ヒメカンアオイ Heterotropa takaoi  F.Meak.
  里山・林縁・林床の植物 ウマノスズクサ科 カンアオイ属
Fig.1 (兵庫県三田市・疎林の林床 2007.3/10)
丘陵〜山地の林縁、落葉広葉樹の疎林の林床に生育する多年草。全草に独特の芳香がある。
葉は腎円形、または広卵形で長さ5〜8cm、幅4〜7cmあり、鈍頭、基部は心形で暗紫色の柄がある。
花は淡紫褐色〜紫褐色、径約1.5cm。
萼筒は短い筒形または鐘形で長さ7〜9mm、上端にくびれはなく、内面に18〜21本の縦の隆起があり、細かい格子状となる。
萼裂片は開出し、3角状卵形で鈍頭、筒部と同長または長い。雄蕊は12個。花柱は6個で萼筒とほぼ同長、先端はつの状となる。

【メモ】 カンアオイ属は種子にエライオソームが付属し、アリによって種子散布されている可能性が高いとされている。
     アリ散布であるとすると散布範囲はそれほど広くはなく、同時に生育速度が非常に遅いため、地域固有種が多い。
     ヒメカンアオイは兵庫県下では淡路島を除く中部以南に広く見られ、一部の場所では分布域を同じくするミヤコアオイと混生していることもある。
     これらの自生地の一部ではギフチョウの重要な食草となっており、保護されている場所もある。
     茎と根の干したものは他のカンアオイの仲間とともに「土細辛(どさいしん)」としての鎮咳、去痰の生薬とされたという。
近縁種 : ゼニバサイシン、 ミヤコアオイ、 アツミカンアオイ、 ナンカイアオイ

■分布:本州、四国
■生育環境:里山の林縁、落葉広葉樹の疎林内など。
■花期:12〜3月

Fig.2 地表に葉を広げるヒメカンアオイ。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  茎は短く、開花期の冬期には画像のように花とともに落葉に埋もれて見えないことが多いが、1本の茎にはふつう1〜2個の葉が互生してつく。
  画像のように茎の部分は落葉に埋もれているため、多数の葉が根生しているように見えるが、多数の株が集まっているもの。

Fig.3 ヒメカンアオイの茎など。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  茎は地表を横にはい、古い茎の下側からは根を出し、茎の先近くは葉痕で節くれ立つ。
  茎頂には開花期には苞に包まれた新芽があり、次に花があって、その直ぐ下の1〜2節には苞がつく。
  葉はこれら花や苞の下の1〜2節につく。

Fig.4 ヒメカンアオイの葉。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  葉は腎円形または広卵形、鈍頭、基部は心形、表面にはやや光沢がある。
  表面は緑色で無地のものから、淡色の雲紋のあるもの、脈に沿って淡色部があるものなど、同一集団内でも変異が多い。

Fig.5 葉の表面。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  表面には葉縁近くに毛が多く生え、中心付近にはほとんど毛がない。

Fig.6 葉の変異・1。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  葉脈に沿って淡色部の現われるもの。小さな個体に頻出するように思われる。

Fig.7 葉の変異・2。(兵庫県三田市・棚田の土手 2008.5/4)
  展葉間もない新葉は斑紋がより美しい。画像のものは細かく散った雲紋が見られるもの。

Fig.8 ヒメカンアオイの花。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  花はふつう茎頂近くに1個つき、淡紫褐色〜紫褐色、花弁はなく、花と見えるものは萼筒と3個の萼裂片からなり、多肉質。
  萼裂片は開出し、3角状卵形で鈍頭。萼筒口部は環状に隆起する。

Fig.9 花の内部。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  萼筒内部には中心部に基部が合着した花柱が6個あり、その周囲に花柱の1/3長の雄蕊12個が環状に取り巻く。

Fig.10 雄蕊と雌蕊。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  雄蕊は高くつくものと低くつくものが交互に環状に並び、花糸は短く葯のおよそ1/6、葯は外側に向かって開く。
  花柱は先端がつの状となり、柱頭は花柱の中程の外面につき、柱頭から上部の花柱には1条の溝がある。

Fig.11 萼筒内側。(兵庫県三田市・雑木林の林縁 2011.1/13)
  縦の隆条があり、それらの間を横につなぐやや不整な隆条があり、格子紋をつくる。

Fig.12 ギフチョウ。(兵庫県播磨地方・雑木林 2015.4/12)
  カンアオイの仲間をホストとする。開発と乱獲により激減したが、最近になって保護活動が盛んになっている。

生育環境と生態
Fig.13 車輌の通行のない林道脇に群生するヒメカンアオイ。(兵庫県三田市・林道脇 2011.1/13)
低山谷間の平坦地に広がるまばらなクヌギ林内を通る林道上や林道脇に群生が見られた。
落葉の量が多く、地表に見えている葉は少数であるが、落葉を掻き分けると多数の花をつけた、分けつした大株が多数生育していた。
周辺にはツルリンドウ、トウゴクシソバタツナミ、ナガバノタチツボスミレ、シハイスミレ、ヤマトウバナ、シシガシラ、トウゲシバなどが見られた。

Fig.14 照葉樹林の林縁に生育するヒメカンアオイ。(西宮市・林縁 2011.6/12)
西宮市内にはヒメカンアオイの自生地・個体数ともに非常に少なく、照葉樹林の林縁にわずかに見られる。
周辺にはネザサが薄く生え、イチヤクソウ、コカンスゲ、ハカタシダ、クラマゴケなどが見られた。


最終更新日:26th.Feb.2017

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