エゾノサヤヌカグサ Leersia oryzoides  (L.) Swartz. イネ科 サヤヌカグサ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (西宮市山口町・休耕田 2007.10/11)

休耕田、水田の畦、用水路や河川敷などに生育する多年草。抽水状態で生育していこともある。
全体に繊細で、美しい草姿の部類に入るが、稲の病気を媒介することもあり駆除もやっかいな水田害草として著名。
葉鞘や節には粗い毛があってざらつき、高さ50〜80cm。葉は広線形、長さ15〜25cm、幅8〜12mm。
河岸などで抽水状態のものは、茎を横に広げて水面を覆い、稈を立ち上げる。この場合、稈の下部は斜上し、上部は直立する。
花序は円錐花序で長さ10〜30cmで、穂先は少し垂れる。小穂は長さ4〜6mm、幅約2mmでサヤヌカグサよりも丸みを帯び、
内穎の縁毛は粗く長い。小花の雄蕊は3個つく。

近縁種にサヤヌカグサL. sayanuka )があるが、当地ではエゾノサヤヌカグサのほうが自生地、個体数ともにはるかに多い。
近似種 : サヤヌカグサアシカキ

■分布:日本全土 ・ 北半球の温帯域
■生育環境:休耕田、水田の畦、用水路、河川敷など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部の水田周辺や河川敷、用水路などに普通。

Fig.2 素掘りの小さな用水路などでは、全面を覆い尽くすように群生することがある。(西宮市山口町・用水路 2007.10/11)

Fig.3 円錐花序で、花序枝は細く斜開して付き、下部1/3には小穂はない。(西宮市山口町・河川敷 2007.10/11)
  稀に花序下部の小穂は、葉鞘に包まれたまま閉鎖花となることがある。

Fig.4 花序枝に付いた小穂は苞穎がなく1小花よりなり、稲籾によく似ている。(西宮市山口町・水田の畦 2007.10/11)
  小穂の長さは幅の3倍長で、楕円形。護穎背面は弧状で縁毛が生え、内穎の縁毛は剛長。
  近縁種のサヤヌカグサでは護穎の背が弧状に湾曲することはなく、直線状となり、縁毛は短い。

Fig.5 葉鞘や節の部分には、下向きの粗い毛が生える。(西宮市山口町・水田の畦 2007.10/11)
  稈上部の節では、更に多くの毛を密生する。

Fig.6 葉舌は1〜1.5mmで、あまり目立たない。(西宮市山口町・水田の畦 2007.10/11)
  葉耳部分は赤紫色を帯びることが多い。(サヤヌカグサでは淡緑色。)

Fig.7 稈が立ち上がり、出穂しはじめたエゾノサヤヌカグサ。(西宮市山口町・休耕田 2007.10/11)
  繊細な草体が夕日を浴びて美しい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 水田の用水路にツルヨシ、ミゾソバなどとともに生えるエゾノサヤヌカグサ。(西宮市山口町・用水路 2007.10/11)
この場所では、初夏にはアゼスゲ、クサヨシなどが開花する。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 小河川の河畔でシロネとともに群落をつくるエゾノサヤヌカグサ。(岡山県真庭市 2007.9/23)
水際には外来種のオランダガラシ(クレソン)がはびこっていたが、在来種もまだまだ健在だった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎,1982 イネ科サヤヌカグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       pp.108〜109. pls.92〜93. 平凡社
北村四郎・村田源・小山鐡夫, 2004 イネ科サヤヌカグサ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.342〜343. pls.88. 保育社
長田武正・長田喜美子, 1984 サヤヌカグサ・アシカキ. 『野草図鑑 3 すすきの巻』 pls.114. pp.116. 保育社
大滝末男, 1980 アシカキ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 170〜171. 北隆館
角野康郎, 1994 イネ科サヤヌカグサ属. 『日本水草図鑑』 pp.65. pls.67. 文一統合出版
藤本義昭. 1995. イネ科サヤヌカグサ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 140〜142. 藤本植物研究所
佐藤恭子. 2001. サヤヌカグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 262〜263. 神奈川県立生命の星・地球博物館
桑原義晴, 2008 サヤヌカグサ属. 『日本イネ科植物図譜』 pp.294〜299. pls.23. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. エゾノサヤヌカグサ. 『六甲山地の植物誌』 232. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. エゾノサヤヌカグサ. 『近畿地方植物誌』 177. 大阪自然史センター

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