オグルマ Inula britannica  L.
  subsp. japonica  (Thunb.) Kitam.
キク科 オグルマ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (滋賀県・休耕田 2012.9/7)

日当たりの良い湿地、水田の畦、休耕田、用水路脇などに生育する多年草。
根茎を横走させ群生する。茎は直立し、高さ20〜60cm、根生葉や茎下部の葉は花時には枯れている。
茎葉は広披針形から長楕円形で鋭頭、基部はなかば茎を抱き(茎上部で顕著)、長さ5〜10cm、幅1〜3cm。
茎はふつう上部の葉腋からよく側枝を出し、茎頂や枝先に数個の頭花をつける。
頭花は黄色、径3〜4cm、ときに直下に苞葉がある。頭花の柄には上向きの長白毛が密にある。
総苞は半球形で長さ7〜8mm、片は5列でやや同長、外片は披針形で中部以上は緑色、縁に短毛がある。
痩果は長さ約1mm、10肋があり、有毛。冠毛は長さ5mm、毛は細くてやや同長でざらつく。

四国・九州に分布する変種エダウチオグルマ(var. ramosa)は高さ1mに達し、葉は線状披針形〜披針形で幅15〜20mm。頭花の径35mm。
ホソバオグルマ(subsp. linariaefolia)は花時に下部の葉が残り、線形〜線状披針形で幅10mm以下、縁は下面に巻き込む。頭花は径18〜25mm。冠毛の長さ3mm。
オグルマとホソバオグルマの推定種間雑種にサクラオグルマI. × yosezatoana)がある。両種も中間的な形質を持ち、関東〜東海地方に知られる。
カセンソウI. salicina var. asiatica)は草原性で、葉の裏面に主脈以外の網状脈が凸出、開出毛がある。頭花の柄には開出毛があるか、ほぼ無毛。痩果は無毛。
ミズギクI. ciliaris)は花時にもさじ形の根生葉が残る。頭花はふつう茎頂に単生。総苞外片は狭長楕円形で、有毛。痩果は長さ1.5mm、まばらに毛がある。
花が似るキオン属のサワオグルマSenecio pierotii)やオカオグルマS. integrifolius subsp. fauriei)は、
いずれも開花期が4〜6月の春から初夏にかけてであり、秋期に開花するオグルマとは区別できる。
近似種 : エダウチオグルマ、 ホソバオグルマ、 カセンソウ、 ミズギク、 サワオグルマオカオグルマ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:日当たりのよい湿地、休耕田、水田の畦、用水路脇など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:分布しない。兵庫県内でも比較的稀な湿生植物。

Fig.2 葉。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
  茎葉は広披針形から長楕円形で鋭頭、基部はなかば茎を抱き、長さ5〜10cm、幅1〜3cm。
  葉縁は下面側には巻き込まず、まばらに微鋸歯がある。よく似たホソバオグルマは葉縁が下面側に巻き込む。
  葉質はよく似たカセンソウよりもやわらかく、網状脈部分は凹まない。

Fig.3 葉裏。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
  葉脈は主脈・側脈以外の網状脈部は凸出しない。葉裏には伏毛が密生し、白味を帯びる。
  カセンソウの葉裏には開出毛が生える。

Fig.4 開花したオグルマ。(京都府綾部市・農道脇 2013.8/19)
  茎はふつう上部の葉腋からよく側枝を出し、茎頂や枝先に数個の頭花をつける。

Fig.5 総苞。(神戸市・水田の土手 2013.9/27)
  総苞は半球形で長さ7〜8mm、片は5列でやや同長、外片は披針形で中部以上は緑色、縁に短毛がある。
  頭花の柄には上向きの長白毛が密にある。よく似たカセンソウの頭花の柄には開出毛があるか、ほぼ無毛。

Fig.6 頭花。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
  頭花は黄色、径3〜4cm、ときに直下に苞葉がある。最外縁には雌性の舌状花が並び、先に3歯がある。
  新鮮な頭花の舌状花の幅はカセンソウよりもやや幅広く、乱れが少なく整っている。

Fig.7 訪花昆虫の多いオグルマ。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
  イチモンジセセリが訪花していた。蝶は脚が長いので、この仲間の花の葯や柱頭にあまり触れる機会はないだろう。

Fig.8 オグルマを訪花したハナアブの仲間。(神戸市・休耕田 2013.10/5)
  アブの仲間は蜜を吸う際に、葯や柱頭にしっかり触るので、有効なポリネーターとなる。
  左はオオハナアブ、右はキゴシハナアブ。

Fig.9 果実形成期。(神戸市・休耕田 2013.10/22)

Fig.10 痩果と冠毛。(神戸市・休耕田 2013.10/22)
  痩果は長さ約1mm、10肋があり、有毛。カセンソウの痩果は無毛で、有効な区別点となる。
  冠毛は長さ5mm、毛は細くてやや同長でざらつく。
  画像の痩果は結実しているのだろうか? 痩果はとても小さく、一見結実しているのか不稔なのか解らない。

Fig.11 根生葉。(滋賀県・水田の畦 2012.10/1)
  根生葉はほぼ無柄で、長楕円形。茎葉よりも大きく、茎を上げると枯れる。
  草刈りの頻繁に行われる畦や土手には根生葉しか見られない場合も多く、画像のものはおそらく1株から根茎が伸びて広がったもの。
  花茎を上げているものの周囲には、ふつうこのような根生葉のみのシュートが多数見られることが多い。
  画像の根生葉は多くが直立〜斜上しているが、これは地下水位が高いためで、土手などのものは多くの葉が接地してロゼットとなる。

Fig.12 晩秋のロゼット。(兵庫県加東市・水田の畦 2013.11/21)

生育環境と生態
Fig.13 休耕田に生育するオグルマ。(神戸市・休耕田 2013.9/8)
公園予定地内で刈り残されて保護されている集団。周辺には3倍ほどの面積で根生葉のみのシュートが占めている。
根茎を伸ばして四方に殖えるため、水分条件も良好なため、今後も殖え続けるだろう。

Fig.14 休耕田の畦で開花したオグルマ。(滋賀県・休耕田 2012.9/7)
地下水位が高く、湛水状態となっている休耕田の畦の部分に群生していた。例年のように水田となっていれば、刈り込みに遭っていただろう。
休耕田にはヤナギタデ、チョウジタデ、アメリカセンダグサ、タウコギ、ヘラオモダカ、キクモ、キカシグサ、コナギ、イボクサ、タイヌビエ、
ミズガヤツリ、クログワイ、ヒメミズワラビなどのほか、シソクサ、マルバノサワトウガラシなどの稀少種も多数生育していた。
畦や隣接する休耕田ではコバノカモメヅル、ナガバノウナギツカミなども生育していた。

Fig.15 農道脇に生育するオグルマ。(京都府綾部市・農道脇 2013.8/19)
農家の土手と農道の間にある、小さな素掘りの溝に沿ってオグルマが生育し、点々と花茎を上げていた。
土手のほとんどはコヒルガオに覆われ、素掘りの溝にはチドメグサ、イボクサ、キツネノボタン、セリ、イヌビエなどが生育している。
オグルマとともに生育しているのはメヒシバで、農道脇を優占していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. キク科オグルマ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.203〜204. pl.177. 平凡社
牧野富太郎, 1961 オグルマ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 635. 北隆館
大場達之. 2001. キク科オグルマ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1384〜1385. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. オグルマ. 『六甲山地の植物誌』 207. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. オグルマ. 『近畿地方植物誌』 24. 大阪自然史センター
小山博滋・黒崎史平・高野温子 2007. オグルマ. 兵庫県産維管束植物8. 人と自然17:170. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:2nd.Aug. 2014

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