タマコウガイゼキショウ | Juncus diastrophanthus Buchen. var. togakusiensis (Lev.) Murata. |
イグサ科 イグサ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.8/5) |
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Fig.2 (西宮市・溜池畔 2010.9/20) 湿地や溜池畔に生える多年草。ヒロハノコウガイゼキショウの変種である。 分布域は近畿以北となっており、生育環境から、氷河期の遺存種として隔離分布している種であるかもしれない。 イグサ科のこの仲間は非常に似た種が多く、多くは関心を得られないまま、コウガイゼキショウと見做されているような感じをうける。 根際より多数の扁平で多管質の葉を叢生する。葉は春〜初夏にかけては基部付近が赤味を帯びるものがあるが、花期以降は赤味を帯びない。 花茎は多管質、2稜あり両側に翼が発達し、斜上する。高さ15〜25cm。葉は剣状線形で多管質、幅約5mm。 花序は凹形の集散花序で、3〜5個の頭花を付ける。最花苞は花序よりもやや短いか同長。 頭花は多数の小花をひしめきあうようにして付け、球形。 小花には6枚の花被片があり、内花被片と外花被片は同長で約4mm、線状披針形で、先端は鋭頭。 雌蕊柱頭は3岐し、雄蕊3個で、花被片の2/3強、葯は花糸の2/3程度の長さがある。 刮ハは長さ約5mm、3稜あり長卵状披針形で先はとがり、花被片よりも少し長い。 花期になると、花茎とは別に横走または倒伏する茎を出し、節から側芽を盛んに生じて、やがて側芽は発根する。 また、小穂は盛んに芽生するが、芽生したクローン株は小穂に固着して、花茎が枯れても脱落することはなく、そのまま越冬し、 翌年の春に発根して生長をはじめる。 ヒロハノコウガイゼキショウ、ハナビゼキショウ、コウガイゼキショウに似るが、頭花が球状で、花が密生することで区別がつく。 近似種 :ヒロハノコウガイゼキショウ、 コウガイゼキショウ、 ハナビゼキショウ ■分布:本州(?) ■生育環境:溜池畔、渓流畔、湿地など。 ■花期:6〜9月 ■西宮市内での分布:市内では中部の砂防ダム内の湿地と、北部の溜池畔と計2ヶ所で同種と思われるものを確認している。 生育環境はいずれも自然度が高い場所であり、ヒロハノコウガイゼキショウのように休耕田では見られない。 |
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↑Fig.3 全草標本。(西宮市・溜池畔 2010.9/21) 茎は扁平で翼があり、葉は剣状扁平で多管質。節から側芽を生じ、頭状の花序からは芽生する。。 |
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↑Fig.4 花序には2〜5個と、少数の頭花がつく。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.6/27) 頭花は小花が多数ひしめきあうように付いて球状となり、コンペイトウやヒメクグの花序を思い起こさせる。 |
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↑Fig.5 花序の最下苞は花序と同長か短い。(西宮市・溜池畔 2007.8/2) 逆光で見ると、茎の翼部分や葉の多管質の仕切りが明瞭に見える。 |
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↑Fig.6 開花した小花。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.8/5) 内花被片と外花被片は同長、線状披針形で先端は鋭頭。 雌蕊柱頭は3岐し螺旋状に屈曲しながら斜上し、細かい毛を密生する。 雄蕊は3本、内外花被片よりも短く2/3強、葯は花糸の2/3程度の長さ。 小花は1日花で、開花するのは午前中だけ。正午には閉じてしまっていることが多い。 |
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↑Fig.7 刮ハは長卵状披針形で先はとがり、花被片よりもやや長い。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.7/19) 頭花は多数の小花からなり、密に集合する。 |
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↑Fig.8 葉耳は膜質半透明でやや大きく明瞭。(西宮市・溜池畔 2007.7/1) 茎は扁平で2稜あり多管質。稜には顕著な翼を持ち、翼の大きさはヒロハノコウガイゼキショウと同等かやや狭い。 葉は扁平で、多管質。皺を生ずるものが多い。 |
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↑Fig.9 初夏の成長期の様子。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.5/5) この時期の草体はヒロハノコウガイゼキショウやハナビゼキショウと区別し難い。 |
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↑Fig.10 花茎を上げ、開花間近の個体。(西宮市・溜池畔 2007.7/1) |
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↑Fig.11 盛夏の頃からは、頭花から盛んに芽生する。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.8/31) 芽生したクローンは親株の頭花の花床にしっかりと固着して、脱落するような様子はない。 |
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↑Fig.12 夏が終わりに近づく頃には茎を地表に伸ばし、節から花茎や側芽を出す。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.8/31) 節から生じた側芽は、やがて発根する。 |
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↑Fig.13 多数発根し、常緑で越冬する側芽。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.1/19) |
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↑Fig.14 芽生したクローンは頭花から落ちずに、外側の葉を枯らしてそのまま越冬する。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.1/19) 枯れた葉に保護されるように中に小さな新芽が形成されており、その部分は常緑。 これらのクローン株は翌春、水分の充分ある場所のものは発根・出芽して再生する。 |
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↑Fig.15 春になって目覚めた前年度形成されたクローン株。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.5/5) 画像左側のクローン株基部には前年度の頭花の残骸が見える。 |
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↑Fig.16 タマコウガイゼキショウの種子。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.1/19) 長さ約0.4mmで楕円形、鉄錆色。表面には隆起の明瞭な格子模様が見られる。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.17 砂防ダム内にできた湿地にヘラオモダカとともに群生するタマコウガイゼキショウ。(西宮市 2007.8/2) 砂防ダムが完成したのは1976年であり、それほど長い年月は経ておらず、流域には湿地は存在しない。 同じ場所に見られるフトヒルムシロやイトモも含め、いったいこれらの植物はどうやってここまでやって来たのか、興味はつきない。 他には、アシ、ツルヨシ、ヒエガエリ、ハイコヌカグサ、ニコゲヌカキビ、コブナグサ、ヤマイ、ハリイ、ホタルイ、カワラスガナ、ウシクグ、 アブラガヤ、アズマナルコ、オタルスゲ、イグサ、クサイ、コウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、ホソバリンドウ、アケボノソウ、 オオイヌタデ、ヒメガマなど、外来種も含め多様な植生が見られる。 低い尾根を越えた眼と鼻の先の崩壊地にはモウセンゴケやイヌノハナヒゲの群落が見られるが、ここには生育が見られないのも不思議だ。 |
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Fig.18 砂防ダム湿地内に見られるイノシシによる攪乱の跡と、タマコウガイゼキショウ(中央上)。(西宮市 2007.8/2) このような光景は、イノシシが種子散布の媒介者として大きな役割を担っていることをうかがわせる。 多数のヒメガマが倒壊しており、イノシシはどうやらヒメガマの根茎か新芽を食べていたようである。 |
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Fig.19 貧栄養な溜池畔のオオミズゴケ群落中に生育するタマコウガイゼキショウ。(西宮市・溜池畔 2006.9/18) 横に這う茎から、多数の側芽を出し、小穂からは芽生が著しい。 ここでは、サヤヌカグサ、チゴザサ、ヒメコヌカグサ、ヤチカワズスゲ、ハリガネスゲ、タチスゲ、ゴウソ、オタルスゲ、マメスゲ、ホタルイ、 ヒツジグサ、ジュンサイ、フトヒルムシロ、ヒメシロネ、サワギキョウ、ヒメアギスミレなどが見られ、自然度は高い。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 佐竹義輔, 1982. イグサ科イグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 66〜71. 平凡社 村田源, 2004 イグサ科イグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.159〜167. pls.44〜45. 保育社 村田源. 2004. ヒロハノコウガイゼキショウ・タマコウガイゼキショウ 『近畿地方植物誌』 147. 大阪自然史センター 千川慶史・黒崎史平・高橋晃 2007. タマコウガイゼキショウ. 兵庫県産維管束植物9 イグサ科. 人と自然18:108. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:8th.Oct.2014 |