サヤヌカグサ Leersia sayanuka  Ohwi イネ科 サヤヌカグサ属
湿生〜抽水植物
Fig.1 (兵庫県養父市・用水路脇 2010.10/11)

湿地や林縁の湿った場所、用水路脇などに生える多年草。抽水状態で生育することも多い。
同属のエゾノサヤヌカグサL. oryzoides)と混同されやすい。
エゾノサヤヌカグサと較べ、自生地、個体数ともに少なく、エゾノサヤヌカグサが日当たりのよい水田の畦や休耕田、用水路などを好むのに対して、
サヤヌカグサはより自然度の高い湿地や棚田周辺の用水路脇、半日陰の溜池畔などで見かけることが多い。

根茎は短く、茎は下部では横に這い、時に節から発根した後、斜上または直立する。
葉は広線形で薄く、斜上する毛がまばらに生えざらつく。葉鞘には下向きの細かい毛がまばらに生え、節では下向きの毛を密生する。
草体はエゾノサヤヌカグサに較べてほっそりとして弱々しい。
円錐花序は単一で直立し、長さ10〜30cm、エゾノサヤヌカグサのように穂先を垂れることはなく、下方が鞘に包まれて閉鎖花となることが多い。
小穂には苞穎がなく、線状長楕円形で、長さ4.5〜6mm、幅約1.5mmと細長く、縁には短い剛毛がある。小花の雄蕊は3個。

似た種にアシカキL. japonica)があり、本州、四国、九州の水湿地に稀に生える。
小穂は花序枝のほぼ基部付近からつき、花序は長さ6〜13cmと小型で、小穂は長さ4.5〜6mm、幅1.5〜1.7mm、雄蕊は6個ある。
葉舌はサヤヌカグサやエゾノサヤヌカグサに比べて明瞭。

サヤヌカグサは小穂が小さく、草体もほっそりとしているため、自生地で満足な画像が撮れたことがない。
また、持ち帰る際に小穂の多くが落脱したりと撮影にはなかなか手を焼かせる種だ。
自生環境を背景とした画像撮影は来年の課題としたい。
近似種 : エゾノサヤヌカグサアシカキ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:湿地や湿った林縁、用水路脇など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部の湿地や用水路脇などに分布するが個体数は少なく、エゾノサヤヌカグサに較べてはるかに稀。

Fig.2 円錐花序は単一で、直立する。(西宮市・湿った林道上 2007.10/21)

Fig.2 小穂は花序枝に嵌め込み状に付き、開出しない。(西宮市・湿った林道上 2007.10/21)
  小穂は1両性小花からなり、苞穎は退化して見られない。

Fig.3 葉舌は0.5mm程度で、ほとんど目立たない。(西宮市・湿った林道上 2007.10/21)
  葉には両面ともに斜上する毛が生え、ややざらつく。毛は表側はまばらで、裏面はやや密に生える。

Fig.4 葉鞘には下向きの毛がまばらに生え、ざらつく。(西宮市・湿った林道上 2007.10/21)
  節には下向きの長い毛が密に生える。葉耳は淡緑色。

Fig.5 小穂の拡大。(西宮市・湿った林道上 2007.10/21)
  小穂の苞穎は退化し、護穎と内穎が1両性小花を包み、表面には短い毛がまばらに生える。
  護穎の背は湾曲せずに直線的で、内穎先端曲部の縁に短い剛毛がまばらに生える。
  エゾノサヤヌカグサの護穎の背は湾曲し、内穎の剛毛も長く、ルーペで小穂を確認すれば容易に区別がつく。

Fig.6 成熟した小穂(左)と種子=穎果(右)。(西宮市・中栄養な湿原 2007.10/21)
  成熟した小穂は稲籾に似る。
  「鞘糠草」の名のとおり、大半の小穂は不稔のまま、あるいは熟す寸前に脱落することが多いが、少量ではあるが立派に結実する。
  護穎と内穎を取り除いた穎果は長楕円形、平滑で光沢があり飴色。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.7 用水路脇で見られたサヤヌカグサ。(西宮市 2007.10/21)
すでに開花最盛期を過ぎ、小穂はかなり落剥してしまっている。
オートフォーカスの小さなデジカメでは、接近してマクロで花序の一部を捉えるのが精一杯だ。
この用水路脇は初夏にはドジョウツナギの花序で埋まる、二次的自然度の高い場所である。
すぐ脇ではやや花期の過ぎたヤノネグサが群生していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎,1982 イネ科サヤヌカグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.108〜109. pls.92〜93. 平凡社
北村四郎・村田源・小山鐡夫, 2004 イネ科サヤヌカグサ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.342〜343. pls.88. 保育社
長田武正・長田喜美子, 1984 サヤヌカグサ・アシカキ. 『野草図鑑 3 すすきの巻』 pls.114. p.116. 保育社
大滝末男, 1980 アシカキ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 170〜171. 北隆館
角野康郎, 1994 イネ科サヤヌカグサ属. 『日本水草図鑑』 p.65. pls.67. 文一統合出版
藤本義昭. 1995. イネ科サヤヌカグサ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 140〜142. 藤本植物研究所
佐藤恭子. 2001. サヤヌカグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 262〜263. 神奈川県立生命の星・地球博物館
桑原義晴, 2008 サヤヌカグサ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.294〜299. pls.23. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サヤヌカグサ. 『六甲山地の植物誌』 232. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. サヤヌカグサ. 『近畿地方植物誌』 177. 大阪自然史センター
藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. サヤヌカグサ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:189. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Oct.2010

<<<戻る TOPページ