トウゴクサバノオ Dichocarpum trachyspermum
 (Maxim.) W.T. Wang et Hsiao
  山地・渓流の植物 兵庫県RDB Bランク種 キンポウゲ科 シロカネソウ属
Fig.1 (兵庫県丹波・渓流畔 2012.4/29)

Fig.2 (兵庫県丹波・渓流脇の斜面 2011.4/29)

暖帯林の渓流畔に成育する多年草。
地下茎は発達せず、茎は高さ10〜20cm。基部から数枚の長い柄のある根生葉を束生し、葉柄基部は広がって鞘となる。
茎葉は全て対生し、対になった葉の基部の鞘は合着する。葉は鳥足状に分岐し、頂小片は広卵形〜倒卵形で、しばしば3中裂し、鈍い鋸歯がある。
花は平開せず、やや下垂して咲くことが多いが、稀に直立するものもあり、径6〜8mm、萼片は5個で花弁状となり、淡黄緑色〜白色。
花弁は萼片よりも小さく、蜜を分泌する蜜弁となり、橙黄色を帯びた舷部と柄からなり、柄は舷部よりも長い。舷部は軍配形で直立し、先は多少内曲する。
茎の基部には小さな葉をつけた花茎をもつ閉鎖花をつける。種子には密に小さな突起がある。

シロカネソウ属には似たものが多いが、種子に顕著な突起があり、草体基部に閉鎖花をつけるものはトウゴクサバノオだけである。
以下に同属の類似種の特徴を挙げる。
サンインシロカネソウD. ohwianum)…萼は黄緑色、花弁の舷部は内曲する。花後は花茎に閉鎖花をつけ、匍匐枝を出して殖える。分布:福井〜島根の日本海側。
ツルシロカネソウD. stoloniferum)…花は上向きで、萼は白色で平開。長い匍匐枝を出して殖える。分布:本州太平洋側(神奈川〜奈良)。
サイコクサバノオD. dicarpon var.univalve)…萼は緑白色。花弁の舷部は1片のみからなり、茎や葉裏に軟毛がある。 分布:近畿地方と四国の温帯林中。
近縁種 : サンインシロカネソウ、 ツルシロカネソウ、 サイコクサバノオ、 キバナサバノオ

■分布:本州(宮城県以南)、四国、九州
■生育環境:暖帯林下の渓流畔や湿った場所。
■花期:4〜5月

Fig.3 開花中のトウゴクサバノオ。(兵庫県丹波・谷筋 2008.5/8)
  花は細長い柄の先に単生する。

Fig.4 花の拡大。(兵庫県丹波・渓流脇の斜面 2011.4/29)

Fig.5 花のつくり。(兵庫県淡路島・谷筋 2009.4/18)
  萼片は花弁化して平開せず内曲気味に開き、花弁は蜜を分泌する蜜弁となっている。蜜弁の舷部は軍配状。
  雄蕊は多数で、雌蕊は2個あるが雄蕊に囲まれて見にくいことが多い。

Fig.6 果実期。(兵庫県丹波・渓流畔 2008.5/16)
  サバノオのいわれとなった果実。果実は袋果で2個基部で合着し、横に広がる。


Fig.7,8 花茎を上げ始めた頃の閉鎖花(上)と開花時の閉鎖花(下)。(上:兵庫県丹波・渓流畔 2009.4/9 下:兵庫県淡路島・谷筋 2009.4/18)
  夏に閉鎖花をつけるとする図鑑があるが、開花時にも閉鎖花は見られる。おそらく春から長期にわたって閉鎖花をつけるのだろう。
  閉鎖花は基部の花茎腋と葉柄腋から小さな2個の対生する総苞葉に包まれて出てくる。
  サンインシロカネソウも開花期のあと閉鎖花が見られるが、トウゴクサバノオのように特殊化したものではなく、花茎上部の葉腋につく。

Fig.9 早春の群落。(兵庫県丹波・渓流畔 2010.3/30)
  解けた雪の下から前年形成された根生葉が現れる。

Fig.10 春先のトウゴクサバノオ。(兵庫県丹波・渓流畔 2009.3/1)
  根茎から根生葉が出ている。花茎はこれから伸び始める。

Fig.11 幼植物。(兵庫県丹波・渓流畔 2009.4/20)
  前年形成されて地上に落ちた種子は、翌年の春に発芽する。
  子葉は広楕円形〜広卵形で柄があり、先は凹み中央脈がわずかに突出する。本葉は5個の小片を持つ。

生育環境と生態
Fig.12 急傾斜の谷筋に群生するトウゴクサバノオ。(兵庫県淡路島・谷筋 2009.4/18)
トウゴクサバノオは日陰〜半日陰の湿った被植の少ない場所に見られることが多く、谷筋の斜面はそのような条件を満たすため群生が見られることがある。
付近にはチャルメルソウ、マルバコンロンソウ、ヤマルリソウ、サワギクなどが見られた。

Fig.13 渓流脇の崩壊の激しい斜面に生育するトウゴクサバノオ。(兵庫県丹波・渓流脇の斜面 2011.4/29)
崩落が進んだ被植の少ない渓流に面した斜面にトウゴクサバノオが点在していた。
トウゴクサバノオはシカによる食害を受けないようであるが、この斜面の上部が獣道となっており、その影響を被って土砂に埋没しつつある。
渓流近くではサワハコベ、オオバタネツケバナ、ネコノメソウ、ニッコウネコノメ、オオタチツボスミレがわずかに見られ、被植は少ない。

Fig.14 渓流畔の平坦地に群生するトウゴクサバノオ。(兵庫県丹波・渓流畔 2012.4/29)
渓流畔の植林地林縁の平坦な場所に群生が見られた。
シケチシダ、クラマゴケ、オオバタネツケバナ、サワハコベ、ミズタビラコ、サンインクワガタ、ミヤマカタバミなどとともに生育していた。


最終更新日:10th.Jun.2014

<<<戻る TOPページ