テンツキ Fimbristylis dichotoma  (L.) Vahl カヤツリグサ科 テンツキ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・休耕田 2007.8/19)

水田の畦、休耕田、農耕地周辺の路傍などに生える1年草。
茎は叢生し高さ15〜50cm、ときに有毛。基部の鞘はふつう開出毛を密生し、茶褐色。
花序は散形で、多くは複生して、2〜3回分枝し、長さ3〜7cm。
小穂はやや多数ついて、長卵形、長さ5〜8mm、赤褐色を帯び、光沢があり、多数の小花を密につける。
鱗片は広卵形で鋭頭、赤褐色、竜骨があり緑色。
痩果は広倒卵形で、長さ0.8〜1.2mm、横断面はレンズ形、隆起する横長楕円形の格子紋があり、完熟すると黄褐色。
雌蕊柱頭は2岐し、花柱は均一に幅広く、毛が生える。

沿海地の湿地に生育するクグテンツキ(var. floribunda)に似る。
クグテンツキはテンツキより大型で剛強な2年または多年草で、花序枝の先に小穂が数個集まり、小穂は披針形で長さ6〜10mmと大きく、
痩果の格子紋の隆起は低く、基部はくびれない。花柱の幅はテンツキよりも広い。
小穂がクグテンツキよりもさらに大きく、花序枝の先に単生するものはオテンツキ(var. floribunda f. diphylla)とされる。
近似種 : クグテンツキイソヤマテンツキノテンツキクロテンツキヒメヒラテンツキメアゼテンツキ、 コアゼテンツキ、 アゼテンツキ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、中国、インド、インドネシア、オーストラリア、アフリカ
■生育環境:水田の畦や休耕田、農耕地周辺の湿った道端など。
■果実期:8〜9月
■西宮市内での分布:中・北部の水田の畦、休耕田などに普通に見られる。

Fig.2 花序。(西宮市・休耕田 2007.8/19)
  花序枝は2〜3回分枝し、先端に小穂が単生する。

Fig.3 花序の拡大。(西宮市・休耕田 2007.8/5)
  小穂は長卵形で、赤褐色を帯び、光沢がある。
  鱗片は広倒卵形、鋭頭で、緑色の竜骨がある。
  テンツキはふつう毛が多く、苞葉などにも毛が見られることが多いが、毛の量には個体差がある。

Fig.4 痩果と花柱。(兵庫県三田市・休耕田 2008.9/28)
  痩果は広倒卵形で、表面には隆起した横長の楕円形の格子紋があり、基部付近はくびれ気味になることが多い。
  花柱は基部から均一に幅が広いが、クグテンツキよりは狭い。柱頭は2岐し毛が生える。

Fig.5 基部の鞘は、ふつう開出毛が多い。(西宮市・休耕田 2007.8/19)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.6 休耕田に生育するテンツキ。(西宮市・休耕田 2007.8/19)
管理休耕田中にヒデリコ、ヒナガヤツリ、タマガヤツリ、イヌホタルイ、コウガイゼキショウ、ハナビゼキショウ、セリ、ヤノネグサ、
アキノウナギツカミ、アゼナ、キカシグサなどとともに生育している。

Fig.7 崩壊地の湧水によって成立した小湿地に生育するテンツキ。(西宮市・崩壊地 2007.8/31)
ほとんど栄養分のない貧栄養な裸地で生育していた。草高は10cm内外に小型化し、一見すると別種に見える。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科テンツキ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 pp.173〜175. pls.156〜158. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 pp.231〜237. pls.58〜59. 保育社
牧野富太郎, 1961 テンツキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 769. 北隆館
星野卓二・正木智美, 2003. テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 138〜159. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 124〜138. 全国農村教育協会
勝山輝夫・堀内洋. 2001. テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 415〜421. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. テンツキ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. テンツキ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. テンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:171.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:18th.Jan.2011

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