 山間部の溜池では流れ込み付近によく群生しているものが見られる。 ここでは同所的にミヤマシラスゲ、オタルスゲ、ヤマアゼスゲ、タカネマスクサ、シラコスゲ、タチスゲ、クサスゲ、キクムグラ、アケボノソウ、 ヘビイチゴ、オヘビイチゴ、ニョイスミレ、ミヤマチドメ、マツカゼソウ、クラマゴケなどが見られた。 |
||
Fig.10 里山の小河川にキンキカサスゲとともに生育するタニガワスゲ。(兵庫県篠山市・渓流畔 2013.5/22) 丹波地方の里山の小河川によく見られる光景で、谷戸の奥の流れに特に多い。 そのような場所ではキンキカサスゲとともに生育することが多く、岩混じりとなるとナルコスゲと生育していることが多い。 |
||
【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. タニガワスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.164. pl.145. 平凡社 小山鐡夫, 2004 アゼスゲ節. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.298〜303. pl.75. 保育社 勝山輝男. 2001. スゲ属アゼスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 453〜456. 神奈川県立生命の星・地球博物館 勝山輝男, 2005 アゼスゲ節. 『日本のスゲ』 92〜123 文一総合出版 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タニガワスゲ. 『六甲山地の植物誌』 244. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. タニガワスゲ. 『近畿地方植物誌』 156. 大阪自然史センター 黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. タニガワスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:146. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:12th.Aug.2014 |