ヒロハノドジョウツナギ Glyceria leptolepis  Ohwi イネ科 ドジョウツナギ属
湿生植物  兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (摂津・地畔 2011.8/13)

やや高標高地の湿地、池畔、渓流畔などに生育する大型の多年草。
大型の肥厚する多年草で、根茎を横走し、茎は節から単生して束生せず、高さ1〜1.5mになり、太い。
葉はやや厚く、やや軟らかく、少し内曲し、長さ40〜60cm、幅5〜12mm、葉鞘は円柱形で格子紋がある。
円錐花序は大型で少し先が垂れ、長さ20〜30cm、幅10〜15cm、卵形、花序枝はよく分枝し、半輪生する。
小穂はやや扁平で、短柄があり、長さ6〜10mmで、5〜8小花からなる。
第1苞頴、第2苞頴ともに膜質で1脈があり、長さはそれぞれ1.5〜2mmと、2〜3mm。
護頴は長楕円形または披針形で、7脈がいちじるしく隆起し、長さ3〜4mm、脈上に刺状突起が並び、ざらつく。
内頴は護頴よりも少し短く2脈ある。頴果は熟すと暗褐色となる。

ドジョウツナギG. ischyroneura)は水田、休耕田、用水路、溜池畔に生え、茎は高さ1m内外になり、葉幅は3〜7mm、
内穎は内側に湾曲し、護頴は長さ約2.2mm。花序は枝は分枝せず、小穂はややまばらにつく。
マンゴクドジョウツナギG. × tokitana)はドジョウツナギとヒロハノドジョウツナギの種間雑種で、茎は高さ1〜1.5mになり、
果時でも花序は斜上開出し、葯は裂開せず中空のものが多い。稀に結実する。

近似種 : ドジョウツナギマンゴクドジョウツナギ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー
■生育環境:やや高標高地の湿地、池畔、渓流畔など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:市内では生育していない。兵庫県下でも記録は少なく、現状自生が確認されているのは2ヶ所のみである。

Fig.2 茎と葉。(摂津・地畔 2011.8/13)
  茎は節から単生して束生せず、高さ1〜1.5mになり、太い。葉はやや厚く、やや軟らかく、少し内曲する。

Fig.3 葉鞘は円柱形で、明瞭な格子紋がある。(摂津・地畔 2011.6/29)

Fig.4 葉鞘の縁は完全に合着して筒状となる。(摂津・地畔 2011.8/13)

Fig.5 葉舌。(摂津・地畔 2011.8/13)
  葉舌は厚膜質で切形、高さ0.5〜1mm、裏面には刺状突起が並び、ざらつく。

Fig.6 花序。(摂津・地畔 2011.8/13)
  円錐花序は大型で少し先が垂れ、淡緑色または淡紫褐色、長さ20〜30cm、幅10〜15cm、卵形、花序枝はよく分枝し、半輪生する。

Fig.7 花序・その2。(摂津・地畔 2011.8/13)
  花序の枝は花序軸の各節から3〜5本半輪生し、さらに枝は分枝してまばらに広がる。
  花序の枝が分枝しないドジョウツナギと比べると、小穂が多く盛大な花序となる。

Fig.8 分枝した花序枝には、有柄の小穂が密につく。(摂津・地畔 2011.8/13)

Fig.9 小穂。(摂津・地畔 2011.8/13)
  小穂はやや扁平で、短柄があり、長さ6〜10mmで、5〜8小花からなる。
  第1苞頴、第2苞頴ともに膜質で1脈があり、長さはそれぞれ1.5〜2mmと、2〜3mm。

Fig.10 小花。(摂津・地畔 2011.8/13)
  護頴は長楕円形または披針形で、7脈がいちじるしく隆起し、長さ3〜4mm、脈上に刺状突起が並び、ざらつく。
  内頴は護頴よりも少し短く2脈ある。

Fig.10 展開した小花。(摂津・地畔 2011.8/13)
  左は内頴、右は護頴、中央は子房と柱頭。雄蕊は花糸のみが残っており、葯は脱落している。

Fig.11 開花中の花序の一部。(摂津・地畔 2011.8/13)

生育環境と生態
Fig.12 池の流入部に群生するヒロハノドジョウツナギ。(摂津・地畔 2011.8/13)
山から水とともに流入した砂が堆積する水際に、大きな群落を形成している。
ここではヒロハノドジョウツナギの勢力が最も強く、同所的にタニガワスゲ、カモジグサ、ハイコヌカグサ、アカバナ、ヤマキツネノボタン、
アキノウナギツカミ、ノミノフスマ、ネコノメソウなどがわずかに混生する。

Fig.13 砂防ダム内の湿地を優占するヒロハノドジョウツナギ。(摂津・砂防ダム内 2011.6/29)
山からの土砂に埋まった砂防ダム内に成立した湿地の全面をヒロハノドジョウツナギが優占していた。
このような場所はいずれは遷移によって消滅することが考えられるが、今のところ小さなハンノキとイソノキが見られる程度で、すぐに消滅することは
ないだろう。同所的に見られるものはFig.12とほとんど変わらない。
画像は初夏に撮影したもので、ヒロハノドジョウツナギは成長期で、まだ花序を上げていない。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 イネ科ドジョウツナギ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.109〜110. pls.94. 平凡社
小山鐡夫, 2004 イネ科ドジョウツナギ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.326〜328. pls.82. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヒロハノドジョウツナギ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 716. 北隆館
藤本義昭. 1995. イネ科ドジョウツナギ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 122〜127. 藤本植物研究所
桑原義晴, 2008 ドジョウツナギ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.250〜257. pls.21. 全国農村教育協会
村田源. 2004. ヒロハノドジョウツナギ. 『近畿地方植物誌』 176. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒロハノドジョウツナギ. 『六甲山地の植物誌』 64,231. (財)神戸市公園緑化協会
益村聖. 1989. 北九州に産するドジョウツナギ属の新雑種, マンゴクドジョウツナギ. 植物分類・地理 140:163-166. 日本植物分類学会
藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. ヒロハノドジョウツナギ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:185. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:17th.Aug.2011

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