キガンピ | Diplomorpha trichotoma (Thunb.) Nakai | ジンチョウゲ科 ガンピ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・湿地 2014.8/29) |
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Fig.2 (西宮市・細流脇 2011.9/6) 丘陵〜低山の湿地、溜池畔、用水路脇、渓流畔などの向陽〜半日陰の適湿〜多湿な場所に生育し、高さ1〜2mになる落葉低木。 今年枝は腋上生の側枝を多数分枝し、細く、無毛、はじめ緑色、後に褐紫色に変わる。 葉は対生し、膜質ないし紙質、無毛で裏面は淡緑色、卵状楕円形〜披針形、長さ2〜8cm、幅1〜3.5cm、 鋭頭〜鈍頭、基部はくさび形〜円形、葉柄はごく短い。 花は今年枝上部の小さな穂状花序につく。花序は円錐状に多数集まり、無毛。 花は両性で白色〜黄色、ときに淡紅色、萼筒は無毛で長さ7mm前後、萼裂片は楕円形で長さ1.7mm内外。 雄蕊は小さく、上列は半ば超出する。雌蕊は萼筒の半長、子房は倒卵状楕円形でまばらに長毛が生え、長さ約1mmの柄がある。 花柱は短く、柱頭は半球形。花盤は1〜3片あって、鱗片状、広錐形〜線形で浅裂する。 乾果はまばらに長毛が生え、宿存した萼筒に包まれる。 ウスゲキガンピ(f. pilosa)は若枝、葉裏に長毛がまばらにあるものをいい、基本種と稀に混生する。 ガンピ(D. sikokiana)は葉が互生し、枝や葉、花はふつう有毛、今年枝は分枝しない。花期は5〜6月。本州中部〜九州。 ミヤマガンピ(D. albiflora)は今年枝は分枝せず、萼筒の長さ8〜10.5mm、萼裂片の長さ2〜3mm。花期は5〜7月。紀伊半島、四国、九州の高地の岩石地に稀。 サクラガンピ(D. pauciflora)は葉が小さく2列状に互生し、前後の葉は重ならず、円錐花序はまばら。若枝、葉、花序に伏毛を密生。伊豆半島。 サクラガンピの変種シマサクラガンピ(var. yakushimensis)は葉が2列状に互生し、前後の葉は縁が重なり、円錐花序は密。今年枝は有毛。九州の山地。 オオシマガンピ(D. phymatoglossa)は葉がらせん状につき、今年枝は直立して太く、上向きの伏毛を密生する。奄美諸島。 コガンピ(D. ganpi)は草本状で、今年枝は毎年地際から叢生し、葉はらせん状に密生。ふつう貧栄養地の草原に生える。本州の関東・中部以西〜奄美諸島。 タカクマキガンピ(D. x ohsumiensis)はキガンピとガンピの推定種間雑種で、今年枝は開出し、葉は互生し楕円形、若枝、葉、花に長毛がある。 近似種 : ガンピ、 コガンピ、 ミヤマガンピ ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島南部 ■生育環境:丘陵〜低山の湿地、溜池畔、用水路脇、渓流畔など。 ■花期:7〜9月 ■西宮市内での分布:市内では中・北部の丘陵〜山地の湿地、溜池畔、用水路脇、渓流畔などで普通に見られる。 |
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↑Fig.3 樹姿。(兵庫県篠山市・溜池畔 2013.9/8) 樹高1〜2m。分枝が多く、今年枝は腋上生の側枝を多数分枝し、枝は斜開して横に広がる。 |
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↑Fig.4 樹皮。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/29) 樹皮は紫褐色を帯び、縦に細かい皮目が入る。 |
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↑Fig.5 腋上生の側枝。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) 枝は葉の付く節から出ず、少し上から分枝し(腋上生)、細く、無毛、はじめ緑色、後に褐紫色に変わる。 |
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↑Fig.6 葉表。(西宮市・細流脇 2011.9/6) 葉は対生し、膜質ないし紙質、無毛、卵状楕円形〜披針形、鋭頭〜鈍頭、基部はくさび形〜円形、葉柄はごく短い。 |
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↑Fig.7 葉裏は無毛、淡緑色。(西宮市・細流脇 2011.9/6) |
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↑Fig.8 花は今年枝上部の小さな穂状花序につく。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) |
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↑Fig.9 花序は円錐状に多数集まる。(兵庫県篠山市・溜池畔 2014.8/14) |
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↑Fig.10 花序についた花。(兵庫県三田市・用水路脇 2010.9/16) 花序には多くの花がつき、下方から次々に開花する。雌蕊は花筒よりも短く、花筒の奥にかろうじて見える。 |
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↑Fig.11 花。(兵庫県篠山市・湿地 2014.8/29) 花は両性で白色〜黄色、ときに淡紅色、萼筒は無毛で長さ7mm前後、萼裂片は楕円形で長さ1.7mm内外。 雄蕊は小さく、上列は半ば花筒から超出する。雌蕊は萼筒の半長で短いため、この角度からは見えない。 |
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↑Fig.12 果実期。(兵庫県篠山市・細流脇 2011.10/23) 結実率はあまり良くない。乾果はまばらに長毛が生え、宿存した萼筒に包まれる。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.13 棚田の水路脇に生育するキガンピ。(西宮市・用水路脇 2012.9/3) 自然度の高い棚田と林縁部の境界を流れる用水路脇に、キガンピが点在していた。 林縁部にはイヌツゲ、イソノキ、ウメモドキなど湿地に現れる木本のほか、コバノミツバツツジ、ヒサカキなどの低木が生育している。 草本ではゴウソ、タチスゲ、タニガワスゲ、ドジョウツナギ、ススキ、ミゾイチゴツナギ、ショウジョウバカマ、ノギラン、ミズギボウシ、ネジバナ、 コウガイゼキショウ、ムカゴニンジン、ケキツネノボタン、オオバタネツケバナ、サワオトギリ、コケオトギリ、ニガナ、サワシロギク、シラヤマギク、 ヒメシロネが見られ、一部はオオミズゴケによって覆われている。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.14 溜池畔に生育するキガンピ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/8) 溜池がコナラ-アカマツ林に接する池畔に多くのキガンピが点在していた。 池畔にはオオミズゴケ群落が発達し、ヌマガヤ、イヌノハナヒゲ、コマツカサススキ、アブラガヤ、ヤマトキソウ、カキラン、サギソウ、 ノギラン、モウセンゴケ、ミミカキグサ、ヒメシロネ、トウゴクシソバタツナミ、ママコナ、キセルアザミ、コウヤボウキなど、 湿生と林縁の植物が入り混じって生育している。 |
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Fig.15 溜池跡の湿地に生育するキガンピ。(兵庫県篠山市・湿地 2014.10/1) 管理放棄されて湿地化した溜池跡に比較的大きな個体が生育していた。 湿地内はヤマテキリスゲが優占し、サトヤマハリスゲ、タチスゲ、ゴウソ、クサスゲ、アイバソウ、コマツカサススキ、イヌノハナヒゲ、 ヒメイヌノハナヒゲ、イトイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、ムカゴニンジン、チダケサシ、ニョイスミレ、ホザキノミミカキグサ、 モウセンゴケ、サワシロギク、キセルアザミ、サワヒヨドリなどが生育している。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 山崎敬. 1989. ジンチョウゲ科ガンピ属. 佐竹義輔・原寛・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 木本2』 p.80〜82. pls.92〜94. 平凡社 牧野富太郎, 1961 キガンピ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 415. 北隆館 村田源. 2004. キガンピ. 『近畿地方植物誌』 66. 大阪自然史センター 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. キガンピ. 『六甲山地の植物誌』 158. (財)神戸市公園緑化協会 黒崎史平・高橋晃 2003. キガンピ. 兵庫県産維管束植物5 ジンチョウゲ科. 人と自然14:131. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:22nd.Nov.2014 |