ツルナシコアゼガヤツリ Cyperus haspan  L. var. microhaspan  Makino カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.12/1)

Fig.2 (兵庫県南稲美町・溜池畔 2013.11/6)

溜池畔、湿地などに生える小型の1年草。
叢生して株となり、茎は高さ10〜25cm、基部に短い少数の葉がある。匍匐根茎はふつう持たない。
花序は長さ5〜10cm、花序枝は多くが複生する。苞葉は葉状で2個が目立ち、うち1つは花序と同長または長い。
花序枝は長短があり5〜10(〜15)本。小穂は5〜10個が掌状につく。
小穂は長楕円形、長さ3〜8mm、15〜40個の花がつく。
鱗片はややまばらにつき、長楕円形、長さ約1.1mm、紅褐色を帯び、中肋は短く突出し外曲する。
痩果は長さ0.5〜0.6mm。雄蕊は1個。柱頭は3岐する。

【メモ】 本種は比較的最近になって認識されるようになった種である。兵庫県下では播磨地方から淡路島を中心に記録が点在する。
     今回とりあげたものの自生地ではシカの食害が激しく、実例としては不適当にも思われたが、同じく小型のミズハナビと比較するのに
     好都合とも考えられたのであえて掲載することにした。
     晩秋の小型のものはミズハナビとよく似るが、ミズハナビは鱗片が切形〜円頭となる点で明らかに異なる。

コアゼガヤツリ(var. tuberiferus)とミズハナビ(ヒメガヤツリ)C. tenuispica)によく似る。 相違点は以下の比較表を参照。  
     ・・・・・・・・・ コアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. tuberiferus  T.Koyama
ツルナシコアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. microhaspan  Makino
ミズハナビ
(ヒメガヤツリ)
C. tenuispica  Steud.
 生活形  多年草  1年草  1年草
 匍匐根茎  明瞭  ふつう無いが、時に
 短い根茎がある
 無い。叢生する
 全高(cm)  20〜50  10〜25  5〜20
 苞葉  1〜2  1〜2  1〜(2)
 小穂の形態  線形・扁平  長楕円形  著しく扁平
 鱗片の先  凸頭で外反しない  外曲する短芒  切形で外反
 鱗片の間から痩果が見えるか  見えない  見える  見える
 鱗片の間に隙間があるか  無い  ある  ほとんど無い
 痩果(倒卵形)の長さ  0.6〜0.8mm  0.5〜0.6mm  約0.4mm
 雄蕊の個数  3個  1個まれに2個  0〜2個
近似種 : コアゼガヤツリミズハナビ(ヒメガヤツリ)

■分布:本州(関東以西)、四国、九州、沖縄 ・ 旧世界の熱帯〜亜熱帯
■生育環境:溜池畔、湿地など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。

Fig.3 全草標本。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  叢生し、ふつう匍匐根茎は持たないが、ときに短く出すものが出る。
  画像のものは晩秋に採集したもので、夏〜秋に出た長い花茎はすでに枯れたか、シカの食害によって見られず、
  短い花茎を多数上げているもの。

Fig.4 全草標本 その2。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.12/1)
  減水した溜池畔で生育していたもの。

Fig.5 基部。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  基部は赤褐色〜淡褐色。赤褐色のひげ根を生じる。

Fig.6 花序。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  花序枝は長短があり、5〜10個。苞葉は2個が目立ち、うち1つは花序と同長か長い。

Fig.7 分花序。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  分花序には5〜10個の小穂が掌状につく。小穂は長楕円形、長さ3〜8mm、15〜40個の花がつく。

Fig.8 小穂の拡大。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  下方(左手)の花は痩果が熟して半ば見えている。鱗片は紅褐色を帯び、中肋は突出して外曲する。

Fig.9 痩果。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.11/7)
  痩果は3稜あり、倒卵形、長さ0.5〜0.6mm、淡黄褐色で、表面には細粒がある。

生育環境と生態
Fig.10 溜池畔に生育するツルナシコアゼガヤツリ。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.12/1)
水の引いた溜池畔のマツバイやキクモの群落中や半裸地の土壌に点々と見られた。
溜池畔の水に浸からない部分には比較的大きな個体が多く、シカに齧られているものが多い。
画像のような水が引いた部分に生育するものは、ほとんどが小さな個体で、水が引いてから発芽生長したものと思われる。
もとから陸地に生育しているものは、食害を受けたサイコクヌカボ群落の株元に点在していた。

Fig.11 溜池の裸地に生育するツルナシコアゼガヤツリ。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.12/1)
黄色の矢印がツルナシコアゼガヤツリで、茎を地表近くに広げるように伸ばしている。
白色矢印は枯れかけたメアゼテンツキ、水色はハリイ、黄緑色はマツバイ。他にヒメアオガヤツリ、トキンソウ、アゼナなどが生育している。

Fig.12 干上がった溜池畔に群生するツルナシコアゼガヤツリ。(兵庫県南稲美町・溜池畔 2013.11/6)
ツルナシコアゼガヤツリは満水時で水際となる場所ではウキシバやヌマカゼクサの勢いに押されてか、ほとんど見られず、干上がって出現した裸地で
多数の個体が群生していた。
ここではヒナガヤツリ、アオガヤツリ、ヒメアオガヤツリ、メアゼテンツキ、アオテンツキ、サワトウガラシ、アゼナ、トキンソウ、ムラサキトキンソウ、
ヒロハホウキギク(ロゼット)、スカシタゴボウなどが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川淑子・堀内洋. 2001. カヤツリグサ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 400〜408. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003. ツルナシコアゼガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 84,85. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007. ツルナシコアゼガヤツリ. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 185. 全国農村教育協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ツルナシコアゼガヤツリ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:164.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:2nd.Aug.2014

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