コアゼガヤツリ Cyperus haspan  L. 
 var. tuberiferus  T.Koyama
カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・休耕田 2006.9/21)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/8)

湿地や休耕田に生える1年草。
地下の匍匐根茎を伸ばし、各節から茎を単生する。茎は柔らかく、高さ20〜50cm。葉は花茎よりも短く、幅2〜3mm。
花序は複生、または単一し、まばらに小穂をつける。花序枝は10〜20個、長さ5〜10cm、先端に3〜8個の小穂をつける。
苞葉の葉身は1〜2個つき、葉状、花序枝と同長か長い。花序よりも長い苞葉は、葉身中部で折れ曲がって先が垂れることが多い。
小穂は扁平、線形で、長さ5〜10mm、紅色を帯び、10〜25個の花を密につける。
鱗片は長さ約1.5mm、鈍頭、中肋は緑色、凸頭で外反しない。
痩果は長さ0.6〜0.8mm、花柱の長さは痩果の1/2以下。柱頭は3岐する。

よく似たものに、稀に産するツルナシコアゼガヤツリ(var. microhaspan)があり、本州、四国、九州に分布する。
1年草で、匍匐根茎はなく叢生し、コアゼガヤツリより全体的に小型で、高さ10〜25cm。花序の苞葉は花序と同長。
鱗片は長さ約1mmで、中肋は短く突出して外反する。痩果は長さ約0.5〜0.6mmで、花柱は痩果とほぼ同長。
また、ツルナシコアゼガヤツリに酷似するものに、ミズハナビ(ヒメガヤツリ)C. tenuispica)があり、
痩果の長さは0.5mm以下。稀に見られる。
以下に相違点の比較表をつくってみた。
     ・・・・・・・・・ コアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. tuberiferus  T.Koyama
ツルナシコアゼガヤツリ
C. haspan  L. 
 var. microhaspan  Makino
ミズハナビ
(ヒメガヤツリ)
C. tenuispica  Steud.
 生活形  多年草  1年草  1年草
 匍匐根茎  明瞭  ふつう無いが、時に
 短い根茎がある
 無い。叢生する
 全高(cm)  20〜50  10〜25  5〜20
 苞葉  1〜2  1〜2  1〜(2)
 小穂の形態  線形・扁平  長楕円形  著しく扁平
 鱗片の先  凸頭で外反しない  外曲する短芒  切形で外反
 鱗片の間から痩果が見えるか  見えない  見える  見える
 鱗片の間に隙間があるか  無い  ある  ほとんど無い
 痩果(倒卵形)の長さ  0.6〜0.8mm  0.5〜0.6mm  約0.4mm
 雄蕊の個数  3個  1個まれに2個  0〜2個
近似種 : ツルナシコアゼガヤツリミズハナビ(ヒメガヤツリ)アゼガヤツリクグガヤツリカワラスガナチャガヤツリ

■分布:東北地方南部以南の本州、四国、九州、沖縄 ・ 全世界の暖地
■生育環境:山間の棚田の休耕田や用水脇、湿地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:中・北部の棚田周辺の湿地、とくに休耕田で見られることが多い。やや普通。

Fig.3 全草の様子。(兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/19)
  多くの図鑑では葉は花茎よりも短いとなっているが、この個体では葉身がかなり長い。

Fig.4 基部と根茎。(兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/19)
  基部は葉身のない鞘に包まれ褐色を帯びる。地中には根茎の先端や節に越冬すると思われる新芽が形成されていた。
  ひげ根や根茎は赤味を帯びている。

Fig.5 花序には2枚の苞葉がつき、花序枝は10〜20個つく。(西宮市・休耕田 2007.8/30)

Fig.6 花序枝先端には3〜8個の小穂が付く。(西宮市・休耕田 2007.8/30)

Fig.7 小穂。(西宮市・休耕田 2007.8/30)
  小穂は扁平、線形で、中肋は緑色。先端は凸頭で、外反しない。

Fig.8 痩果。(西宮市・休耕田 2007.11/1)
  痩果は0.6〜0.8mmで、3稜ある倒卵形。雌蕊柱頭は3岐する

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 休耕田で見られるコアゼガヤツリ。(西宮市・休耕田 2007.8/30)
花序よりも長い苞葉がよく目立つ。
本種はアゼガヤツリよりも自然度の高い、山間の水田脇や休耕田で見かけることが多く、その個体数はアゼガヤツリよりも多い。
画像中にはヤナギタデ、シカクイ、コブナグサ、サワヒヨドリ、ヒメシダが見える。
サワヒヨドリとコアゼガヤツリが同所的に見られるのが、市内での山間の棚田休耕田の特徴である。

Fig.10 水田の畦に生育するコアゼガヤツリ。(西宮市・水田の畦 2009.9/22)
コアゼガヤツリはその名のとおり水田の畦で見られることがあるが、平野部の水田には現れず、自然度の高い棚田の畦に限られる。
コアゼガヤツリが生育していたこの水田も棚田の奥にあり、畦の横を流れる細流脇にはオニスゲやタニガワスゲ、ムカゴニンジン、
オオミズゴケなどが生育している。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 溜池畔に生育するコアゼガヤツリ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/10)
コアゼガヤツリは湿地や休耕田で見かけることが多いが、溜池畔で生育することもあり、市内でもそのような場所がある。
ここではヒメホタルイがまばらに生えた半裸地に生育していた。茎は列をなして上がっており、根茎の節から茎が出ている様子がうかがえる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 180〜184. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.238〜245. pls.60〜61. 保育社
北川淑子・堀内洋. 2001. カヤツリグサ属カヤツリグサ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 400〜408. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 コアゼガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 82〜83. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コアゼガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 249. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コアゼガヤツリ. 『近畿地方植物誌』 162. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. コアゼガヤツリ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:164.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:2nd.Oct.2014

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