イソヤマテンツキ Fimbristylis ferruginea  (L.) Vahl
 var. sieboldii  (Miq.) Ohwi
カヤツリグサ科 テンツキ属
湿生植物 兵庫県RDB Cランク種 ・ 西宮市絶滅種
Fig.1 (兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)

Fig.2 (兵庫県たつの市・河口 2013.8/1)

海岸岩場の湧水のにじむ場所や河口部などに成立した塩性湿地などに生育する多年草。
植物体はやや叢生し、硬く、多少とも粉白色を帯びる。花茎は高さ15〜50cm、細く、直立する。
基部の鞘は赤褐色、やや肥厚して短い葉をつける。葉は幅1〜1.5mm、上方のものは次第に長くなるが、花茎よりも短く、無毛。
花序は散形、1〜8個の小穂をつける。苞葉の葉身は葉状、1〜2枚が花序と同長または長い。
小穂は披針形、長さ10〜20mm、濃褐色、多数の花をつける。鱗片は卵形、長さ3〜3.5mm、微細毛があり、鋭頭。
痩果は倒卵形、長さ1〜1.2mm、熟して濃褐色、ほぼ平滑。花柱は扁平、毛がある。柱頭は2岐する。
近似種 : テンツキクグテンツキヤマイ、 ナガボテンツキ

■分布:本州(千葉県・石川県以西)、四国、九州、沖縄
■生育環境:海岸の岩場、塩性湿地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内ではかつて武庫川河口に生育していたが、護岸工事によって絶滅した。

Fig.3 全草標本。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  やや叢生し、硬く、花茎は細く直立し、葉は花茎よりも短い。

Fig.4 根茎と基部。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  根茎は短く、横にはう。匐枝はない。基部の鞘は赤褐色、やや肥厚して短い葉をつける。

Fig.5 花序。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  花序は散形、1〜8個の小穂をつける。苞葉の葉身は葉状、1〜2枚が花序と同長または長い。

Fig.6 小穂。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  小穂は披針形、長さ10〜20mm、濃褐色、多数の花をつける。

Fig.7 鱗片。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  鱗片は卵形、微細毛があり、光沢はなく、鋭頭。

Fig.8 痩果。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  痩果は倒卵形、長さ1〜1.2mm、横断面はレンズ状、熟して濃褐色、ほぼ平滑。花柱は扁平、毛がある。柱頭は2岐する。

Fig.9 開花中の花序。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
  開花時の小穂は楕円形で、上部に向かって咲き進み、下方から果実が熟すにつれて長く伸び、披針形となる。

生育環境と生態
Fig.10 湧水のにじむ海岸の岩場に生育するイソヤマテンツキ。(兵庫県新温泉町・海岸の岩場 2011.7/27)
海岸の岩場はその上部に湿った草地が続き、そこではイソヤマテンツキに変わってヤマイが出現する。
イソヤマテンツキの生育する箇所では悪天時には海水の飛沫を浴びるような場所で、ヤマイは飛沫のかからない場所に生育している。
イソヤマテンツキの生育箇所にはハマボッス、タイトゴメが多いが、上部の草地からミソハギも進入していた。

Fig.11 汽水域の塩性湿地に生育するイソヤマテンツキ。(兵庫県たつの市・河口 2011.11/10)
アシやフクドが群生する河口部に塩性湿地が広がり、やや踏みつけがある小道のアシ群落の縁にイソヤマテンツキが生育している。
同所的にウラギク、ハママツナ、ハマサジ、シオクグ、ハマゼリがまばらに生えており、より水際に近い場所ではイソヤマテンツキは見られず、
ナガミノオニシバ、フクド、ホソバハマアカザが生育していた。

Fig.12 河口の中洲に生育するイソヤマテンツキ。(兵庫県芦屋市・河口 2012.10/29)
河口の中洲全体にびっしりと生育していたが、画像はその下流側の先端である。
同所的に生育する種はごく少なく、ヒロハホウキギクとシバのみだった。
西宮市では絶滅したが、隣の芦屋市で新たな自生地を発見することができた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科テンツキ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.173〜175. pls.156〜158. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科テンツキ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.232〜237. pls.58〜59. 保育社
牧野富太郎, 1961 イソヤマテンツキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 771. 北隆館
勝山輝男・堀内洋. 2001. カヤツリグサ科テンツキ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 415〜421. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 イソヤマテンツキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 150,151. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 テンツキ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 124〜138. 全国農村教育協会
星野卓二・正木智美, 2011 テンツキ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 572〜601. 平凡社
村田源. 2004. イソヤマテンツキ. 『近畿地方植物誌』 164. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イソヤマテンツキ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. イソヤマテンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:172.
       兵庫県立・人と自然の博物館
兵庫県 2010. イソヤマテンツキ. 兵庫の貴重な自然・兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落) 132. (財)ひょうご環境創造協会

最終更新日:18th.Mar.2014

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