チゴザサ Isachne globosa  (Thunb.) O. Kuntze. イネ科 チゴザサ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.8/2)

Fig.2 (神戸市・湿地 2014.6/20)

水田や畦、溜池畔、用水路脇、河川敷などの湿った場所に生育する多年草。
茎は直立し、高さ20〜60cmになり、径1〜1.5mmと細くて堅く、やや紫色を帯びる。根際からは匍匐枝をのばして広がり、節から発根して定着する。
葉は披針形で長さ3〜6cm、幅3〜7mm、やや硬くて上面は光沢がなくざらつき、脈はきわめて細く、先はとがる。
葉舌はなく、長い列毛が生える。葉鞘は節間より短く、平滑である。
円錐花序は直立し、高さ3〜7cm、花序枝を普通3回分枝した先端に、1個の小穂をつける。
花序枝には小穂の手前付近に淡黄色の1腺点がある。
小穂は広楕円形、長さ2.2mm前後で、円頭、淡緑色〜紫褐色で、2個の苞穎に包まれた2小花を有する。
2個の小花は完全小花で、両方とも熟して、護穎と内穎に堅く包まれた穎果となる。

ハイチゴザサ(I. nipponensis)はチゴザサよりやや山地寄りに生育し、茎は横に這い、葉面や葉鞘、節には毛が多い。葉は広披針形。
ニコゲヌカキビ(Panicum acuminatum)もチゴザサに似て茎が直立するが、のちに倒伏して葉腋から花序を抽出する。全草に毛が多く、腺点はない。
近似種 : ハイチゴザサニコゲヌカキビ

■分布:日本全土 ・ 中国、東南アジア、オーストラリア
■生育環境:水田、休耕田、用水路、溜池畔、河川敷などのしめった場所など。
■花期:6〜8月
■西宮市内での分布:市内では各所で、ごく普通に見られる。

Fig.3 前年度の立ち枯れの根元から萌芽して伸びはじめたチゴザサ。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.5/12)

Fig.4 開花前、匍匐枝を盛んに伸ばす。(西宮市・溜池畔 2007.5/31)
  画像のような抽水状態のものは、水面上に匍匐枝を伸ばす。
  このような性質から、水湿地では群生することが多く、低地の湿原を構成する重要種である。

Fig.5 開花直前のチゴザサ。(三田市・休耕田 2007.6/15)
  数多くの横走する匍匐枝が見えるが、花茎を上げ始めると匍匐枝の生長は一旦止まる。

Fig.6 溜池畔で高密度で群生して多数の稈を立ち上げたチゴザサ。高さは60cm前後だった。(西宮市山口町・溜池畔 2007.7/19)

Fig.7 花序が展開し、開花中のチゴザサ。(西宮市山口町・用水路脇 2007.6/28)
  この状態で開花しているのは2個の両性花のうちの、後の1花で、
  最初の小花はほとんど葉鞘に包まれた閉鎖花で、自家受粉しているのではないかと思う。

Fig.8 小穂の苞穎内には完全な2小花があり、どちらも結実する。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.8/2)
  各小花は2個の堅固な護穎と内穎に包まれていて、穎果として熟しても、それらに包まれたまま落果する。

Fig.9 葉舌は、長毛列となる。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.8/2)
  葉鞘の外縁には毛が多い。

Fig.10 ときに、稈の節周辺に逆刺を持つ株がある。画像向かって左側が株元。(西宮市塩瀬町名塩・溜池畔 2007.8/2)
  *逆刺については神奈川県在住のmasaさんの掲示板「花なんでも掲示板」上での「花の詩」さんの教唆を受けました。
  花の詩さん、並びにmasaさんには感謝の意を表明いたします。ありがとうございました。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 水辺湿地林内の林床で匍匐枝を四方に伸ばすチゴザサ。(西宮市塩瀬町名塩・水辺湿地林内 2007.5/27)
線形の茎をあげているのはサンカクイ。他にアメリカセンダングサとアカバナが見えている。

Fig.12 溜池畔で抽水状態で生育するチゴザサ。(西宮市山口町・溜池畔 2007.6/27)
手前に見えているイネ科植物はトダシバで、チゴザサのある池畔のすぐ脇にはトダシバの大きな群落がある。
このような、チゴザサよりも大きな草体をもつ他の植物の群落に圧迫をうけると、チゴザサの花茎は高くなる傾向が見られる。
本ページ内Fig.5画像は、同じ場所のもの。

Fig.13 畦から水田に侵入したチゴザサ。(西宮市塩瀬町名塩・水田 2007.8/2)
匍匐枝によって水田に侵入し定着するため、同じイネ科のタイヌビエやキシュウスズメノヒエ、エゾノサヤヌカグサと同じく、水田では強害草とされる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. イネ科チゴザサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.96〜97. pl.78. 平凡社
小山鐡夫, 2004 イネ科チゴザサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.362〜363. pl.60. 保育社
藤本義昭. 1995. イネ科チゴザサ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 134〜136. 藤本植物研究所
古川冷實. 2001. イネ科チゴザサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 346〜348. 神奈川県立生命の星・地球博物館
桑原義晴, 2008 チゴザサ属. 『日本イネ科植物図譜』 p.276〜280. pl.22. 全国農村教育協会
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. チゴザサ. 『六甲山地の植物誌』 231. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. チゴザサ. 『近畿地方植物誌』 176. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課

最終更新日:15th.Nov.2014

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