ミミカキグサ Utricularia bifida  L. タヌキモ科 タヌキモ属
湿生〜抽水〜沈水植物
Fig.1 (兵庫県三田市・湿地 2008.8/17)

貧栄養な湿地や溜池畔に生育する1年草。南方では越冬し多年草となる。食虫植物。
秋季に渇水するような溜池では、満水状態の半年間は水中で長い沈水葉を付けて生育しているのを見かける。
泥中に白く細い地下茎を這わせ、ところどころに微小な捕虫嚢を付け、泥中の微生物を捕獲する。
捕虫嚢は泥中であれば葉身の縁に付くこともある。
葉は倒卵状ヘラ形で円頭、長さは普通5〜8mmで、地下茎から1枚づつ生じて地表に広げる。
干上がったような場所では、葉身は極端に小さくなり強く丸みを帯びる。
夏〜秋にかけて黄色い小さな花をつけるが、ミミカキグサの仲間で国内に産する黄花のものはミミカキグサしかないので同定に迷うことはない。
晩秋に開花するものは、花茎が極端に低くなることが多い。
近似種 : ホザキノミミカキグサムラサキミミカキグサ

■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 中国、インド、マレーシア、オーストラリア
■生育環境:貧栄養な湿地や溜池畔など。
■花期:7〜11月
■西宮市内での分布:中部〜北部にかけて、6ヶ所の貧栄養な湿地や溜池畔で確認できたが、さらに自生地が見つかる可能性が高い。

Fig.2 ミミカキグサの花序。(西宮市・湿地 2006.11/16)
 

Fig.3 ミミカキグサの気中葉。(西宮市・湿地 2008.7/10)
  陸生形の気中葉は倒卵状ヘラ形で円頭、3脈が目立つ。長さは6mm前後で、注意して見ていないと見過ごしてしまう。

Fig.4 沈水葉。(西宮市・溜池畔 2006.11/9)
  溜池などで沈水状態で生育するものは、線形で鈍頭の細長い沈水葉が発達する。

Fig.5 干上がりつつある池畔で開花した個体。(西宮市・溜池畔 2006.9/12)
  もとは沈水状態で生育していたもので、葉は細く伸び沈水葉となっている。

Fig.6 沈水状態で生育していた個体の全草の様子。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  沈水葉は長いものでは3cmほどある。

Fig.7 沈水葉と、地下茎に多数ついた捕虫嚢。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  沈水葉の葉幅は基部付近でやや狭まる以外はほとんど一定し、先端部で急に狭まり、先端は鈍頭で終わる。

Fig.8 屈曲する沈水葉の葉身と、葉身に付いた捕虫嚢。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  溜池などでは、沈水葉の基部付近は軟泥に埋もれることが多く、葉身の基部付近に付いた捕虫嚢を観察できる。
  沈水葉の葉身にはほぼ一定間隔を置いて、窪んだ節のような部分があって、その箇所でゆるやかに屈曲する。

Fig.9 捕虫嚢の拡大。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  口部には2本の口ひげがあり、基本的な構造はタヌキモ類と同様。
  開閉する口部の扉の前後には円筒状の誘導路があり、泥中ではそこに水を溜め込んでいる。
  水とともに微生物を飲み込む仕組みである。
  泥中に広がる地下茎につく捕虫嚢壁には葉緑体が見られないが、葉身基部の捕虫嚢壁には葉緑体が見られる。

Fig.10 ミミカキグサの果実。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  「耳掻草」の名称のもととなった果実。

Fig.11 種子は黄褐色で0.3mm前後。倒卵形でアサガオの種子の形に似る。(西宮市・溜池畔 2006.11/9)
  表面には斜めに捩れた隆起があり、隆起上にまばらな小突起がある。
  種子の発芽率は高く、栽培は容易である。

Fig.12 出芽したミミカキグサ。(自宅室内育成 2007.4/17)
  1枚の葉の長さは3mmに満たない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 秋の湿地で開花するミミカキグサ。(西宮市・湿地 2006.11/5)
秋になって開花するものは花茎が低く、花数も少ない。しかし、立ち上げる花茎数は多いように感じる。
花茎数の調査は今後の課題としたい。

Fig.14 溜池の浅水域で生育するミミカキグサ。(西宮市・溜池畔 2006.11/9)
へら形の気中葉に慣れた眼には、花茎をあげていなければ、これがミミカキグサの葉であるとは思えないだろう。
この溜池ではこのような光景が随所で見られた
ミミカキグサの沈水葉よりも太い花茎をあげているのは、ホシクサ科のツクシクロイヌノヒゲ。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 溜池畔の小湿地で群生するミミカキグサ。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.7/21)
地表が根生葉によってびっしりと覆われているのが見える。

Fig.16 溜池畔の湿原で群生するミミカキグサ。(兵庫県小野市・溜池畔 2011.7/31)
溜池畔に広がる貧栄養な湿原のイヌノハナヒゲ群落中の地下水位の高い表水のある場所に、ミミカキグサが群生し開花していた。
同所的にはホザキノミミカキグサとイトイヌノヒゲが見られ、ミミカキグサはこれらの種とともに湿原の低層の群落を形成している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1981. タヌキモ科タヌキモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.137〜139. pls.112〜114. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004. ミミカキグサ亜属. 『原色日本植物図鑑 草本編(T) 合弁花類』 p.121. pls.39. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミミカキグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 575. 北隆館
勝山輝男. 2001. タヌキモ科タヌキモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1282〜1283. 神奈川県立生命の星・地球博物館
近藤浩文, 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミミカキグサ. 『六甲山地の植物誌』 195. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミミカキグサ. 『近畿地方植物誌』 37. 大阪自然史センター
小宮定志, 1982. ミミカキグサも水草. 水草研究会会報 10:1〜3.
角野康郎 2006. ミミカキグサ. 兵庫県産維管束植物7 タヌキモ科. 人と自然16:115. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:9th.Sept.2011

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