カキドオシ Glechoma hederacea  L.
 subsp. grandis  (A.Gray) Hara
シソ科 カキドオシ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・畑地土手 2010.4/18)

Fig.2 (西宮市・河畔林の林床 2011.4/24)

水田の畦、畑地、用水路脇、溜池畔、湿った道端など日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。
茎ははじめ直立し、長さ5〜25cm、花が終わる頃から倒伏して長くつる状にはって伸びる。
葉は有柄で腎円形、長さ1〜5cm、幅1.2〜5.5cm、円頭で鈍い歯牙がある。
花は1〜3個ずつ葉腋につき、萼は長さ7〜9mm、先は斜めにほとんど同形に5浅裂する。
花冠は長さ15〜25mm、株によって花には大小があり、淡紅紫色で、下唇には紅紫色の斑点がある。
分果は楕円形でやや扁平、長さ約1.8mmで不明の腺点がある。

全草に特有の芳香があり、この香りは人によって好き嫌いが分かれる。
開花時には他種と見間違えることはないが、葉だけのときに ツボクサヤマネコノメソウの葉と間違える人がいる。

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 中国、シベリア東部
■生育環境:水田の畦、畑地、用水路脇、溜池畔、湿った道端など。
■果実期:4〜5月
■西宮市内での分布:市内では低地から北部の棚田周辺まで見られる。

Fig.3 茎と葉。(西宮市・用水路脇 2010.5/13)
  茎は花期後半から地表をはって伸びる。茎の横断面は4角形で、下向きの毛がはえる。
  葉は腎円形で柄があり、縁は鈍い歯牙縁となり、茎に対生する。

Fig.4 開花の始まったカキドオシ。(兵庫県篠山市・畑地土手 2010.4/18)
  開花初期では茎は立ち上がる。花は葉腋に1〜3個ずつつく。

Fig.5 花冠。(兵庫県篠山市・畑地土手 2010.4/18)
  花冠は唇形花で、上唇より下唇が長く、下唇は3裂する。
  中央裂片は側裂片と比べて大きく、中央に紅紫色の斑点があり、その奥に毛が生え、先は浅2裂する。
  画像の花冠の上唇はムシによる食害を受けて、一部欠損している。

Fig.6 横から見た花。(西宮市・湿地 2010.4/23)
  萼裂片は同形で、狭3角形で、鋭尖頭。

Fig.7 幼植物。(西宮市・用水路脇 2010.5/13)
  本葉の第1葉はかなり成葉に近いが、基部はあまり切れ込まない。

Fig.8 越冬態。(西宮市・社寺境内の草地 2010.12/20)
  冬期は小型の葉をつけたまま常緑越冬する。葉の色は濃緑色となり、毛が目立つ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 休耕中の畑地で群生するカキドオシ。(西宮市・休耕畑地 2010.5/13)
休耕中の畑地で、アケビ、ヤハズエンドウとともに群生していた。
周辺では林縁の用水路から、水田の畦など、いたるところでカキドオシが見られた。

Fig.10 砂防ダム上の氾濫原に生育するカキドオシ。(西宮市・砂防ダム上 2011.4/24)
砂防ダム上に土砂が堆積し、そこに氾濫原が広がっている。氾濫原内にはアカメヤナギやハリエンジュなどの河畔林があり、その林床や林縁に
カキドオシが広範囲に広がっている。日当たりの良い場所では、画像のようにニョイスミレなどとともに見られ、林床では一部で純群落を形成するか、
コハコベ、ウシハコベ、ヤエムグラ、ムラサキケマン、オオバタネツケバナ、ミズタネツケバナ、クサイチゴなどとともに見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 渓流畔に生育するカキドオシ。(兵庫県丹波市・渓流畔 2010.5/8)
渓流が山間から盆地へ流れ出す部分に砂防ダムがつくられており、その直下が広い河原となり、カキドオシ他多くの草本が見られた。
渓流上部は森林が発達しているためか、水量はかなり安定しているようで、水際まで草本が繁茂している。
同所的に生育しているものはニョイスミレ、ムラサキサギゴケ、オオバタネツケバナ、コチャルメルソウ、ネコノメソウ、シロバナネコノメ、
クサイチゴ、ミヤマキケマン、セントウソウ、セリ、ヤブマオ、カテンソウ、イタドリ、ツルヨシ、ヒゴクサ、タニガワスゲ、セキショウなどであった。

Fig.12 農地の土手に群落を形成するカキドオシ。(兵庫県篠山市・農地の土手 2009.4/17)
水田から果樹園へと続く土手にほとんど純群落に近いカキドオシの群生が見られた。
遠方からもよく目立ち、まるで青紫色のモヤでもかかっているかのように見えた。
カキドオシはありふれた雑草だが、これほどの群生はこれまで見たことはなく、非常に見ごたえがあった。
群落中にはわずかにギシギシ、ノゲシ、コウゾリナが見られた程度であった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
村田源, 1981. シソ科カキドオシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.87〜88. pls.74. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 シソ科カキドオシ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.178. pls.54. 
牧野富太郎, 1961 カキドオシ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 526. 北隆館
関口克己. 2001. シソ科カキドオシ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1222〜1223. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. カキドオシ. 『近畿地方植物誌』 43. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. カキドオシ. 『六甲山地の植物誌』 185. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平 2004. カキドオシ. 兵庫県産維管束植物6 シソ科. 人と自然15:134. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.Apr.2011

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