ヤナギヌカボ | Persicaria foliosa (H. Lindb.) Kitag. var. paludicola (Makino) Hara. |
タデ科 イヌタデ属 |
湿生植物 環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Bランク種・西宮市絶滅種 |
Fig.1 (兵庫県東播磨・溜池畔 2012.10/14) |
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Fig.2 (兵庫県東播磨・旧畑作地 2012.10/14) 撹乱を受ける湿地、休耕田、溜池畔などの日当たりのよい湿った場所に稀に生育する1年草。 茎下部は倒伏、斜上分枝し、節から発根し、上部は斜上、高さ30〜60cmになる。 葉はごく短い柄があり、長披針形〜長線形で、中部付近は両縁が平行し、両端は細まり、長さ3〜9cm。 葉質はやや厚く、両面に毛があり、葉裏には瘤状の腺点を散布する。 托葉鞘は膜質筒状、長さ5〜10mm、縁毛があり、筒部と同長または短い。 総状花序は細く、密に花をつけ、頂生または腋生し、ほとんど直立する。 萼は5裂し、淡紅色、長さ約1.5mm。痩果はレンズ形、茶褐色で光沢があり、長さ約1.2〜1.5mm。 近似種 : サイコクヌカボ、 ヌカボタデ、 エドガワヌカボ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島 ■生育環境:湿地、休耕田、溜池畔など。 ■花期:9〜10月 ■西宮市内での分布:かつて西宮北口の池辺で1928年に採集された古い標本が東京都立大学牧野標本館に残っている。 もちろん現在の西宮北口にはすでに溜池は無く、市内での生育は確認できていない。県下では東播と但馬に記録がある。 |
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↑Fig.3 全草標本。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 基部付近の茎は斜上気味に倒伏して、節から発根、分枝する。 |
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↑Fig.4 ヤナギヌカボの葉。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) ごく短い葉柄があり、長披針形〜長線形、中部では両縁が平行となる。 |
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↑Fig.5 葉にはふつう暗斑が入る。(兵庫県東播磨・ハス田 2011.7/12) サイコクヌカボやヌカボタデよりも明らかに細長い。 |
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↑Fig.6 葉表(左)と葉裏(右)。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 葉は細く、両面ともに伏毛があり、縁には上向きの細毛が並ぶ。 |
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↑Fig.7 葉裏に見られる腺点。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 腺点は微小で、半透明で瘤状。全面にほぼ均等に見られる。 サイコクヌカボにも腺点があるものが見られるが、網状脈の結節点の窪みに埋め込み状に散在し、ヤナギヌカボより不明瞭。 |
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↑Fig.8 葉裏腺点の拡大。(兵庫県東播磨・溜池畔 2012.10/20) 瘤状の腺点が明瞭である。 |
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↑Fig.9 托葉鞘。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 筒部は膜質、伏せ毛は口部よりも基部付近でやや多い。縁毛は筒部と同長か短い。 画像のように花序が腋生する部分では縁毛は短い傾向にある。 |
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↑Fig.10 花序。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 花序は細く、直立し、茎に頂生、茎上部に腋生する。花は花序に密につく。 |
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↑Fig.11 頂花序の拡大。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 花被は5裂するが、ほとんど苞とその縁毛に埋もれている。そのためか完全に開いた花を見たことはなく、半開で開花しているようである。 花被の長さは約1.5mmで淡紅色。 |
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↑Fig.12 腋生する花序。(兵庫県東播磨・旧畑作地 2012.10/14) 腋生する花序の柄はほとんど認められず、サイコクヌカボやヌカボタデよりも花は非常に密につく。 |
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↑Fig.13 果は花被(宿存萼)に包まれたまま熟す。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 花被の表面には腺点らしきものは見られない。 |
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↑Fig.14 痩果。(兵庫県西播磨・休耕田のものを育成 2010.10/17) 痩果は広卵形、横断面はレンズ形、茶褐色で強い光沢があり、長さ1.2〜1.5mm。 サイコクヌカボやヌカボタデの痩果よりも小さく、ヌカボタデのように上端はとがらない。 痩果の表面は平滑で、ヌカボタデに見られるような微細なちりめん状のしわは無い。 加西市産の痩果長を計測したところ、以下のような結果となった。 ・1.5mm:1個 ・1.4mm:24個 ・1.3mm:24個 ・1.2mm:1個 |
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↑Fig.15 近似3種。(兵庫県加古川市/加西市/三木市・溜池畔など 2012.10/14) 左:ヤナギヌカボ。中:サイコクヌカボ。右:ヌカボタデ。 ヤナギヌカボとサイコクヌカボは基部で分枝したものを切り出したもので、実際の草体はさらに大きい。 サイコクヌカボは生育環境によって草体が様々に変化するため、ヤナギヌカボとの区別が難しい場合がある。 |
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↑Fig.16 近似3種の花序部分。(兵庫県加古川市/加西市/三木市・溜池畔など 2012.10/14) 左:ヤナギヌカボ。中:サイコクヌカボ。右:ヌカボタデ。 ヤナギヌカボの花序には、サイコクヌカボやヌカボタデに比べて、多数の小さな花が密につく。 |
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↑Fig.17 近似3種の葉。(兵庫県加古川市/加西市/三木市・溜池畔など 2012.10/14) 左:ヌカボタデ。中:サイコクヌカボ。右:ヤナギヌカボ。 ヤナギヌカボの葉は非常に細長く、両縁が平行となる部分がある。 |
生育環境と生態 |
Fig.18 休耕田で生育中のヤナギヌカボ。(兵庫県西播磨・休耕田 2010.7/10) 生育が見られたのは平野部にある溜池直下の一部で湛水している休耕田で、耕起された跡が明瞭で、春まで麦が栽培されていた可能性が高い。 同所的にはイヌビエ、イヌタデ、ノミノフスマ、イヌガラシ、ハリイ、コゴメガヤツリといった一般的に見られる水田雑草や畦畔雑草が見られ、 ヤナギヌカボ以外、取り立てていうほどのものは見られない。 上の溜池には防水シートが張られて、水草は全く見られないが、土堤にはクララ、コカモメヅルなどの草原性植物が生育していた。 周辺では同様な耕作後耕起された麦畑で、初夏から夏に結実するアオヒメタデが生育するが、ここでは見られなかった。 |
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Fig.19 溜池畔の湿地に生育するヤナギヌカボ。(兵庫県東播磨・溜池畔 2012.10/20) やや富栄養な溜池畔の湿地のカサスゲ群落中に生育していたもの。ここではヤナギタデ、サイコクヌカボと混生していた。 個体数はヤナギタデが圧倒的に多く、続いてサイコクヌカボが多く、ヤナギヌカボは十数個体程度が見られるのみだった。 水際の多くの部分はカサスゲとチゴザサが優占し、湛水しない部分ではヌマカゼクサが優占する。 サイコクヌカボはヌマカゼクサ群落中とカサスゲ群落周辺、カサスゲの勢力の及ばない岸辺に生育している。 ヤナギヌカボも同様な場所に混生していたが、ヌマカゼクサ群落中には見られなかった。 池畔にはこの他ミゾカクシ、フタバムグラ、カンガレイ、ヌカキビなどが生育し、水面はヒシが優占し、水中にはイヌタヌキモが見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 北川政夫, 1982. タデ科イヌタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.19〜24. pls.16〜23. 平凡社 北村四郎・村田源, 2004 ヤナギヌカボ. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 合弁花類』 p.312. pls.67. 保育社 林辰雄. 2001. タデ科イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館 牧野富太郎, 1961 ヤナギヌカボ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 117. 北隆館 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤナギヌカボ. 『六甲山地の植物誌』 109. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ヤナギヌカボ. 『近畿地方植物誌』 118. 大阪自然史センター 黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. ヤナギヌカボ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:107. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:22nd.Oct.2012 |