ツチグリ Potentilla discolor  Bunge
  里山・草地の植物 

  環境省絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Bランク種
バラ科 キジムシロ属

Fig.1 (兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)

Fig.2 (兵庫県播磨・農地の土手 2013.3/21)

低地〜低山の日当たり良い草地に生育する多年草。
根茎は太く、いちじるしく肥厚して塊状〜紡錘状をなす部分がある。
茎は高さ15〜40cm、長毛がまばらに生え、はじめのうちは白い綿毛もある。
根生葉は3〜7(〜9)個の小葉からなる奇数羽状複葉で、小葉は長楕円形あるいはそれよりも狭く、長さ2〜4cm。
小葉の縁には粗い鋸歯があり、裏面は白い綿毛に被われ、脈上には伏毛もある。
托葉は根生葉のものは披針形で綿毛があり、赤褐色を帯びて膜質、茎葉のものは緑色、卵形で歯牙がある。
花茎は数個の花をつけ、花は径12〜15mm、黄色。萼片は狭卵形で、外面に白い綿毛があり、副萼はやや小さい。
花弁は倒卵形で、花床は有毛。痩果は卵形で平滑、背面は円く、花柱は太くて短い。

【メモ】 本来の生育環境であるハゲ山の遷移による減少、茅場や里山草地などの半自然草原の管理放棄によって減少の著しい草本。
     他府県では絶滅したところもあるが、兵庫県下では野焼き、草刈りが行われる溜池土堤や棚田の土手などに残存している。
     溜池の埋め立てや改修、棚田の耕作放棄などによって今後も減少していくと考えられる。
近縁種 : キジムシロミツバツチグリ、 テリハキンバイ、ツルキンバイ、ツルキジムシロ、イワキンバイ

■分布:本州(愛知県以西)、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国北部
■生育環境:低地〜低山の草地、棚田の土手、溜池土堤など。
■花期:4〜7月

Fig.3 根茎。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  根茎は太く、肥厚して紡錘状となり、表面は褐色。かつては食糧とされ、栗のような味のためツチグリの名がついた。
  (画像のものは新産地記録の標本用に掘り上げたものです。)


Fig.3,5 根生葉の表面(上)と裏面(下)。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  葉は奇数羽状複葉で、小葉は3〜9個つくが、7個のものが最も多く、裏面はおびただしい綿毛があるため白色に見える。
  葉質はキジムシロよりも柔らかく、毛が多い。小葉は長楕円形で、キジムシロのものよりも細長い。

Fig.6 小葉表面の拡大。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  小葉の表面には光沢はなく、長く寝た白軟毛がまばらに生え、ときに短毛も混じる。

Fig.7 小葉裏面の拡大。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  裏面には全面に綿毛が生え、中央脈や側脈上には伏毛も生える。

Fig.8 キジムシロとツチグリの根生葉。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  小葉はツチグリのほうが細長い。また、ツチグリの葉軸にはキジムシロのような小片はつかない。
  裏面はツチグリの白さが目立つ。

Fig.9 越冬ロゼット。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  葉は地表に張り付くようにはならず、多少とも立ち上がり、全体がこんもりとした感じになる。

Fig.10 茎につく葉。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  茎につく葉は3小葉となり、葉柄基部の托葉は短くなる。


Fig.11 花茎。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  茎には長毛が生え、新鮮な茎には綿毛に被われて白く見える。
  花序は散房状となり、花序枝の分岐点には3深裂する苞葉がつく。

Fig.12 萼片と副萼片。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  萼片、副萼片ともに狭卵形で、副萼片は萼片よりやや小さい。ともに内面は無毛、外面には綿毛が生える。

Fig.13 ツチグリの花。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  花弁は黄色で、平開し、広倒卵形で、先は凹む。雄蕊は多数。心皮も多数。

Fig.14 横から見た花。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  見にくいが心皮に頂生している多数の短い花柱が見える。

Fig.15 訪花したコハナバチの仲間。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
  腹部の平たいコハナバチの仲間が訪花していた。ピントが甘いため種を絞り込めない。コハナバチ類は黄色い花を訪花するものが多い。

Fig.16 果実期のツチグリ。(兵庫県播磨・溜池土堤 2011.6/5)
  果実が熟してくると花茎は倒伏し、後に萼が開いて種子を散布する。
  萼の隙間からは種子がのぞいている。

Fig.17 種子。(兵庫県播磨・溜池土堤 2011.6/5)
  種子は卵形、茶褐色で、1ヵ所に突起がある。

Fig.18 親株の周囲に見られた幼個体。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.12/6)
  子葉は柄があり、葉身は楕円形。最初の本葉は3〜5浅裂している。

生育環境と生態
Fig.19 溜池土堤に生育するツチグリ。(兵庫県播磨・溜池土堤 2010.7/10)
ツチグリは本来はハゲ山状の草地に生育していたと考えられるが、兵庫県下では溜池土堤で確認されることが多い。
人の営みによって生まれた茅場や棚田の土手、溜池土堤などの刈り込みや野焼きされる場所が、ツチグリの生育条件に合い、一時期は分布を広げたのだろう。
この土堤では野焼きと草刈りが行われており、おびただしい数のツチグリが生育していた。
土堤は比較的交通量のある車道に面しているため、ワルナスビやオオニシキソウが侵入が目立つが、堤体はチガヤが優占し、ヒガンバナがパッチ状に群生する。
他にヤブカンゾウ、ノアザミ、ノビル、ゲンノショウコ、キツネノマゴ、スズメノエンドウ、ヤハズソウ、ギシギシ、シロツメクサ、ナワシロイチゴ、
ノイバラ、センニンソウ、コゴメガヤツリ、スズメノヒエ、シマスズメノヒエなどが生育している。
ツチグリは土堤の上部の比較的乾いた場所に多く見られ、周囲にはノビルが最も多かった。

Fig.20 農地の土手に群生するツチグリ。(兵庫県播磨・農地の土手 2013.3/21)
草刈りと野焼きの行われる、半自然草地環境が保たれている土手で良好な群生が見られた。
随伴する種はヤハズエンドウ、オオイヌノフグリ、ノジスミレ、ノビルなどの一般的な畦畔植物。


最終更新日:11th.June.2013

<<<戻る TOPページ