タチカモメヅル
 (アオタチカモメヅルを含む)
Cynanchum nipponicum  Matsum. var. glabrum  (Nakai) Hara ガガイモ科 カモメヅル属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)

Fig.2 (兵庫県加西市・溜池土堤 2011.7/12)

湿った草地や湿地などに生える多年草。
茎は下部が直立して、先はややつる状になって長さ40〜100cm、わずかに曲がった毛がある。
葉は対生し、葉柄は短く2〜5mm、葉身は長楕円状披針形でとがり、長さ3〜11cm、幅1〜4cm、やや厚く、裏面に短毛があり、
基部は円形または多少心形となる。
花は上部の葉腋に集まってつけ、暗紫色で径9mm内外。萼裂片は長さ約2mmで少し毛があり、花冠は無毛。
副花冠は卵状三角形で蕊柱よりやや短い。袋果は披針形で毛がなく、長さ4〜5cm、幅5〜7mm。

以下のような多数の変品種がある。
アオタチカモメヅル(f. viridesens)は花が黄白色を帯びたもの(Fig.5参照)。
オオアオカモメヅル(var. nipponicum)は全体やや大型で、花は黄白色を帯びる。本州中北部に分布。
その品種で花が紫色を帯びるものはナガバクロカモメヅル(f. abukumense)とされる。
マルバカモメヅル(var. rotundifolium)は茎基部からつる状となり、葉は卵状長楕円形で長さ3〜8cm、幅1〜5cm。広島県と九州に稀産。
近似種 : フナバラソウコカモメヅル

■分布:本州(近畿以西)、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:湿地、湿った草地など。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:『六甲山地の植物誌』に記録があるが、市内では未見である。

Fig.3 茎の上部はつる状となって他物に巻きつく。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
  湿地に生えたアブラガヤの茎に巻きついたタチカモメヅル。つるの巻きは一様にZ巻きだった。

Fig.4 立ち上がった茎に花をつけた個体。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
  草刈りによって刈り込みに遭った個体は、茎が短いまま立ち上がった状態で花をつける。
  花は対生する葉の葉腋に各1〜数個づつつく。

Fig.5 花冠。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
  他のガガイモ科植物同様、花冠の構造は複雑である。
  一番外側は5裂した花冠で、疎の内側の喉部に5裂した副花冠がついている。
  中心部は蕊柱で、雄蕊5個と、2心皮からなる雌蕊柱頭が合着している。合着した雄蕊の葯にはラン科のような花粉塊がある。

Fig.6 アオタチカモメヅル。(兵庫県小野市・溜池土堤下部 2011.7/31)
  タチカモメヅル群落中に稀に出現し、花冠が黄白色を帯びるもの。
  画像のものは副花冠が少し紫褐色を帯びており、タチカモメヅルとの中間的な個体といえるかもしれない。

Fig.7 葉。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
  葉身は長楕円状披針形でとがり、長さ3〜11cm、幅1〜4cm、質はやや厚く、基部は円形または多少心形となる。

Fig.8 葉柄。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
  葉柄は短く2〜5mm、その基部は対になる葉柄の基部と合着して、環状に茎を抱く。

Fig.9 ゴール(虫えい)を生じたタチカモメヅル。(兵庫県篠山市・疎林下の湿地 2010.8/23)
  ゴールにはアリが集まり、周辺には白い粉を吹いたような箇所が見られるため、アブラムシの仲間によって作られたゴールだろう。
  このようなゴールは半日陰に生育しているタチカモメヅルによく見られる。花は正常に開花しているので、新葉の芽にのみ選択的につくものだろう。

Fig.10 果実。(兵庫県加西市・休耕田 2010.10/20)
  果実は袋果、無柄、無毛で、披針形、赤紫色を帯び、長さ4〜5cm。

Fig.11 晩秋に黄葉した草体。(兵庫県加西市・溜池畔の草地 2009.10/30)
  冬を向かえて葉を落とす前に、草体は黄葉することが多い。

生育環境と生態
Fig.12 湿地化した休耕田に生育するタチカモメヅル。(兵庫県篠山市・休耕田跡の湿地 2009.9/11)
休耕田が山際の土手からの湧水によりオオミズゴケ群落の発達した湿地となっていた。
水田として開拓される以前も湿地だったと思われる場所で、タチカモメヅルをはじめとして、この周辺ではほとんど見られないサワギキョウ、
コシンジュガヤ、ノハナショウブ、アギナシなどが生き残っていた。
シカの多い地域であるが、防護柵の内側にあってシカやイノシシによる撹乱や食害から逃れ、また休耕して40年程経つが除草剤も使わず
初夏に一度だけ草刈りを行うという。このような条件が重なって、貴重な湿生植物が生き残ってこれたのだろう。

Fig.13 溜池畔に生育するタチカモメヅル。(兵庫県姫路市・溜池畔の草地 2011.8/30)
林縁から溜池畔へと続く草刈りの行き届いた草地の湿った場所に多数の個体が生育していた。
草地は背丈の低いネザサが優占し、ススキ、チガヤが混じり、アキノタムラソウ、キキョウなどの生育が見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
村田源, 1981. ガガイモ科カモメヅル属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.39〜43. pls.32〜36. 平凡社
北村四郎・村田源, 2004 ガガイモ科カモメヅル属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.205〜209. pls.63〜64. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タチカモメヅル. 『六甲山地の植物誌』 177. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タチカモメヅル. 『近畿地方植物誌』 49. 大阪自然史センター
布施静香・小林禧樹・山城考 2005. タチカモメヅル. 兵庫県産維管束植物6 ガガイモ科. 人と自然15:113. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Mar.2014

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