ヒメヒラテンツキ（ヒメテンツキ）-西宮の湿生・水生植物-

ヒメヒラテンツキ（ヒメテンツキ）	Fimbristylis autumnalis 　(L.) Roem. et Schult.	カヤツリグサ科テンツキ属
湿生植物


Fig.1　（西宮市・休耕田　2007.8/30）

Fig.2　（兵庫県篠山市・休耕田　2009.9/1）平地の湿地や休耕田、水田の畦などに生育する1年草または多年草。草体は柔らかく叢生し、無毛、匍匐枝はない。花茎は扁平、高さ15～30cm。葉は少数、幅約2mm。基部の鞘は淡色または褐色。花序は散形で複生して、2～3回分枝、多数の小穂をつけ、長さ5～8cm。苞葉は2～3個あり、葉状で、花序と同長か短く、先はやや鋭頭。小穂は披針形で小さく、長さ3～6mm、赤褐色、鋭頭、7～15個の花をつける。鱗片は広披針形、長さ1.5～2mm、鋭頭、竜骨がある。花柱は短く、柱頭は3岐する。痩果は倒卵形、白色～淡黄色、長さ約0.7mm、横断面は3稜形、表面は平滑または小さな瘤状突起がある。本種はノテンツキ（F. complanata）によく似るが、ノテンツキの草体はより大型で濃緑色で硬く、苞葉は花序よりも短く、痩果は0.9mm。ヒメヒラテンツキの開花・結実は遅く、混生する場合はノテンツキの結実後に、ヒメヒラテンツキが開花する。近似種　：　テンツキ、ノテンツキ、クロテンツキ、メアゼテンツキ、コアゼテンツキ、アゼテンツキ、イトハナビテンツキ ■分布：北海道、本州、四国、九州、沖縄　・　朝鮮半島、中国、北アメリカ ■生育環境：平地の湿地や休耕田、水田の畦、溜池畔など。 ■果実期：7～10月 ■西宮市内での分布：中・北部の棚田周辺に広く分布する。

↑Fig.3　花序。（西宮市・休耕田　2007.8/30）　花序は2～3回分枝する。

↑Fig.4　乾燥標本の花序。（西宮市・水田の畦　2007.10/11）　最下苞葉は2～3個つき、花序と同長か短い。

↑Fig.5　結実期の花序。（兵庫県加西市・溜池畔　2010.9/28）<

↑Fig.6　小穂。（西宮市・休耕田　2007.8/30）　披針形で鋭頭。鱗片は赤褐色、中肋は竜骨となり、先は短い芒となる。

↑Fig.7　痩果。（西宮市・水田の畦　2007.10/11）　白色～淡黄色で平滑、倒卵形で表面には小さな瘤状突起がある。

↑Fig.8　基部の鞘は淡色～褐色。（西宮市・休耕田　2007.8/30）

西宮市内での生育環境と生態


Fig.9　休耕田に生育するヒメヒラテンツキ。（西宮市・休耕田　2007.8/30）湿地化した休耕田にヒデリコ、イヌシカクイ、カヤツリグサ、ウシクグ、ヒメクグなどのカヤツリグサ科草本やチゴザサ、コブナグサ、トダシバ、イグサ、コウガイゼキショウ、ヒロハノコウガイゼキショウ、アオコウガイゼキショウ、オトコゼリ、ムカゴニンジン、ミソハギ、ヤナギタデ、アキノウナギツカミなどとともに生育していた。

他地域での生育環境と生態


Fig.10　休耕田の畦に生育するヒメヒラテンツキ。（兵庫県加東市・休耕田　2008.9/22）テンツキ（黄色矢印）とヒデリコ（水色矢印）を交えて、畦を覆うように群生していた。画像に見える緑色柱状の花序はハイヌメリのもの。

Fig.11　減水した溜池畔に生育するヒメヒラテンツキ。（兵庫県加東市・溜池畔　2010.9/29）減水した溜池畔に点々と生育していた。ヒメヒラテンツキは被植の少ない箇所にサワトウガラシ（小型赤紫色の草本）、ツクシクロイヌノヒゲ、トキンソウ、ヌマトラノオ、ヌマカゼクサ、チゴザサ、クロテンツキ、ヒナザサ、ミゾカクシ、タチモなどと共に生育している。後方の濃緑色線形の群生する草本はクログワイ。
【引用、および参考文献】（『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。）大井次三郎, 1982.　カヤツリグサ科テンツキ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫（編）　　　　　　　『日本の野生植物草本1 単子葉類』　p.173～175. pls.156～158.　平凡社小山鐡夫, 2004　カヤツリグサ科テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑草本編（3）単子葉類』　p.231～237. pls.58～59.　保育社牧野富太郎, 1961　ヒメテンツキ. 前川文夫・原寛・津山尚（補遺・編）『牧野新日本植物図鑑』　770.　北隆館星野卓二・正木智美, 2003.　テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜（2）』　138～159.　山陽新聞社谷城勝弘, 2007.　テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』　124～138.　全国農村教育協会勝山輝夫・堀内洋.　2001. テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会（編）『神奈川県植物誌　2001』　415～421. 神奈川県立生命の星・地球博物館小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメヒラテンツキ. 『六甲山地の植物誌』 250.　（財）神戸市公園緑化協会村田源. 2004. ヒメテンツキ. 『近畿地方植物誌』 164.　大阪自然史センター黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヒメヒラテンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:170. 　　　　　　　兵庫県立・人と自然の博物館最終更新日：11th.Jan.2011