ハナビゼキショウ Juncus alatus  Franch. et Savat. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・小湿地 2007.5/27)

Fig.2 (神戸市・休耕田 2013.5/19)

Fig.3 (兵庫県稲美町・用水路 2014.6/20)

休耕田、農耕地周辺の湿地、山野の湿地や湿った草地に生える多年草。
環境が安定した湿地や溜池畔などよりも、人為的攪乱やイノシシによる攪乱を受けるような湿地環境に多い。
茎は叢生し、扁平で、2稜形、稜上は広い翼となり、高さ25~40cm、幅2~4.5mm。
葉は著しく扁平、剣状線形で鋭尖頭、幅2~5mm、多管質、隔壁は明瞭であまり外に見えない。葉耳はごく小さい。
花序は凹集散状、数個~やや多数の頭花をつくり、各頭花に4~10花ある。最下苞は葉状で花序よりも短い。
花被片は披針形、緑色、鋭尖頭、長さ3~3.5mm、内片と外片はほぼ同長またはわずかに長い。雄蕊6個、花被片の約2/3長、葯は短い。
蒴果は3稜状長卵形で先端凸頭、赤褐色を帯びて光沢があり、長さ約4mm。花被片より長い。種子は倒卵形で、長さ約0.5mm。

ときにコウガイゼキショウヒロハノコウガイゼキショウに著しく似る個体があるが、細部を観察することによって区別可能。
特に蒴果の先端が凸形となるのはイグサ属では本種とタチコウガイゼキショウ以外にはなく、茎の幅広い翼とあわせて区別は容易な部類である。
コウガイゼキショウ(J. lesschenaultii)は茎の翼が狭く、雄蕊3個で花被片の1/2~1/3長。蒴果の先端は凸頭とはならずやや鋭頭。
ヒロハノコウガイゼキショウ(J. diastrophanthus)は茎の翼は狭く、隔壁ははやや不明瞭、頭花はややまばらな星状、雄蕊は3個。
蒴果は長さ約5mm、先はしだいに細くなって嘴となってとがり、花被片より少し長い。
ハナビゼキショウの名の起こりは、花序が他種よりも多数分枝して沢山の小穂を付ける姿から起こったもので、
蒴果や花被片が赤く色づくことによったものではない。
近似種 : コウガイゼキショウヒロハノコウガイゼキショウ


■分布:本州、沖縄
■生育環境:休耕田や攪乱を受ける湿地。
■花期:5~7月
■西宮市内での分布:市内では丘陵地~北部の里山まで見られるが個体数は少ない。

Fig.4 全草標本。(西宮市・農道脇小湿地 2010.6/3)
  根茎は短く叢生する。草体はふつうコウガイゼキショウよりも大型。葉は長剣状に少し反る。

Fig.5 花茎と花序。(西宮市・小湿地 2007.5/27)
  花序は良く分枝して先端に4~7個の小花を持った小穂を付ける。小穂は半円~扇形で球形にはならない。
  花序の最下苞は花序よりも短く、花序の1/3~2/3程度であることが多い。
  茎は2稜で著しく扁平。稜に顕著な翼を持ち、陽に透かして見ると翼の部分や葉に多管質の仕切りが見える。

Fig.6 茎の拡大。(西宮市・小湿地 2007.5/27)
  翼では多管質の仕切り部分が隆起している様子が観察される。

Fig.7 小花の拡大。(西宮市・休耕田 2007.5/5)
  画像のようにハナビゼキショウでは外花被片の先端付近が赤味を帯びるが、コウガイゼキショウやヒロハノコウガイゼキショウ、
  ヒメコウガイゼキショウなど、多くの種で赤味を帯びることがあり、同定の決定打とはならないので注意を要する。
  雌蕊の柱頭は紅色を帯び3岐し、雄蕊は6本。
  雄蕊6本のうち3本は子房(のちの蒴果)の3稜直下から生じ、他の3本は子房の辺の部分の直下から生じる。
  雌蕊の3岐した柱頭先端は稜の直下から生じた雄蕊に最も近付き、3岐した各柱は、まるで辺の直下から生じた3本の雄蕊に
  できるだけ近付こうとするように外側に向かって湾曲している。
  花は一日花で午前中に開花し、午後1時には閉じてしまう。

Fig.8 閉じつつある小花。(兵庫県篠山市・林道脇小湿地 2009.6/4)
  画像は午後1時半頃に撮影したもので、花は閉じつつある。3岐した紅色のS字状の柱頭が目立ち、ハナビゼキショウであると解る。

Fig.9 結実期の花序。(兵庫県三田市・休耕田 2008.6/17)
  結実期の花序につく蒴果は赤味をおびることが多い。

Fig.10 色付いている蒴果。強い光沢があり3稜形。(三田市・湿った草地 2007.6/23)
  内花被片と外花被片はほぼ同長で、蒴果の2/3程度の長さ。
  ハナビゼキショウは他種と比較して小花の長さが短く、蒴果は横に幅広い印象を受け、他種よりも寸詰まりに感じられる。
  蒴果の先端部は比較的急にすぼまり、終端は凸形となって終わる。
  画像では残存した葯の外郭が花被片からのぞいているのがわかる。

Fig.11 果実期の末期。(西宮市・小湿地 2007.8/19)
  蒴果の先端部が開いて大半の種子はこぼれ落ちているが、この時期の蒴果の形からでも同定は可能。
  開いた蒴果内には不稔の種子が多く残存するが、完全な種子も確認することができた。

Fig.12 ハナビゼキショウの種子。(西宮市・小湿地 2007.8/19)
  種子は0.4~0.5mmで卵状楕円形で、他種よりもやや寸胴に見える。色は鉄錆色。
  種子表面の格子模様は隆起が低く、他種と較べて不明瞭。
  画像中のへこんでいる種子は胚乳の充実していない不稔のもの。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 管理休耕田で点々と生育するハナビゼキショウ。(西宮市・休耕田 2007.5/17)
この休耕田では、周囲の水田への病害虫の拡散や種子散布による水田雑草の拡散を防除するためか、
2~3ヶ月に1度トラクターが地表を攪乱する。
時期的には大型のイネ科水田雑草の花期に行われ、初夏のヒエガエリ、イチゴツナギの開花時期、夏場のタイヌビエ、イヌビエ、
アゼカヤの開花期、秋にはカヤツリグサ科の草本が生長してくるとトラクターが入ってくるようだ。
しかし、湛水状態で小さな草本がある場所までは掘り返すことはなく、そこで小型の水田雑草が生きながらえていて、
ある時期になると一斉に繁茂したりもする。
そのような比較的攪乱を受ける場所でも、ハナビゼキショウは通年確認されるので、湛水~適湿の状態で生育でき、攪乱後でも
すぐに発根できるような体制を持っているのだろう。
画像では半裸地の休耕田の面積をできるだけ占拠しようとする、放射状に葉茎を広げるハナビゼキショウが点々と見られる。
他に多年草草本ではイグサ、セリ、マツバイが目立ち、キカシグサ、コナギ、イボクサ、チョウジタデ、アゼナ、ノミノフスマ、
スズメノテッポウ、ヒデリコ、ヒメクグ、ヒナガヤツリ、タマガヤツリ、テンツキ、イヌビエなどの1年草水田雑草から、ミゾソバ、
アキノウナギツカミ、ヤナギタデ、ノアザミ、イチゴツナギ、ミゾイチゴツナギといった休耕田に一般的な種などが消長を繰り返している。

Fig.14 画像中央の右部分の線形の草体がハナビゼキショウ。(西宮市・小湿地 2007.5/27)
生育場所は広い尾根上に付けられた送電線の鉄塔管理用林道脇で、滲み出す湧水でできた小湿地。
付近にはあちこちでイノシシによる攪乱が見られる。
踏みつけの多い箇所にはクサイが生育し、ハナビゼキショウが生育する林道脇周辺ではイグサ、ヤマイ、モエギスゲ、アオスゲ、
トダシバ、イヌノハナヒゲ、ヒメカリマタガヤ、ニガナなどの草本が同所的に生育している。
このような競合する種が多い場所ではハナビゼキショウは横に広がらずに縦に伸び、茎の両側に翼を発達させる傾向が強くなる。
画像でも引いた位置から撮影したにもかかわらず、茎の両側に発達した翼が確認できる。

Fig.15 湧水のある農道脇に生育するハナビゼキショウ。(西宮市・農道脇 2010.6/21)
比較的自然度の高い棚田周辺の小湿地や、農耕地周辺の日当たり良い小湿地に出現することも多い。
休耕田と水田がモザイク状に並ぶ棚田の、ヨシが繁る休耕田の斜面下部に湧水があり、そこに数個体が点在している。
この斜面にはアキカラマツ、クルマバナ、ワレモコウ、ナンテンハギ、スズサイコ、タツナミソウ、ケショウアザミなどが見られ、
ハナビゼキショウは斜面下部の多湿な場所にチドメグサ、ウマノアシガタ、マツバスゲ、ヤブマメなどとともに生育する。

他地域での生育環境と生態
Fig.16 休耕田で生育するハナビゼキショウ。(神戸市・休耕田 2013.5/19)
山間棚田下部のかなり広い休耕田で、やや乾いた場所から常時湛水している場所など様々な水分条件の場所がある。
ハナビゼキショウはいずれの水分条件の場所でもイグサやホソイとともにかなりの個体の生育が見られた。
抽水状態となる場所ではホナガヒメゴウソ、ハリイ、ムツオレグサ、スズメノテッポウ、イボクサ、タガラシ、キツネノボタン、セリ、ムシクサなどと生育。
やや乾いた草地状の場所ではスギナ、アワボスゲ、ヒメミコシガヤ、タチスゲ、ヤワラスゲ、クサスゲ、マスクサ、ウマノアシガタ、シロツメクサ、
セイタカアワダチソウなどとともに見られた。
水分条件の中間的な場所ではイヌシカクイ、ヒメミコシガヤ、ゴウソ、タチスゲ、イボクサ、ミゾソバ、サイコクヌカボ、キツネノボタン、オヘビイチゴ
などとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
       66~71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159~167. pls.44~45. 保育社
牧野富太郎, 1961 ハナビゼキショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 823. 北隆館
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240~246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ハナビゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ハナビゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. ハナビゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:109. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:15th.Nov.2014

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