マンゴクドジョウツナギ Glyceria × tokitana  Masumura イネ科 ドジョウツナギ属
湿生〜抽水植物(雑種)
Fig.1 (西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)

ヒロハノドジョウツナギとドジョウツナギの自然交雑種。
湧水の流入のある小川や流水域などに生育する多年草。
有花茎は高さ90〜190cmになり、基部の幅は2〜6mmと太く、ゆるく束生し、やや倒伏して斜上する。
葉は淡緑色ときに紅紫色を帯び、幅4〜12mm、葉縁部は肥厚する。
葉舌は薄膜質または膜質、0.3〜1.5mmで、基部の葉の葉舌ほど短い。
葉鞘は円筒形で鞘口部、ときに葉舌部から融合し、表面には平行脈のほか、横脈が明瞭。
円錐花序は長さ15〜35cm、幅4〜12cmで斜上し、花序枝は2〜5本が半輪生状につく。
小穂は4〜6個の小花からなり、狭長楕円形、長さ5〜8mm、生長に伴い緑色から紫色に変わる。
護穎は卵形で、長さ2.5〜3.3mm、7脈があり、脈は太く、先端は融合しない。
内穎は護頴よりやや長く、長さ3.5mm、薄膜質で2脈。葯はほとんど裂開しない。
完熟する小花は少なく、頴果は楕円球形で長さ1.5mm、幅0.8mm。

ヒロハノドジョウツナギG. leptolepis)は山地の水湿地に稀に生え、有花茎は単生し、高さ1〜2m、径3mm以上。葉幅は5〜12mm、小花は3〜4mmで、
内穎は殆ど湾曲せず、葉鞘の脈は格子状となる。花序は先が少し垂れ、中軸の節から花序枝を3〜5個出し、さらに分枝する。
ドジョウツナギG. ischyroneura)は有花茎の径は2mm以下、斜上または直立して束生する。葉幅は3〜10mm。内頴の竜骨は湾曲する。

【メモ】 西宮市内で清流の水際に見られるものはほとんどが本種であり、結実するものも多い。
近似種 : ヒロハノドジョウツナギドジョウツナギ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湧水の流入のある小川や流水域。
■花期:5〜7月
■西宮市内での分布:市内では北部の棚田周辺の細流脇や、河川中流部に見られる。

Fig.2 全草標本。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  有花茎は高さ90〜190cmになり、基部の幅は2〜6mmと太く、ゆるく束生し、やや倒伏して斜上する。

Fig.3 有花茎の基部付近。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  この個体では幅が7mmあった。

Fig.4 葉鞘。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  葉鞘は円筒形、表面には平行脈のほか、横脈が明瞭(ヒロハノドジョウツナギの形質をひく)。

Fig.5 葉舌。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  葉舌は薄膜質または膜質、0.3〜1.5mmで、基部の葉の葉舌ほど短い。画像のものは泥をかぶっていて少し解りにくい。

Fig.6 葉。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  葉は淡緑色ときに紅紫色を帯び、幅4〜12mm、葉縁部は肥厚する。葉縁は上向きに少しざらついていた。

Fig.7 花序。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  円錐花序は長さ15〜40cm、幅4〜12cmと大きく、斜上し、花序枝は2〜5本が半輪生状につく。

Fig.8 小穂。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  小穂は4〜6個の小花からなり、狭長楕円形、長さ5〜8mm、生長に伴い緑色から紫色に変わる。

Fig.9 小花。(西宮市・棚田細流脇 2015.6/9)
  左側鱗片はは護頴、右側鱗片は内頴。護頴は長さ2.5〜3.3mm。内頴はやや長く3.5mm。
  葯は淡緑色〜帯紫紅色、葯室は開かないものがほとんど。

Fig.10 冬期の草体。(西宮市・棚田の用水路 2008.2/25)
  開花結実後の茎は倒伏し、その節から発根、新鞘が展出し冬期も緑色を保つ。

Fig.11 沈水状態で生育する集団。(西宮市・河川 2009.3/18)
  水深のある流水域では水草のように、沈水状態でも生育する。開花前には水中から花茎を水面上に上げる。

Fig.12 細流中から花茎を上げた個体。(西宮市・棚田の細流中 2007.6/5)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 棚田の細流脇に群生するマンゴクドジョウツナギ。(西宮市・棚田細流脇 2007.7/1)
棚田中央付近の用水路周辺や一時的な休耕田内にはドジョウツナギが生育しているが、山際に流れる細流脇にはマンゴクドジョウツナギが見られる。
細流脇にはオオミズゴケ、オニスゲ、タニガワスゲ、タチスゲ、ゴウソ、ヤチカワズスゲ、ヌマガヤ、カモジグサ、ヒメコヌカグサ、ショウジョウバカマ、
ミズギボウシ、アキノウナギツカミ、ミゾソバ、ケキツネノボタン、ミスタネツケバナ、オオバタネツケバナ、ムカゴニンジン、ノミノフスマ、サワオトギリ、
コケオトギリ、キガンピ、イヌツゲ、イソノキ、ウメモドキ、ニガナ、サワシロギク、シラヤマギク、ヒメシロネが生育している。

Fig.14 用水路内で大きく生育したマンゴクドジョウツナギ。(西宮市・用水路内 2007.7/1)

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. イネ科ドジョウツナギ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.109〜110. pls.94. 平凡社
小山鐡夫, 2004 イネ科ドジョウツナギ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.326〜328. pls.82. 保育社
藤本義昭. 1995. イネ科ドジョウツナギ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 122〜127. 藤本植物研究所
佐藤恭子・古川冷實. 2001. イネ科ドジョウツナギ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 279〜281. 神奈川県立生命の星・地球博物館
桑原義晴, 2008 ドジョウツナギ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.250〜257. pls.21. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. マンゴクドジョウツナギ. 『六甲山地の植物誌』 231. (財)神戸市公園緑化協会
角野康郎. 2014. イネ科ドジョウツナギ属. 『日本の水草』 204〜208. 文一統合出版
益村聖. 1989. 北九州に産するドジョウツナギ属の新雑種, マンゴクドジョウツナギ. 植物分類・地理 140:163-166. 日本植物分類学会
藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. マンゴクドジョウツナギ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:185. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Aug.2015

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