チャガヤツリ | Cyperus amuricus Maxim. | カヤツリグサ科 カヤツリグサ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・河川敷 2007.10/18) 畑地や草地、河川敷などに生育する1年草。 あまり叢生はせず、茎は高さ15〜40cmになり、葉は有花茎よりも短く、幅1〜3mm。 基部の鞘は淡褐色〜褐色ときに赤味を帯びる。苞葉の葉身は3〜5枚、葉状で2〜3枚は花序よりも長い。 花序は単生、5〜8本の花序枝を持つ。分花序は15〜20個の小穂からなる。 小穂は線形、赤褐色で、長さ10〜25mm、10〜40個の花をつける。 鱗片は卵形、長さ2〜2.3mm、外側に反曲する長さ5mmの芒を持つ。 痩果は倒卵形、長さ1.3mm、熟すと黒褐色になる。花柱は短く、柱等は3岐する。 カヤツリグサやコゴメガヤツリと似た生育環境に生えるが、多少乾いたところに生え、個体数は少ない。 従来チャガヤツリとされてきたものは、チャガヤツリ(var. amuricus)とコチャガヤツリ(var. japonica)に分けられる。 以下に『神奈川県植物誌 2001』に準拠し、区別点をテーブルにした。 |
・・・・・・・・・ | チャガヤツリ Cyperus amuricus Maxim. var. amuricus |
コチャガヤツリ Cyperus amuricus Maxim. var. japonica Miq. |
花序枝の数 | 5〜10 | 5〜10 |
花序枝の長さ | 短いものから10cmのものまで | 短いものから10数cmのものまで |
花序は単生か複生か | 単生 | ときに複生 |
小穂(線形)の長さ・幅 | 10〜25mm・2mm | 5〜15mm・1.5mm |
鱗片(卵形)の全長・幅 | 2〜2.3mm・1.5mm | 1.5〜1.8mm・1mm |
鱗片の芒部分の長さ | 0.5mm | 0.3mm |
鱗片の紫褐色を帯びる部分の広さ | 広い | 少ない |
痩果(倒披針形)の長さ・幅 | 1.3mm・0.6〜0.7mm | 0.8〜1mm・0.4〜0.5mm |
生育環境 | 河川中流域の砂利混じりの砂質の河原など | 畑や路傍など、人為的な環境 |
兵庫県維管束植物では両変種は分けられておらず、全てチャガヤツリの中に含まれており、標本を再検討して分けられるべきだろう。 | ||
チャガヤツリは種間雑種を生じやすく、以下のものがある。 オオチャガヤツリ(C. ×babae)はカヤツリグサとの雑種で、花序は複生し、小穂の鱗片の先は鋭く、小軸の翼は強調される。 フサガヤツリ(C. ×condensatus)はコゴメガヤツリとの雑種で、長い線形褐色の小穂がコゴメガヤツリ様の複生花序をなし、鱗片の先はあまり鋭くなく、少しとがる。 チャイロクグガヤツリ(C. ×amurico-compressus)はクグガヤツリとの雑種。クグガヤツリより穂の幅が広く、茎は多く叢生し、鱗片と痩果はチャガヤツリよりも大きい。 チャハマスゲ(C. ×ogawai)はハマスゲとの雑種。チャガヤツリの穂をしているが、地下茎がある。小穂の鱗片には長さ約0.3mmの尖頭がある。 また、カヤツリグサ(C. microiria)に似るが、チャガヤツリの花序は複生せず、少し小型で赤褐色で、鱗片の芒が外曲する点で区別できる。 近似種 : カヤツリグサ、 クグガヤツリ、 アゼガヤツリ、 コアゼガヤツリ、 コゴメガヤツリ ■分布:本州、四国、九州、沖縄 ■生育環境:畑地や草地、河川敷など。 ■果期:6〜8月 ■市内での分布:市内では稀で、有馬川の河川敷と中部の社寺内で確認できた。武庫川のものは酷似するコチャガヤツリである。 |
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↑Fig.2 全草標本。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 草体は高さ15〜40cm、水分条件の悪いものは小型になりやすい。葉は有花茎よりも短い。 |
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↑Fig.3 基部は淡褐色〜褐色で、赤味を帯びることもある。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) |
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↑Fig.4 葉身。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 上は葉表、下は葉裏。葉身の横断面ははV字形、幅は1〜3mm、葉縁は平滑。 |
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↑Fig.5 花序。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 苞は葉状で3〜5枚、うち2〜3枚は花序よりも長い。5〜8本の花序枝の先に分花序を単生する。 |
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↑Fig.6 分花序は15〜20個の小穂からなる。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) |
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↑Fig.7 小穂。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 小穂は小花が2列に並び、扁平、長さ10〜25mm、鱗片の間は隙間が空かない。下方の鱗片と痩果は脱落している。 |
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↑Fig.8 鱗片。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 鱗片は長さ2〜2.3mm、外曲する芒は、長さ0.5mm。コチャヤガヤツリと最も区別しやすい特徴を持つ。 |
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↑Fig.9 痩果。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 痩果は倒卵形〜長倒卵形、横断面は3稜形、長さ1.3mm。 |
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↑Fig.10 痩果の拡大。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 痩果の表面には細粒が並んでいる。花柱はごく短く、柱頭は3岐する。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.11 社寺境内の草地に生育するチャガヤツリ。(西宮市・社寺境内 2015.10/03) 社寺境内の適湿な場所から砂地にかけて、チャガヤツリが点々と生育していた。 西宮市内では8年ぶりに見た集団で、土壌改変の少ない社寺境内に生き残っているものだろう。 撹乱を受けるような多くの場所ではほとんどがコチャヤガヤツリで、チャガヤツリと誤認している可能性が高い。 ここでは表土が薄いためかアレチヌスビトハギが見られるが猛威を振るうほど繁殖しておらず、メヒシバ、コメヒシバ、ネズミノオ、 カヤツリグサ、コゴメガヤツリ、イヌクグ、メアオスゲ、コスミレ、ネコハギ、ヘクソカズラ、コナスビ、ハハコグサ、チチコグサ、 ウラジロチチコグサ、オニタビラコ、トウバナなどとともに混生している。 乾燥した砂地に生育しているものは草丈が低く、基部からの分けつも少ない。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.180〜184. pls.164〜168. 平凡社 小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.238〜245. pls.60〜61. 保育社 北川淑子・堀内洋. 2001. カヤツリグサ属カヤツリグサ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 400〜408. 神奈川県立生命の星・地球博物館 星野卓二・正木智美, 2003 チャガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 76,77. 山陽新聞社 谷城勝弘, 2007 カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会 星野卓二・正木智美, 2011 チャガヤツリ,コチャガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 720,721. 平凡社 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. チャガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 248. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. チャガヤツリ. 『近畿地方植物誌』 161. 大阪自然史センター 最終更新日:16th.Oct.2015 |