クグテンツキ Fimbristylis dichotoma  (L.) Vahl
  var. floribunda  (Mig.) T.Koyama
カヤツリグサ科 テンツキ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)

日当たりよい、湿った草地に生育する多年草。
テンツキに似るが、それよりも大型で、根茎は発達せず叢生し、高さ30〜100cm。
基部の鞘は淡褐色で、有毛の場合と無毛の場合がある。
葉は幅3〜5mm、やや革質で硬く、テンツキよりも厚味がある。
花序は散形でやや大型。苞葉は1〜2枚が花序よりも長い。
茎頂から多数の花穂を出し、それぞれの花穂は4〜10個の小穂からなる。
小穂は花期には長卵形だが、熟す頃になると卵状披針形となり、長さ6〜10mm、褐色、10〜14個の花からなる。
鱗片は広卵形、長さ2.5mm前後、淡褐色、鋭頭で短凸端。
痩果は黄白色、倒卵形、長さ1〜1.5mm、表面に横長の格子紋がある。柱頭は2岐し、花柱は扁平で繊毛がある。
近似種 : テンツキイソヤマテンツキ、 ナガボテンツキ

■分布:本州(関東地方以西)、四国、九州、沖縄 ・ 国外分布は不明
■生育環境:畦や水田の土手、湿った草地。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。南方系の種で、県内では淡路島に多産する。

Fig.2 全草標本。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  根茎はなく叢生する。

Fig.3 基部。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  基部は淡褐色。基部には有毛のもと無毛のものがある。画像のものは無毛だった。
  水田の土手に生育しているため、早い時期の外側の茎や葉は刈り込みに遭っている。
Fig.4 出穂初期で開花しはじめた花序。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  この頃の小穂はまだ長卵形であり、テンツキと紛らわしい。


Fig.5,6 様々な花序。(長崎県・海岸の草地と休耕田 2009.10/25)
  花序は花序枝が非常に短いものから、長く伸びるものまで可塑性が高く、変異に富む。

Fig.7 花序。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  散形花序。苞葉は1〜2個が花序よりも長い。花序枝の先には数個の小穂がかたまってつく。

Fig.8 小穂。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  小穂は長卵形〜卵状披針形。褐色で、テンツキ同様の光沢があるが、長さ6〜10mmとテンツキよりも大きい。

Fig.9 痩果。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  痩果は長さ1〜1.5mmで、黄白色。

Fig.10 痩果(左)と花柱(右)の拡大。それぞれ同倍率。(兵庫県洲本市・水田の土手下部 2009.9/6)
  痩果は倒卵形、横長の格子紋があり、隆起はテンツキよりも低く、隆起上にはごく低い瘤粒がある。
  花柱は幅広く痩果の1/4〜1/3幅、1.2〜1.4倍長(柱頭のぞく)で、繊毛があり、柱頭は2岐する。

生育環境と生態
Fig.11 棚田の土手下部に生育するクグテンツキ。(兵庫県洲本市・水田の土手 2009.9/6)
よく刈り込まれた土手の下部に大きく叢生した個体が生育していた。
周囲の草と比較して伸びているのは、刈り込まれても次から次に葉と花茎を出し、生長も早いのだろう。
周辺の土手ではツリガネニンジン、オミナエシ、ヒメアブラススキなどが生育する。

Fig.12 畦に群生するクグテンツキ。(長崎県・水田の畦 2009.10/25)
地下水位が高く、比較的自然度の高い水田の畦にエノコログサ、ヒメクグなどとともに群生している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
小山鐡夫, 2004 テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.231〜237. pl.58〜59. 保育社
堀内洋. 2001. テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 415〜421. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 クグテンツキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 156,157. 山陽新聞社
星野卓二・正木智美, 2011 テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 572〜601. 平凡社
小林禧樹. 1992. クグテンツキ. 『淡路島の植物誌』 196. 自然環境研究所
村田源. 2004. クグテンツキ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター
谷城勝弘, 2007 テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 124〜138. 全国農村教育協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. クグテンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:171.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:30th.Nov.2009

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