ヒロハノコウガイゼキショウ Juncus diastrophanthus  Buchen. イグサ科 イグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/31)

比較的、二次的自然度の高い地域の休耕田や溜池畔、水路脇に生える多年草。
茎は直立、または斜上し、2稜形で多管質、両側に狭い翼があり、高さ15〜40cmになる。
葉は扁平な多管質で、剣状線形、幅約5mm、隔壁はやや不明瞭、ときに表面に皺を生ずる。
花序は7〜十数個の頭花からなり、頭花は星状またはまばらな球状で、3〜12個の小花からなる。花序の最下苞は花序よりも短いか、同長。
刮ハは披針形で、先端ですこしすぼまる。花被片は線状披針形で、長さ3〜4mm、内花被片が少し長く、刮ハの1/2前後。
雄蕊は3個、花被片の約1/2長。種子は長さ約0.4mm、紡錘状楕円形で鉄さび色。

低地の湿地で生育するものでは以下の3種がよく似る。
変種のタマコウガイゼキショウ(var.togakusiensis)は花序に頭花を2〜5個と少数つけ、頭花は球状で多数の小花を密生する。
ハナビゼキショウ(J. alatus)は茎が著しく扁平で翼が広く、雄蕊6個で花被片の2/3長。刮ハは光沢が強く、先端は凸頭となる。
コウガイゼキショウ(J. lesschenaultii)は茎の翼が狭く、葉幅は約3mm。雄蕊3個で花被片の1/2〜1/3長。刮ハの先端はやや鋭頭。
近似種 :コウガイゼキショウタマコウガイゼキショウハナビゼキショウ

■分布:北海道、本州、九州、四国、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国
■生育環境:水田とその周辺の湿地など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では主に、北部の棚田の休耕田で見られるが、自生地、個体数ともに少ない。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池跡の湿地 2010.7/24)
  植物体は叢生する。茎は直立または斜上し、コウガイゼキショウのように地表に放射状に広がらない。
  高さ40cm内外。葉は剣状線形。

Fig.3 花茎。(西宮市山口町・休耕田 2007.8/30)
  花茎は多管質で扁平、2稜形で、稜には狭い翼がある。
  花序は7〜数十個の頭花からなる。花序の最下苞は花序よりも短いか、同長。画像のものは短い。

Fig.4 花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/31)
  花序につく頭花はまばらでやや不完全な球状、または星状で、3〜12個の小花からなる。
  コウガイゼキショウやハナビゼキショウの頭花は、小花を扇形に展開することにより区別できる。

Fig.5 開花した小花。(兵庫県豊岡市・湿地 2011.7/27)
  花被片は線状披針形で、内花被片は外花被片より少し長く、雄蕊は3個、花被片の約1/2長。

Fig.6 刮ハは披針形で、先端部で少しすぼまり、鋭頭。(西宮市山口町・休耕田 2007.8/30)
  花被片は線状披針形、鋭頭で、内花被片のほうが少し長く、刮ハの1/2前後。


Fig.7,8 種子。(西宮市山口町・休耕田 2007.8/30)
  種子は長さ約0.4mm、楕円形で、鉄錆色。表面には横長の格子模様がある。

Fig.9 茎は2稜あり、両側に翼がつくが、ハナビゼキショウよりも狭い。(西宮市山口町・休耕田 2007.8/30)
  剣状線形の葉には、皺が生じているのがわかるが、タマコウガイゼキショウほど顕著ではない。
  葉耳は膜質白色で狭い。

Fig.10 花序を広げはじめた開花間近いヒロハノコウガイゼキショウ。(西宮市山口町・休耕田 2007.6/27)

Fig.11 大株となって叢生するヒロハノコウガイゼキショウ。(兵庫県篠山市・池干しされた溜池 2008.7/27)

Fig.12 果実期終盤のヒロハノコウガイゼキショウ。(西宮市山口町・休耕田 2007.8/30)

Fig.13 ヒロハノコウガイゼキショウ(右)とコウガイゼキショウ(左)。(大阪府・河川敷 2013.5/15)
  ヒロハノコウガイゼキショウとコウガイゼキショウは同所的に生育していることも多い。
  開花・結実ともにコウガイゼキショウの方が早く、左のコウガイゼキショウは開花中であるが、右のヒロハノコウガイゼキショウはまだ花茎を上げていない。
  両種の葉幅の違いは、こうして並んで生えているとよく解る。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 休耕田内にできた浅い水路脇に生育するヒロハノコウガイゼキショウ(画像手前)。(西宮市山口町・休耕田 2007.6/27)
同様な立地にはキツネノボタンが生え、浅い流水のある部分にはアゼスゲ、ヤナギタデ、チゴザサなどが群生する。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 休耕田内に群生するヒロハノコウガイゼキショウ)。(兵庫県小野市・休耕田 2011.7/12)
ヒロハノコウガイゼキショウは攪乱によって維持されるような、肥沃な湿地環境に多い。
したがって、雑草防除のため年1〜2回程度耕起される管理休耕田や、改修直後の中〜やや富栄養な溜池畔などで群生が見られる。
ここではヤノネグサ、タイヌビエ、タケトアゼナ、ヒデリコ、ヒメヒラテンツキとともに群生している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       66〜71 平凡社
村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159〜167. pls.44〜45. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヒロハノコウガイゼキショウ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 825. 北隆館
関口克己. 2001. イグサ科イグサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 240〜246. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒロハノコウガイゼキショウ. 『六甲山地の植物誌』 221. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヒロハノコウガイゼキショウ. 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター
千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. ヒロハノコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:109. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Nov.2014

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