ノテンツキ Fimbristylis complanata  (Retz.) Link. カヤツリグサ科 テンツキ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・水溜りのある遊歩道脇 2007.6/17)

 
Fig.2 (西宮市・水田の畦 2010.6/21)

湿った草地、とくに斜面から湧水が滲み出すような湿生草原に多い多年草。
草体はほとんど叢生せず、みじかい根茎を持つ。茎は高さ20〜70cm、扁平で平滑、粉白味を帯びる。
茎の基部から少数の葉を根生し、葉幅1.5〜3mm、乾くとバネ状に巻く。基部の鞘は淡色。
花序は散形でやや大型。花序の苞葉は1〜2個つき、花序より短い。
小穂は披針形で、長さ5〜8mm、褐色、5〜15個の小花からなる。
鱗片は長楕円形、長さ3〜4mm、褐色、中肋は竜骨状となり、先端は突出して芒となる。
痩果は3稜ある倒卵形で、長さ約0.9mm、淡色、表面は平滑または瘤状の突起がまばらにある。
雌蕊柱頭は3岐し、花柱は痩果の2倍以上あり、扁平とならず平滑。
近似種 : テンツキクロテンツキヒメヒラテンツキメアゼテンツキ、 コアゼテンツキ、アゼテンツキ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:湿った草地、棚田の畦など。
■果実期:6〜8月
■西宮市内での分布:市内では中・北部の日当たりの良い、湧水がにじむような湿った半裸地や草地斜面、水田の畦などに見られる。
              兵庫県下では丹波地方以南に記録があり、北播・但馬地方からの記録はない。

Fig.3 全草の様子。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  短い根茎があり、ほとんど叢生しない。茎は扁平で、粉白味を帯びる。
  少数の葉が基部より根生し、葉身は花茎より短い。

Fig.4 根茎部分の拡大。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)

Fig.5 開花期のノテンツキ。(兵庫県三田市・溜池土堤下部 2009.7/4)
  花は雌性先熟。花序枝の伸び始めに白く毛の多い柱頭を出し、花序枝を伸ばしながら続いて淡黄色の葯を出す。
  画像の花序枝の短い花序のものは雌性期で、花序枝が伸びて花序が四方に開き、淡黄色の葯が見えるものは雄性期に入っているもの。

Fig.6 花序。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  花序は2〜3回分岐し、やや大きく花序枝を広げ、花序枝先端に小穂を単生し、花序には計数個〜十数個の小穂がつく。
  花序の苞葉は花序より短い。

Fig.7 小穂。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  小穂は披針形で稜角かあり、褐色。3岐する雌蕊柱頭がのぞく。
  鱗片の中肋は竜骨状となり、先端は鱗片から突出して短い芒となる。

Fig.8 痩果。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  痩果は3稜あり、倒卵形で、長さ約0.9mm。表面にはまばらに瘤状の突起が見えるが、平滑であることもある。
  雌蕊の花柱は、痩果の2倍以上ある。

Fig.9 痩果の拡大。(京都府京丹波町・用水路脇 2014.9/14)
  表面は小さな粒が縦に並び、さらに大きな瘤状の突起がまばらに散布する。

Fig.10 乾いた葉身。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  葉は乾くと、葉縁がやや内側に巻き、先端はバネ状に巻く。

Fig.11 斜面の湧水湿地で開花中のノテンツキ。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
  ノテンツキはやや裸地の多い、斜面の湿生草原に多い。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 崖の下部の湧水がしみ出す斜面に生育するノテンツキ。(西宮市・用水路脇 2007.8/2)
被植の少ない崖下にトダシバとともに生育している。周辺にはヒメカリマタガヤなどの同様な環境を好む植物が生育する。

Fig.13 棚田の畦に生育するノテンツキ。(西宮市・棚田の畦 2008.8/2)
比較的自然度の高い棚田などでは畦でノテンツキが見られることがある。ヒデリコなどと混生することが多い。

Fig.14 農道脇の草地に群生するノテンツキ。(西宮市・農道脇の草地 2010.6/21)
年に数回刈り込みの行われる農道と用水路の間にある草地一面にノテンツキが密に群生していた。
画像に見られる小さな褐色の小穂を持つものは全てノテンツキで、ノテンツキ群落中にはケショウアザミやミヤコグサがまばらに生育している。
ノテンツキはテンツキ属中もっとも開花結実が早いが、ここではノテンツキの結実が終わるとクロテンツキとヒメヒラテンツキが出穂する。
この農道脇では他にカワラマツバ、ウマノアシガタ、ミツバツチグリ、スイバ、クララ、コマツナギ、ネコハギ、ナンテンハギ、カンサイタンポポ、コウゾリナ、
ノコンギク、ムラサキサギゴケ、スズメノヤリ、ホソイ、ノビル、アオスゲ、チガヤ、スズメノヒエなどが生育し、周辺には自然度の高い棚田が広がっている。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 湿生植物が多い斜面で群生するノテンツキ。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/15)
ここでは、ホソバリンドウ、サワヒヨドリ、オミナエシ、ナキリスゲなどのほかに、タガネソウなども見られたが、
今秋になって客土によって固められてしまい、建設資材置き場となってしまった。
ノテンツキをはじめとした湿生植物は、やがては復活するのだろうか?

Fig.16 自然度の高い溜池畔に生育するノテンツキ。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.5/30)
ここでは、溜池畔の少し小高くなった場所でイシモチソウ、アリノトオグサ、ノギランなどとともに見られた。
放置していればネザサが生い茂るような場所だが、毎年早春に野焼きされるため、これらの裸地を好むような湿生植物の生育が維持されている。

Fig.17 湿原中に群生するノテンツキ。(兵庫県小野市・溜池畔の湿原 2011.7/12)
中栄養な溜池畔に広がる湿原にノテンツキがヌマトラノオとともに群生していた。
湿原にはトキソウ、カキラン、コバノトンボソウ、ヤマサギソウ、ミズトンボ、ヤマラッキョウ、ユウスゲ、ノハナショウブ、イヌシカクイ、コマツカサススキ、
アブラガヤ、イヌノハナヒゲ、イトイヌノハナヒゲ、アゼスゲ、ゴウソ、オニスゲ、タチスゲ、カモノハシ、チゴザサ、ミソハギ、タヌキマメ、ワレモコウ、リンドウ、
オミナエシ、サワシロギク、キセルアザミなど稀少種を含む豊富な湿生植物が生育する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科テンツキ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.173〜175. pl.156〜158. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.231〜237. pl.58〜59. 保育社
牧野富太郎, 1961 ノテンツキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 770. 北隆館
星野卓二・正木智美, 2003. テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(2)』 138〜159. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 124〜138. 全国農村教育協会
勝山輝夫・堀内洋. 2001. テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 415〜421. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ノテンツキ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ノテンツキ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ノテンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:170.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.Nov.2014

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