ヌマトラノオ Lysimachia fortunei  Maxim. サクラソウ科 オカトラノオ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2007.7/19)

Fig.2 (兵庫県篠山市・休耕田 2013.7/11)

湿地、溜池畔、棚田の畦や休耕田、用水路脇などに生育する多年草。
地下に根茎を横走し、群生する。茎は高さ40〜70cmであまり分枝せず、基部は紅色を帯びる。
葉は無毛、淡色の腺点があり長さ3〜8cm、幅1〜2cm。
花は総状花序にやや密につき、小花柄は1〜3mm。萼は5深裂し、裂片は卵状楕円形で鈍頭、背面には黒点がある。
花冠は5裂し径5〜6mm。雄蕊5個。柱頭4個。刮ハは球形で径2〜2.5mm。

湿地に稀に見られる近似種サワトラノオL. leucantha)は茎に稜があって角張り、葉肉内には黒点があり、花期は4〜5月。
トウサワトラノオL. candida)は絶滅危惧1A類に指定されている稀少種で、幅7〜10mmの細いへら形〜倒披針形の葉を持ち、花期は4〜5月。
山野の草地にはよく似たオカトラノオL. clethroides)が生育する。小花は密に集合して先の垂れた太い花序となり、葉幅は2〜5cmと広い。
ノジトラノオL. barystachys)は葉がヌマトラノオににるが、花序の先は垂れ、葉や花序に淡褐色の毛が多い。
他にヌマトラノオとオカトラノオの種間雑種イヌヌマトラノオ、ノジオカトラノオとオカトラノオの種間雑種ノジオカトラノオなどがある。
ヌマトラノオ、オカトラノオを除いていずれも稀で、サワトラノオを除いては近畿地方で確認されていない。
近似種 : サワトラノオ、 トウサワトラノオ、ノジトラノオ、 オカトラノオ

■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、満州、インドシナ
■生育環境:棚田の畦、休耕田、用水路、溜池畔、耕作地周辺の湿った場所など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:中・北部の棚田周辺や溜池畔などに比較的普通。

Fig.3 花序。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
  総状花序に小花をやや密につけ、花序は直立して先はほとんど垂れない。

Fig.4 花冠。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
  花冠はふつう5裂に斜開し、花冠裂片は萼裂片と互生、裂片は倒卵形で円頭気味、白色、径5〜6mm。
  雄蕊5個、花冠裂片と対生して、花冠の外に出ない。
  花柱はオカトラノオのものよりも短く、雄蕊より短い。柱基は朱色、柱頭は短く4岐する。

Fig.5 花茎と多弁化した花冠。(西宮市・棚田 2007.7/8)
  花茎は無毛。花柄の基部には線形の苞葉があり、花柄と萼片を合わせた長さとほぼ同長。萼片には黒腺がある。
  画像には6裂や7裂した花冠が見られ、その場合は雄蕊も同数つく。

Fig.6 果実のついた花序。(西宮市・休耕田 2007.11/18)
  果実は刮ハ。刮ハがふくらむにつれて果柄は伸び、熟すころには5〜6mmとなる。



Fig.7,8,9,10 刮ハと種子。(西宮市・休耕田 2007.11/18)
  刮ハには花柱が宿存し、外壁はやや硬く(上段左Fig.6)、種子は刮ハ内の肉質に肥厚した胎座にはめ込み状に並ぶ(上段右Fig.7)。
  種子には明瞭な2稜と不明瞭な1稜の計3稜あり、楕円形、長さ0.6mm前後、赤褐色で、表面には格子模様がある(中段Fig.8および下段Fig.9)。

Fig.11 秋には草体が紅葉することがある。(西宮市・棚田の畦 2006.11/9)
  棚田の土手のような風が吹き付ける場所に生育するものは、寒気にあたって草体が紅葉する。

Fig.12 春先に地下の根茎から萌芽したヌマトラノオ。(西宮市・棚田の畦 2007.4/8)
  新芽の先は赤味を帯びる。
  長い葉柄をもつ卵形の葉はハナニガナのもの。

Fig.13 成長期の草体。(兵庫県三田市・溜池畔 2007.6/8)
  年に数度刈り込みが行われる場所であり、草体はこじんまりとしている。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 溜池畔に群生するヌマトラノオ。(西宮市・溜池畔 2007.7/19)
市内では最も大きなヌマトラノオの群落。毎年春先に野焼きが行われて、7月終わりになるとヌマトラノオが一斉に開花する。
周囲の水田が休耕となって不動産屋が管理するようになり、2008年度は野焼きが行われずススキが背高く茂っている。
ヌマトラノオ群落内にはカキランも群生しており、今後どう変化してゆくか注意して見守ってゆきたい。

Fig.15 棚田最上部の湿田の畦に生育するヌマトラノオ。(西宮市・棚田の畦 2007.8/2)
チゴザサ群落中に、ノギラン、コアゼガヤツリ、ヤノネグサ、ヤマラッキョウ、ホソバリンドウ、ミズギボウシなどと生育している。

Fig.16 増水した溜池畔で沈水状態のヌマトラノオ。(西宮市・溜池畔 2006.9/17)
沈水時の葉は小さくて丸みを帯びるが、沈水にはそれほど耐性はなく、はやばやと茎を水面へと伸ばす。
水面上に茎がでると、普通の気中葉を出し、水中の茎についている葉は落葉する。
沈水状態で線形の葉を束生している草体はイトイヌノヒゲ。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. サクラソウ科オカトラノオ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.16〜19. pl.12〜14. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 サクラソウ科オカトラノオ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花編』 p.227〜230. pl.68. 保育社
牧野富太郎, 1961 カリマタガヤ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 476. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 ヌマトラノオ・サワトラノオ. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 p.121. pl.119. 保育社
永田芳男, 2003. サワトラノオ・トウサワトラノオ. 『レッドデータプランツ』 p.186〜187. 山と渓谷社
村上司郎. 2001. サクラソウ科オカトラノオ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1108〜1112. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヌマトラノオ. 『六甲山地の植物誌』 173. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヌマトラノオ. 『近畿地方植物誌』 53. 大阪自然史センター

最終更新日:18th.Mar.2014

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