コイヌガラシ Rorippa cantoniensis  (Lour.) Ohwi アブラナ科 イヌガラシ属
湿生植物  環境省準絶滅危惧種(NT)
Fig.1 (兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)

Fig.2 (兵庫県川西市・休耕畑地 2011.8/27)

湿った畑地、休耕田、溜池畔などに生育する1年草または越年草。
茎は基部で枝を分け斜上、または直立して枝を分け、高さ10〜40cmになる。
葉は下方につくものは柄があり、羽状に深裂し、長さ10cmまで、茎上部のものは柄がなく、羽状に中〜浅裂する。
下方の葉の裂片は長楕円形で鋸歯があり、葉柄基部には耳部がある。
花は腋生し、黄色で短い柄があり、ふつう春に開花するが秋に開花するものも多い。
萼片は直立し、長楕円形、長さ約1.5mm。花弁は倒卵形、長さ2〜2.5mm。
長角果は全て腋生で、直立し、円柱形または長楕円形〜広線形、長さ6〜10mm、幅1.5〜3mm。種子は小さく卵形。
近似種 : イヌガラシスカシタゴボウ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州 ・ 朝鮮南部、中国、アムール、ウスリー
■生育環境:畑地、休耕田、溜池畔など。
■花期:4〜5月・9〜11月
■西宮市内での分布:市内では平野部の1ヶ所の水田で見られた。
              兵庫県下では主に瀬戸内海沿岸の低地と淡路島に見られ、淡路島ではごく普通の種である。

Fig.3 全草標本。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
  茎を単生して直立するもの(左)と、基部で分枝し茎を斜上するもの(右)。
  根は主根が地中深くまで伸びる。

Fig.4 茎下方につく葉。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
  葉柄があり、葉身は羽状に深裂し、頂裂片は卵円形または卵形、側裂片は長楕円形、ともに粗い鋸歯がある。

Fig.5 茎と中部につく葉。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
  茎には隆条があり、無毛、ときに赤紫色を帯びる。茎上〜中部につく葉には葉柄がなく、中〜浅裂し、基部は耳状に張り出す。

Fig.6 開花中のコイヌガラシ。(兵庫県稲美町・溜池畔 2013.11/6)
  花は互生する葉の葉腋に単生し、黄色。花弁の長さは2〜2.5mmと、小さい。

Fig.7 長角果。(兵庫県稲美町・溜池畔 2013.11/6)
  長角果には短い柄があり円柱形、葉腋に直立気味に単生する。下方のものは2裂しはじめている。

Fig.8 晩秋のロゼット。(兵庫県加東市・溜池畔 2013.11/22)
  生育状態のよい大型のロゼットで、ロゼット葉の側小片が浅〜中裂している。

Fig.9 開花しはじめた個体。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
  茎は開花しながら上へ伸びていくようである。この頃のものは同所的に見られることが多いスカシタゴボウと似て紛らわしい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 刈り取り後の水田に生育するコイヌガラシ。(西宮市・水田 2015.10/17)
武庫川下流域の氾濫原に由来する刈り取り後の水田で、コイヌガラシが散在していた。
周辺の水田ではヒメコウガイゼキショウ、カワヂシャ、ヒメミソハギなどの在来種が残っているが、やがては宅地化されるだろう。
画像中にコイヌガラシと隣り合って開花しているのはミズタネツケバナ。

生育環境と生態
Fig.11 減水した溜池畔に生育するコイヌガラシ。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
秋期に減水した砂質の土壌の溜池畔に点在している。溜池の水域にはヒシと雑種アゾラが見られた。
同所的にスカシタゴボウ、アオガヤツリ、ヒメアオガヤツリ、シロガヤツリ、アオテンツキ、メアゼテンツキ、ウキシバが見られた。

Fig.12 干上がった湛水休耕田に生育するコイヌガラシ。(兵庫県南あわじ市・休耕田 2010.11/7)
平地の溜池直下にある、干上がって地表にひびの入った休耕田内に多数の個体が点在していた。
休耕田内にはすでに果実期も終わって枯れたヒメミソハギの大株やチョウジタデが多く、アゼナも紅葉しており、夏緑性1年生水田雑草のシーズンの終りを告げていた。
コイヌガラシは溜池からの湧水が供給されていると見られる、湛水した素掘り排水路の近くに多くの個体が見られた。
画像のようにコイヌガラシはスカシタゴボウ、タネツケバナとともに開花しており、周囲の紅葉したアゼナやミゾハコベがなければ、まるで春先の光景のようである。
このように3種が並ぶとそれぞれの草体の大きさがよくわかる。コイヌガラシは草体も葉もタネツケバナと同じような大きさである。
小さな放射状に葉を広げたイネ科の草本はスズメノテッポウの若い株である。

Fig.13 休耕中の畑地に生育するコイヌガラシ。(兵庫県川西市・休耕畑地 2011.8/27)
平野部のかつては河川の氾濫原であったと見られる、地下水位の高い滞水気味の畑地にコイヌガラシがまばらに生育していた。
平野部にありながら広い面積の耕作地が広がっており、ナガエツルノゲイトウ、ウキアゼナ、ホソバヒメミソハギ、アメリカアゼナなど外来種も多いが、
アブノメ、キカシグサ、ヒメミソハギなどの在来の水田雑草も生育している。
近くにはデンジソウが生育していた水田があるが、除草剤を散布した跡が見られ、生育を確認できなかった。

Fig.14 溜池の流れ込み部分に生育するコイヌガラシ。(兵庫県稲美町・溜池畔 2013.11/6)
洪積台地上の皿池の溜池畔の流れ込み部分に多数のコイヌガラシが生育していた。
ここではアオガヤツリ、メアゼテンツキ、クロテンツキ、チョウジタデ、スカシタゴボウ、フタバムグラ、ウキシバなどとともに生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. アブラナ科イヌガラシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.136. pl.133. 平凡社
北村四郎, 2004 アブラナ科イヌガラシ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.183〜184. pl.44. 保育社
吉田多美枝・城川四郎. 2001. アブラナ科イヌガラシ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 749〜753. 神奈川県立生命の星・地球博物館
牧野富太郎, 1961 コイヌガラシ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 210. 北隆館
村田源. 2004. コイヌガラシ. 『近畿地方植物誌』 103. 大阪自然史センター
黒崎史平 2001. コイヌガラシ. 兵庫県産維管束植物3 アブラナ科. 人と自然12:160. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:22nd.Jul.2016

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