サイコクヌカボ Persicaria foliosa  (H.Lindb.) Kitag. var. nikaii  (Makino) H.Hara タデ科 イヌタデ属
湿生植物  環境省絶滅危惧U類
Fig.1 (兵庫県加西市・溜池畔 2012.10/20)

Fig.2 (兵庫県加西市・水田の減反部 2011.11/14)

湿地や溜池畔、休耕田などに生える1年草で、群生する。沈水状態でも長期間生育できる耐性がある。
茎の下部は地表を這って、節から発根し、枝を多数分けて、上部は斜上して高さ30〜60cmになる。
葉は狭披針形で、ふつう長さ3〜8cm、鋭頭または鋭尖頭、基部は丸みを帯び、葉柄はごく短く、両面ともに伏毛がある。
これまで葉裏には腺点がないとされてきたが、兵庫県では一部または全ての葉裏に腺点のある個体が見られる。
托葉鞘は筒状で筒部表面には上向きの伏毛が生え、縁毛は筒部と同長か短い。
総状花序の中軸は細く、花をややまばらにつけ、先が垂れる。花は長さ2mm前後で5裂し、花被片の基部近くは淡緑色、上部は紅色を帯びる。
痩果は長さ1.6〜1.9mm、多くはレンズ形だが3稜形のものもわずかに混じり、茶褐色で平滑、光沢がある。

ヤナギヌカボ(var. paludicola)は花がサイコクヌカボよりも密につき、葉は線形で縁に平行な部分があり、葉裏には盛り上がった腺点がある。
兵庫県下ではサイコクヌカボで葉裏に腺点のある集団が各地で見つかっており、腺点は網状脈結節点に埋め込み状に散布する。
痩果はレンズ形、長さ1.2〜1.5mm。
ヌカボタデP. taquetii)はやや小型で、花は花序にごくまばらにつき、花序軸は非常に細い。
痩果は2稜形のもに3稜形が混じり、長さ1.5〜1.7mm、茶褐色、光沢があるが、表面には隆起の低い微細なちりめん状のしわがある。
近似種 : ヤナギヌカボヌカボタデエドガワヌカボ

■分布:本州(愛知県以西)、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■花期:9〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。兵庫県下では全国の中でも自生地が多く、絶滅危惧種の指定を受けていない。


Fig.3 全草標本。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  ふつう 茎の下部は地表を這い、分枝するが、この個体は水路内で密生していたもので大きな分枝が見られない。
  サイコクヌカボは近似種の中でも非常に変異幅が広く、典型的なもの以外は細部を調べて検討する慎重さが必要である。

Fig.4 花茎は分枝して複数の花序を持つ。花はややまばらにつく。(兵庫県加東市・溜池畔 2012.10/20)

Fig.5 花序の一部を拡大。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  各花被の長さ約2mm。花は小苞の腋につくが、時期をずらして2〜3個の花が順次現れる。
  花序軸はヌカボタデのものよりも明らかに太く、しっかりとしている。

Fig.6 開花した花。(京都府南丹地方・溜池畔 2013.10/8)
  花の径約2mm、雄蕊はふつう8個。柱頭は2岐する。

Fig.7 腋生する花序。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  茎の途中から腋生する花序には柄があり、花序の下部にはごくまばらに花がつき、ヤナギヌカボと区別できる。

Fig.8 花被。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  花被は5裂。花被片下部は淡緑色、上部は淡紅色、表面には腺点はない。

Fig.9 痩果。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  痩果はレンズ形であることが多いが、厳密にいえば片面がもう一方の面よりもより膨らんだ偏レンズ形となる。
  色は茶褐色で光沢があり、ほとんど平滑、長さ1.6〜1.9mm、先は急にすぼまり、鈍頭。
  画像右端の痩果は3稜形であるが、ヌカボタデのように中央稜が顕著に膨出することはない。
  加東市産の標本から得られた痩果50個についてその長さを調べたところ、以下の結果となった。
  ・1.9mm:3個(うち1個は3稜形)
  ・1.8mm:27個(全て2稜形)
  ・1.7mm:17個(全て2稜形)
  ・1.6mm:3個(全て2稜形)

Fig.10 托葉鞘。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  托葉鞘は膜質で全体に上向きの伏毛があり、口部の縁毛は筒部と同長または短い。

Fig.11 倒伏すると、節から発根する。(兵庫県小野市・溜池畔 2011.9/17)

Fig.12 葉。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
  葉は狭披針形で先はとがる。葉柄はごく短い。
  画像のものは典型的な葉であるが、生育の悪いものでは葉が小型となり、また葉幅も狭くなりヤナギヌカボと見紛うものがある。

Fig.13 葉裏に腺点のある葉。(兵庫県小野市・溜池畔 2011.9/17)
  これまで、サイコクヌカボの葉には腺点がないとされていたが、兵庫県下では腺点を持ったものが見られる。
  葉裏の腺点の有無はヤナギヌカボとの重要な区別点とされていたが、少なくとも兵庫県下の集団では同定のキーとしては使えない。
  腺点の有無は同一個体の葉の中にも見られ、腺点がないもの、少しあるもの、葉裏全面にあるものなど変異幅が広い。
  生植物ではこれらの腺点は網状脈の結節点の凹みに埋め込み状になっており、ヤナギヌカボの腺点は葉裏に膨出する。
 腺点の有無ではヤナギヌカボと区別できないが、腺点の状態によって区別が可能である。

Fig.14 表面に暗斑の出た葉。(兵庫県小野市・溜池畔 2010.10/27)
  葉には暗斑の出る個体と出ない個体とが見られる。また暗班は若い葉に顕著である。

Fig.15 近似3種。(兵庫県加古川市/加西市/三木市・溜池畔など 2012.10/14)
  左:ヤナギヌカボ。中:サイコクヌカボ。右:ヌカボタデ。
  ヤナギヌカボとサイコクヌカボは基部で分枝したものを切り出したもので、実際の草体はさらに大きい。
  サイコクヌカボはヌカボタデに比べて草体がしっかりしている。
  サイコクヌカボは生育環境によって草体が様々に変化するため、ヤナギヌカボとの区別が難しい場合がある。

Fig.16 近似3種の花序部分。(兵庫県加古川市/加西市/三木市・溜池畔など 2012.10/14)
  左:ヤナギヌカボ。中:サイコクヌカボ。右:ヌカボタデ。
  サイコクヌカボの花序軸はヌカボタデよりも明らかに太い。
  ヤナギヌカボに比べて、花はまばらにつく。

Fig.17 発芽間もない幼苗。(神戸市・休耕田 2013.5/19)

Fig.18 成長期の草体。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.7/18)
  暗斑の明瞭な集団が山間溜池で抽水状態で生育していた。

Fig.19 サイコクヌカボの沈水形。(兵庫県淡路島・溜池畔 2009.7/5)
  沈水形では節間が縮み、葉は線形〜線状披針形で基部はくさび形となり、葉裏は強く赤味を帯びる。

生育環境と生態
Fig.20 減水した溜池畔に生育するサイコクヌカボ。(兵庫県淡路島・溜池畔 2009.7/5)
Fig.16 と同じく溜池畔に見られた群生で、裸地のやや湿った部分から浅瀬にかけて生育していた。

Fig.21 溜池跡の湿地で群生するサイコクヌカボ。(兵庫県加西市・溜池跡 2010.8/24)
放棄後1〜2年経た溜池での群生。ガマ群落の株元から外周にかけて密な群落を形成している。
サイコクヌカボの株元やその周辺ではさらに草丈の低いオグラノフサモ、ヒナガヤツリ、ミズユキノシタなどが群落を作っている。

Fig.22 管理放棄された小池に群生するサイコクヌカボ。(兵庫県加西市・溜池 2011.10/19)
棚田際奥の管理放棄された小さな溜池で紅葉したサイコクヌカボが群生していた。
小さな池にはまだ表水があり、サイコクヌカボのほか、チゴザサ、マコモ、ヒメガマ、カサスゲ、ミゾソバ、ヤノネグサが密生していた。

Fig.23 休耕田で群生するサイコクヌカボ。(兵庫県加東市・休耕田 2012.10/20)
洪積台地上にある休耕田の一角で紅葉した群落が見られた。
表水があり、チゴザサが優占し、サイコクヌカボが群生する部分と、ボントクタデが群生する場所があった。

Fig.24 溜池土堤直下の水路で群生するサイコクヌカボ。(兵庫県加東市・水路 2012.10/20)
溜池土堤直下にある小さなコンクリの水路に密生していた。
水路には水がなく、遅れて発芽した小さな個体も多く、ひしめきあうように生育していた。
水路内にはほとんど他の植物は見られず、小規模ながらも純群落を形成している。

Fig.25 溜池畔に抽水状態で生育するサイコクヌカボ。(兵庫県加西市・溜池 2012.10/20)
秋期になっても減水していない溜池で抽水状態で生育している。
水面をヒシが覆う、やや富栄養なこの溜池では、ヤナギヌカボとサイコクヌカボ、ヤナギタデが混生している。
個体数はヤナギタデが圧倒的に多く、続いてサイコクヌカボが多く、ヤナギヌカボは十数個体程度が見られるのみだった。
水際の多くの部分はカサスゲとチゴザサが優占し、湛水しない部分ではヌマカゼクサが優占する。
サイコクヌカボはヌマカゼクサ群落中とカサスゲ群落周辺、カサスゲの勢力の及ばない岸辺に生育している。
ヤナギヌカボも同様な場所に混生していたが、ヌマカゼクサ群落中には見られなかった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北村四郎・村田源, 2004 サイコクヌカボ. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 合弁花類』 p.312. 保育社
林辰雄. 2001. タデ科イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サイコクヌカボ. 『六甲山地の植物誌』 109. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. サイコクヌカボ. 『近畿地方植物誌』 118. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. サイコクヌカボ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:107. 兵庫県立・人と自然の博物館
松岡成久 2010. 丹波・北摂地方でサイコクヌカボ(タデ科)を確認. 兵庫県植物誌研究会会報 85:3. 兵庫県植物誌研究会


最終更新日:27th.Oct.2014

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