タンゴワラビ Diplazium sacrosanctum  Sa. Kurata, nom. nud.
  山地・林床のシダ イワデンダ科 ヘラシダ属
Fig.1 (兵庫県養父市・植林地の林床 2015.7/19)

かつてはシロヤマシダとオニヒカゲワラビの雑種とされたが、現在ではシロヤマシダの形態変異の極端型とされている。
山地のやや陰湿な林下や沢沿いに生じる常緑性シダ。近畿中〜北部では冬に枯れる。
根茎は太く横走し、葉は混み合って付く。葉柄は葉身よりも短く、緑色〜わら色、基部は黒褐色で鱗片がある。
鱗片は披針形〜広披針形、黒褐色〜茶褐色、膜質、軸に圧着してつき、ほぼ全縁。
葉身は卵状3角形〜広卵形、2回羽状深裂、濃緑色、光沢があり、やや厚味のある紙質。
中軸、羽軸、ときに小羽軸の裏面にごくまばらに小さな早落性の鱗片がある。
下部の羽片は有柄。最下羽片の柄は長く、最下羽片の下側小羽片の幅の2倍またはそれ以上の長さがある。
小羽片は幅広い長3角形、基部は切形または浅い心形で短い柄があり、羽状に浅〜中裂し、鋭頭〜鋭尖頭。
裂片は長楕円形〜楕円形、円頭〜鈍頭だが、鋭頭のこともあり、低い鋸歯縁。側脈は単生または2叉する。
胞子嚢群は線形〜楕円形、中肋と辺縁の中間〜やや中肋寄りにつき、苞膜は薄い膜質、全縁〜鋸歯縁。

シロヤマシダD. hachijoense)は最下羽片の柄は短くて下側小羽片の幅と同長または短く、小羽片は広披針形となり、多くの側脈は2叉する。
シマシロヤマシダD. doederleinii)は側脈が2叉することが多く、小羽片は中〜深裂し、基部は幅広く無柄、ソーラスは中肋寄りにつき、包膜はほぼ全縁。
オニヒカゲワラビD. nipponicum)は側脈が2叉することが多く、小羽片は羽状に中〜深裂し、裂片の間に隙間が空き、ソーラスは中肋寄りにつき、包膜辺縁は細裂する。
コウモウクジャクD. virescens)は基部鱗片が黒色で辺縁に刺状突起があり、小羽片は披針形〜3角状披針形、側脈はほとんど単生、ソーラスは中間かやや辺縁よりにつく。
ヒカゲワラビD. chinense)はオニヒカゲワラビに似るが、葉質は薄い草質、2次小羽片の基部はやや狭くなり羽状に浅〜中裂し、包膜は全縁。
近縁種 : シロヤマシダ、 シマシロヤマシダ、 オニヒカゲワラビ、 コウモウクジャク、 ヒカゲワラビ

■分布:本州、九州
■生育環境:山地のやや陰湿な林下や沢沿いなど。

Fig.2 地上部標本。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  葉柄は葉身よりも短く、緑色〜わら色、基部は黒褐色。
  葉身は卵状3角形〜広卵形、2回羽状深裂、濃緑色、光沢があり、やや厚味のある紙質。最下羽片の柄は長い。

Fig.3 葉柄基部近くの鱗片。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  鱗片は披針形〜広披針形、黒褐色〜茶褐色、膜質、軸に圧着してつき、ほぼ全縁。

Fig.4 最下羽片の柄。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  最下羽片の柄は長く、最下羽片の下側小羽片の幅の2倍またはそれ以上の長さがある。画像は撮影角度が悪く、少し短く見える。
  シロヤマシダの最下羽片の柄は短く、下側小羽片の幅と同長または短い。

Fig.5 小羽片。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  小羽片は幅広い長3角形、羽状に浅〜中裂し、鋭頭〜鋭尖頭。

Fig.6 小羽片の裏面基部。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  小羽片基部は切形または浅い心形で短い柄がある。
  裂片は長楕円形〜楕円形、円頭〜鈍頭だが、鋭頭のこともあり、低い鋸歯縁。側脈は単生または2叉する。

Fig.7 胞子嚢群(ソーラス)。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
  胞子嚢群は線形〜楕円形、中肋と辺縁の中間〜やや中肋寄りにつく。

Fig.8 苞膜は薄い膜質、全縁〜鋸歯縁。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)

生育環境と生態
Fig.9 植林地の沢沿いに生育するタンゴワラビ。(京都府綾部市・植林地の林床 2015.6/29)
緑色岩地にある低山北東斜面のかなり多湿な植林地の沢沿いに生育が見られた。
周囲にはジュウモンジシダ、リョウメンシダ、ベニシダ、トウゴクシダ、ヤマヤブソテツ、オオカナワラビ、ハカタシダ、シケチシダ、イワヒメワラビ、
ミゾシダ、ヒロハイヌワラビ、ヤマイヌワラビ、ホソバイヌワラビ、タニイヌワラビ、キジノオシダなど、シカの食害も少なく、多くのシダが見られた。

Fig.10 植林地の林床に群生するタンゴワラビ。(兵庫県養父市・植林地の林床 2015.7/19)
シカの食害が激しい地域の低山北側斜面の多湿な林床で群生していたもの。タンゴワラビはシカの忌避植物であるため増えている。
周辺で見られる植物はシカの忌避植物ばかりで、シダではオニヒカゲワラビ、コバノイシカグマ、イワヒメワラビばかりが目立ち、わずかに急傾斜地で
ミゾシダ、リョウメンシダ、キジノオシダなどが見られた。林床ではごく小さなトガリバイヌワラビなどが見られるが、ソーラスを付けているものはない。


最終更新日:30th.Nov.2015

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