ヒメアブラススキ Bothriochloa parviflora  (R.Br.) Ohwi
  里山・草地の植物 イネ科 ヒメアブラススキ属
Fig.1 (西宮市・河岸の岩場 2015.10/13)

Fig.2 (西宮市・河岸の岩場 2015.10/13)

丘陵〜低山の里山の草地に生育する多年草。
根茎は短く横走し、まばらに叢生し、茎は下方で分枝し、高さ50〜100cm。
葉は薄く、細長く、扁平で線状披針形、中央脈は明瞭で裏面に膨出し、中央脈の裏面には刺状突起があってざらつく。
花序は円錐形で長さ5〜15cm、枝は数回分枝して、1cm未満の短い総を多数つけ、ふつう紫褐色を帯びる。
総にはふつう1対の無柄小穂と有柄小穂が2組つき、無柄小穂は両性で、やや光沢があり、披針形で、ややとがり、長さ約3mm、
基部には白短毛があり、第4頴には細長い芒がある。
有柄小穂は芒はなく、雄性または中性花で、無柄小穂よりも上につき、小さい。

【メモ】 本種は草刈りの行き届いた二次的自然度の高い棚田の土手に最もよく見られ、山間の水田の管理放棄によって減少傾向の著しい種である。
     南方系のイネ科植物であるため兵庫県下では県南部を中心に分布し、棚田が維持管理されている場所では比較的よく眼にする。
     西宮市内では山間棚田に残存するほか、武庫川渓谷の岩場に残存集団が見られる。
近縁種 : アブラススキオオアブラススキ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州、沖縄、小笠原 ・ 中国・台湾・インド・オーストラリア
■生育環境:里山の草地、特に棚田の土手によく見られる。
■花期:8〜11月

Fig.3 全草標本。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  根茎は短く横にはい、まばらに叢生する。茎下方から中部にかけて分枝する。茎は細く、硬い。
  最上部につく葉(止め葉)は中部以下につく葉よりもごく小さい。

Fig.4 節と葉鞘。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  葉鞘は下部では節間よりも短く、上部では節間よりも長く、縁に微鋸歯があってときにまばらに長毛が生え、両端は重なり合う。
  節は少しふくらみ、上向きの短毛が見られたが、地域によっては無毛のものもある。
  葉身基部の脈間と葉鞘口部には斜上する長毛があり、拡大すると長毛の根元は瘤となっている。また葉耳の縁には軟短毛が生える。
  葉鞘の口部には縁に微毛の生えた2mm前後の厚味のある葉舌があるが、長毛にさえぎられてよい画像が得られなかった。
  葉舌は下方の葉鞘では短く、最上部のものが最も長い傾向があった。

Fig.5 花序。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  花序は円錐形、成熟期にはふつう紫褐色を帯び、長さ5〜15cm。分枝した長い枝が開出気味に開いた先に芒のある総をつけるため、
  一見すると総がそれぞればらばらの方向に向いている印象を受ける特徴的な花序である。
  花序枝は花序中軸の各節から3〜7本、半輪生状につき、表面は平滑、無毛、2〜4回分枝し、枝の先に小穂の集まった総をつける。

Fig.6 花序枝の先についた総。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  分枝した花序枝は糸のように細く、ややねじれる。総は長楕円状披針形、両性小花につく芒が2本長くのびる。

Fig.7 総の拡大。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  総はふつう無柄小穂と有柄小穂が1対となったものが2組つく(計4個の小穂)。
  無柄小穂は両性花で下方につき、ねじれて反転する長い芒がつく。
  有柄小穂は雄性または中性(無性)花で、柄の一方には白色の直剛毛が斜上して並び、無柄小穂よりも上につく。
  有柄小花と柄をつなぐ関節は折れやすく、分解しようとすると小穂のみが離れ、肝心の柄のついた小穂が得られなかった。

Fig.8 有柄小穂(左)と無柄小穂(右)。(西宮市・棚田の土手 2010.11/20)
  有柄小穂の肝心な柄は脱落してしまっている。
  各小穂の基部には白色の基毛を輪生する。無柄小穂は芒と脈が目立ち、第1苞頴の脈は5〜7脈あり、刺状毛を散生する。
  有柄小穂の脈は目立たないが第1苞頴には5脈あり、無柄小穂よりもわずかに小さい。

Fig.9 開花中の花序。(長崎県・茅場 2009.10/25)

生育環境と生態
Fig.10 管理放棄された棚田の斜面に生育するヒメアブラススキ。(西宮市・休耕棚田の土手 2010.11/20)
解りづらい画像だが、休耕2年目で高茎草本が繁りはじめた棚田の草地土手に小集団が点在している。
休耕田内には草丈の高いススキ、ワラビ、セイタカアワダチソウが密生しているが、土手の周辺にはメガルカヤ、オガルカヤ、トダシバに混じってヒメアブラススキが見られる。
土手にはコナラ、イヌツゲ、モチツツジ、ウツギ、ヒサカキなどの低木も多いが、ワレモコウ、オミナエシ、リンドウ、コガンピ、ツリガネニンジン、
サワヒヨドリ、リュウノウギク、ノコンギク、キセルアザミなど草原性〜湿生植物が多く見られ、なんとか保全したい場所である。


最終更新日:9th.Sep.2016

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