ミズハナビ (ヒメガヤツリ) Cyperus tenuispica  Steud. カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物
Fig.1 (長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)

溜池畔、湿地、水田などの日当たりのよい湿った場所に生育する小型の1年草。
植物体は全体にやわらかく、根茎はなく叢生し、高さ5〜25cm。葉は少数で、有花茎よりも短く、多くが鞘状に退化する。
花序は花茎に較べて大きく開いた散房花序で、多数の花序枝を複生して、枝の先に小穂をふつう3〜8個掌状につける。
苞葉は1〜2個つき、葉状、花序とほぼ同長である。
小穂は線状長楕円形で、著しく扁平、長さ3〜8mm。鱗片はややまばらにつくため、小軸が外から見える。
鱗片は長さ約1mm、切形に近い円頭、中肋は短く、多少外反することがある。
痩果は0.4mm、白色または淡黄白色で表面には瘤粒がある。

以下は、近縁種との比較表である。
     ・・・・・・・・・ コアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. tuberiferus  T.Koyama
ツルナシコアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. microhaspan  Makino
ミズハナビ
(ヒメガヤツリ)
C. tenuispica  Steud.
 生活形  多年草  1年草  1年草
 匍匐根茎  明瞭  ふつう無いが、時に
 短い根茎がある
 無い。叢生する
 全高(cm)  20〜50  10〜25  5〜20
 苞葉  1〜2  1〜2  1〜(2)
 小穂の形態  線形・扁平  長楕円形  著しく扁平
 鱗片の先  凸頭で外反しない  外曲する短芒  切形で外反
 鱗片の間から痩果が見えるか  見えない  見える  見える
 鱗片の間に隙間があるか  無い  ある  ほとんど無い
 痩果(倒卵形)の長さ  0.6〜0.8mm  0.5〜0.6mm  約0.4mm
 雄蕊の個数  3個  1個まれに2個  0〜2個
近似種 : コアゼガヤツリツルナシコアゼガヤツリ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では未確認。兵庫県内には産しない。

Fig.2 全草の様子。(長崎県・溜池畔 2009.10/24)
  コアゼガヤツリに見られるような根茎はなく、植物体は叢生する。
  乾いた溜池畔の半裸地(Fig.11 参照)に生育していたもので、次のFig.3の個体と比較すると根がよく発達している。
  この個体は早い時期から生育していたようで、発見した時は15cm程度だったが、より長い枯れた花茎が残っている個体も見られた。
  また画像の個体では長い枯れた根生葉が見られる。早くから生育するものは花茎もより高くなり、葉も伸びるようである。

Fig.3 全草標本。(長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)
  稲刈り後に生育したと見られる個体で、根の発達が悪く草体も小型で、葉の多くは鞘状に退化している。
  小穂はふつう3〜8個つくということだが、10個以上ついているものも多かった。

Fig.4 花序。(長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)
  花序枝を多数出して複生する。枝の先には扁平な小穂が掌状に集まる。

Fig.5 花序の拡大。(長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)
  小穂はふつう3〜8個つくが、19個もついていた。2個の花穂が合着したものだろうか。
  鱗片はまばらに付くため、小穂の小軸が外からよく見える。

Fig.6 ミズハナビの小穂。(長崎県・溜池畔 2009.10/24)
  小穂は線状長楕円形で扁平。鱗片は長さ0.7〜1mmであった。

Fig.7 小穂の1部を拡大。(長崎県・溜池畔 2009.10/24)
  鱗片の先は切形にちかい円頭で、中部より上が少し外反する。

Fig.8 痩果。(長崎県・溜池畔 2009.10/24)
  痩果は白色または淡黄白色、長さは0.4mmで、表面には瘤粒がある。

生育環境と生態
Fig.9 刈り取り後の水田に生育するミズハナビ。(長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)
スズメノハコベ、シソクサ、アブノメ、ホシクサ、ミズマツバ、ヒメミソハギ、タウコギなどの水田雑草が多い、自然度の高い水田に生育していた。

Fig.10 水田で群生する集団。(長崎県・刈り取り後の水田 2009.10/25)
いずれの個体も草丈が10cm前後で、刈り取り後の水田で群生していた。刈り取り後に一斉に発芽して、急いで花序を広げたものだろう。

Fig.11 溜池畔にまばらに群生するミズハナビ。(長崎県・溜池畔 2009.10/24)
半裸地状の溜池畔に多数の個体が見られた。背の低いコバノウシノシッペイとともに生育している。
かなり早い時期から生育していたと思われ、枯れた長い花茎や葉が残存する個体も見られた。
他に池畔にはカサスゲ、キシュウスズメノヒエ、ホソバノウナギツカミが見られ、溜池内にはガガブタ群落が見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.180〜184. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.238〜245. pls.60〜61. 保育社
北川淑子・堀内洋. 2001. カヤツリグサ属カヤツリグサ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 400〜408. 神奈川県立生命の星・地球博物館
谷城勝弘, 2007 カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 250. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミズハナビ. 『近畿地方植物誌』 163. 大阪自然史センター

最終更新日:11th.Jan.2011

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