コウガイゼキショウ Juncus leschenaultii  Gay. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (大阪府・河川敷 2013.5/15)

Fig.2 (西宮市山口町・休耕田 2007.6/27)

水田の畦、休耕田、用水路、溜池畔などの湿地に生える多年草。
イグサ科イグサ属のコウガイゼキショウの仲間のうちでも、もっとも普通にみられる。
根茎の節間はごく短く、叢生する。
茎は高さ15〜40cmになり、扁平で多管質、2稜あり、やや未発達な狭い翼を持つ。翼は稜の片側だけに見られることもある。
葉は扁平で葉幅3mm前後で、多管質。根生葉では線形、茎につくものは剣状線形で、長さ8〜15cm。葉耳は膜質半透明で小さい。
花序は凹形の集散花序で、多数の小穂をつける。花序の最下苞は花序よりもはるかに短い。
小穂は普通4〜7花からなり、扇状。
花被片は線状披針形で先は長くとがり、内外花被片はほとんど同長で長さ4〜5mm。
雌蕊柱頭は屈曲しながら斜上し、3岐する。
雄蕊は3個で、外花被片の1/2弱。葯は花糸よりも短く1/4程度。
刮ハは3稜あり、披針形で鋭頭、花被片よりも少し長いか同長。
種子は鉄錆色で0.6mm前後。

低地の湿地で生育するものでは以下の2種がよく似る。
ハナビゼキショウ(J. alatus)は茎が著しく扁平で翼が広く、雄蕊6個で花被片の2/3長。刮ハは光沢が強く、先端は凸頭となる。
ヒロハノコウガイゼキショウ(J. diastrophanthus)は茎の翼は狭く、隔壁ははやや不明瞭、葉幅は約5mm。頭花はややまばらな星状、雄蕊は3個。
刮ハは長さ約5mm、先はしだいに細くなって嘴となってとがり、花被片より少し長い。
近似種 :ヒロハノコウガイゼキショウハナビゼキショウ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄、西表島 ・ 朝鮮半島、中国、インド、ヒマラヤ、シベリア東部、カムチャッカ
■生育環境:水田とその周辺の湿地、溜池畔など。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:市内では中部から北部の棚田にかけて普通。平野部の水田では見られない。

Fig.3 花序は盛んに分枝し、扁平な花茎よりも長くなることがある。(西宮市塩瀬町名塩・水辺湿地林内 2007.5/27)
  花序の最下苞は短く、小穂は扇状に小花をつける。

Fig.4 裸地では叢生する茎と根生葉を放射状に広げる。(西宮市鷲林寺町・水田脇湿地 2007.4/29)

Fig.5 棚田の休耕田の水路内では必ずといっていいほどコウガイゼキショウの生育が見られる。(西宮市鷲林寺町・休耕田水路 2007.4/29)

Fig.6 開花したコウガイゼキショウ。(西宮市塩瀬町名塩・水辺湿地林内 2007.5/27)
  内外花被片はほとんど同長で、披針形。先端はとがる。
  雌蕊柱頭は3岐して螺旋状に展開しながら斜上する。
  雄蕊は3本で、花被片の1/2強で、葯は花糸の1/3〜1/4程度。

Fig.7 花序を展開しはじめたコウガイゼキショウ。(西宮市鷲林寺町・水田脇湿地 2007.4/29)
  画像のように、花茎は時として片側の翼だけを発達させることがある。
  同様な性質はハナビゼキショウにも見られ、開花個体が見られない際には、刮ハを調べるなどの注意が必要である。

Fig.8 帯化現象により大型化した刮ハと、小穂に現れた不定芽。(西宮市甲山町・池畔 2007.5/31)
  不定芽が現れる条件は、今のところ確定できていない。
  これまで観察した経験からは、帯化現象が現れる個体には、必ず不定芽が現れている。
  このことは、不定芽出現には帯化現象が現れる要因と、なんらかの関係があることを思わせる。

Fig.9 晩秋に紅葉した草体。(西宮市山口町・休耕田 2008.11/23)
  コウガイゼキショウの花期は長く、初夏から秋まで連続的に開花・結実が見られる。
  画像の個体も頭花に不定芽を形成しているものがある。

Fig.10 冬期に食害を受けた個体。(西宮市塩瀬町名塩・水田 2008.2/25)
  冬期の湿地や休耕田などに行くと、よくこのような食害が見られる。食害の主はノウサギだろうか?

Fig.11 発根しはじめた不定芽。(兵庫県篠山市・池干しされた溜池底 2009.2/11)
  不定芽は春になると枯れきって倒れこんだ花序に付着したまま発根しはじめる。
  不定芽の発根はふつう4月頃に見られるが、ここでは表層につねに地下水が流れていて、水温が一定しているためか、
  早くも2月に発根が見られた。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 中栄養な池畔に広がる湿地林内に見られたコウガイゼキショウ。(西宮市塩瀬町名塩 2007.5/27)
湿地林内の日当たりのよいチゴザサ群落の外側の、表層を浅い水が流れるような場所に、ミゾソバ、サンカクイとともに生育していた。

Fig.13 棚田の休耕田でヒロハノコウガイゼキショウ(左)とともに見られたコウガイゼキショウ(右)。(西宮市山口町・休耕田 2007.6/27)
葉茎の幅の違いが著しい。
花期はヒロハノコウガイゼキショウよりもかなり早く、ヒロハノコウガイゼキショウが花序を展開しつつある時期には、結実を迎えていた。

Fig.14 晩秋の休耕田で紅葉した群生。(西宮市山口町・休耕田 2008.11/23)
休耕田の夏期には湛水している部分で群生している。ここでは同じ条件の場所で他にコケオトギリ、チョウジタデが多く生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       66〜71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159〜167. pls.44〜45. 保育社
牧野富太郎, 1961 コウガイゼキショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 824. 北隆館
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コウガイゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 148. 大阪自然史センター
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. コウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:110. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.May.2013

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