ノギラン Metanarthecium luteo-viride  Maxim. ユリ科 ノギラン属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・農道脇 2010.7/18)

棚田の斜面、溜池畔の裸地や草地、山道の湧水のある斜面などに生育する多年草。
根生葉は扁平な倒披針形で長さ8〜20cm。花茎は上部で総状花序をつくり、高さ20〜50cm。
葉はつかないが、花序の基部付近に線形の小さな苞葉を数個つける。総状花序には腺毛がある。
花柄は長さ2〜4mm。花は斜上〜上向きに開き、花被片は線状披針形で、中肋と先端部は黄緑色〜淡紅色、周囲は白色、長さ6〜8mm、花後も宿存する。
雄蕊は花被片よりも短く、花糸は無毛、葯は朱色。
刮ハは楕円形で花被片よりも短く、種子は卵形で長さ0.7mm前後。

ノギランをソクシンラン属とする説もあるが、ソクシンラン属の中で似たものにネバリノギランAletris foliata)がある。
山地〜亜高山帯の草地に生え、花茎には小さな葉をつけ、花被は黄緑色のつぼ形で、花茎に粘着する腺毛がある。
また、花をつけていない根生葉の状態ではショウジョウバカマHeloniopsis orientalis)やコチョウショウジョウバカマH. breviscapa)に似るが、
両種ともに新芽は筆状にかたまって出てくるが、ノギランは1枚づつ出てくる点で区別できる。
ショウジョウバカマやコチョウショウジョウバカマは冬期ロゼットを形成して常緑越冬するが、ノギランは冬には地上部は枯れてしまう。
近似種 : ショウジョウバカマコチョウショウジョウバカマ(シロバナショウジョウバカマ)、 ネバリノギラン

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 南千島
■生育環境:棚田の斜面、山地の休耕田、溜池畔の裸地や草地、湿地、日当たりの良い山道の湧水のある斜面など。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:中・北部の棚田や低山地に比較的普通。

Fig.2 花序は総状花序。(神戸市北区・溜池畔 2007.7/15)
  花柄のある花被をやや密ににつけ、花序の直下には数個の線形の苞葉がある。

Fig.3 花被と花茎。(神戸市北区・溜池畔 2007.7/15)
  花序中軸には腺毛が生える。花柄の基部には線形で不同長の2個の苞葉がある。
  雌蕊柱頭は3浅裂し、柱基付近には緑色〜黄褐色の斑紋がある。
  雄蕊6個は花被片と対生し、花糸は無毛で基部はひろがって三角状になる。葯は朱色。

Fig.4 花後の花茎。(西宮市・湧水のある崖地 2008.7/27)
  花被片と花糸は花後も宿存し、花被片は緑色となって閉じて未熟な刮ハを包み込む。

Fig.5 種子散布期の花茎。(兵庫県姫路市・ハゲ山の草地 2011.11/28)
  花被片は種子散布期まで宿存している。

Fig.6 種子。(兵庫県姫路市・ハゲ山の草地 2011.11/28)
  種子は卵形〜楕円形、赤褐色で長さ0.7mm前後。

Fig.7 赤く色づいたノギランの新芽。(兵庫県三田市・溜池畔 2009.3/19)
  秋頃、根茎に越冬芽が形成され、冬期には地上部は枯れて、翌春になると枯れた根生葉の間から新たに萌芽する。

Fig.8 春先に山道の脇の斜面から出芽したノギラン。(西宮市・湿った斜面 2008.4/9)
  ときに混生することもあるショウジョウバカマと似るが、新芽が筆のようにまとまって出るのがショウジョウバカマ、一枚づつ広げるのがノギラン。

Fig.9 春に見られるロゼット。(西宮市・明るい疎林内の枯れた沢 2007.4/30)

Fig.10 花茎を上げはじめたノギラン。(西宮市・林縁 2007.5/27)
  蕾に先立って、苞葉がまとまって出てくる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 水田の畦にまばらに群生するノギラン。(西宮市・棚田の畦 2007.8/2)
棚田の畦の、比較的傾斜のきつい被植物の少ない斜面にかたまって生えている。
ここではモウセンゴケ、アリノトオグサ、コケオトギリ、ヌマトラノオ、ヤマラッキョウなどとともに見られた。

Fig.12 崩壊地の湿った枯れ沢で生育するノギラン。(西宮市・崩壊地 2007.5/24)
風化した花崗岩の崩壊地で、地下水によって適度な湿り気を保つ枯れ沢に見られた。このような場所にはノギランが多い。
同様な環境を好むモウセンゴケ、ソクシンラン、センブリ、イヌノハナヒゲ、トダシバも多い場所である。

Fig.13 湧水のある崖地に群生するノギラン。(西宮市・崖地 2008.7/27)
山際に開かれた用水路脇が崖地となり湧水が滲み出して湿生植物の群落が見られた。
この場所のノギランは生育状態が大変よく、花茎が大きく生長して崖から下垂して分枝するものが多かった。
周辺にはモウセンゴケ、ソクシンラン、ショウジョウスゲ、コモチシダなどが見られる。


Fig.14 休耕された棚田の土手に生育するノギラン。(西宮市・休耕田 2007.7/19)
山間にある休耕された棚田の土手に生育しているもの。
脇には溜池があり、適湿な環境となっている。棚田は休耕はされているが、周辺は春先には草刈りされて野焼きもされている。
土手は背丈の低いネザサとススキ主体の草原となっており、リンドウ、サワヒヨドリ、ヒヨドリバナ、ワレモコウ、シラヤマギク、キクバヤマボクチ、
オミナエシ、コバギボウシ、ツクシハギ、ミツバツチグリ、ヒメハギ、トダシバ、アオスゲ、ノゲヌカスゲ、ウツギ幼木、コガクウツギ幼木、
ハンノキ幼木、コナラ幼木、ケアクシバなどが見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.15 溜池畔に群生するノギラン。(兵庫県三田市・溜池畔 2008.7/21)
比較的地味な花をつけるノギランだが、淡紅色の花被をつけて群生する姿は目を惹く。
この群落中にはイシモチソウ、ノテンツキ、ヤマイ、イヌノハナヒゲが見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔,1982 ユリ科ノギラン属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本1 単子葉類』
       p.29. pl.21. 平凡社
北村四郎, 2004 ユリ科ノギラン属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.152. pl.42. 保育社
牧野富太郎, 1961 ノギラン. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 830. 北隆館
木場英夫・高橋秀男. 2001. ユリ科ソクシンラン属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 202〜203. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ノギラン. 『六甲山地の植物誌』 217. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ノギラン. 『近畿地方植物誌』 143. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
黒崎史平・布施静香 2007. ノギラン. 兵庫県産維管束植物9 ユリ科. 人と自然15:98. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:23rd.Jan.2012

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