アイノコイトモ | Potamogeton x orientalis Hagstr. | ヒルムシロ科 ヒルムシロ属 |
水生植物 > 沈水植物・雑種 |
Fig.1 (兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21) 河川、水路、湖沼、溜池などで沈水状態で生育する多年草。 ヤナギモよりも葉が細く、イトモよりも草体はやや大きくなる。 葉は無柄で、線形、全縁、長さ4.5〜7(〜9)cm、幅1.2〜2(〜2.5)mm、3(〜5)脈あり、鋭頭。稀に浮葉を持つ。 花茎は長さ1〜2cm、花穂の長さ2〜5mmで、数花からなるが、開花しないことが多く、開いても花粉は不稔で結実しない。 秋に水中茎の先端に、イトモよりも大きく、節数の多い殖芽を形成する。 ヤナギモとイトモの雑種とされるが、各地で独立に起源した様々な系統を含む分類群であるという。 イトモ(P. berchotoldii)はよく結実し、葉の長さ2〜6cm、幅0.7〜1.5mm、1〜3脈。殖芽は軸の部分が肥厚し、長さ1.5〜2.5cm。 ヤナギモ(P. oxyphyllus)は花穂の長さ6〜12mm。葉の長さ5〜12cm、幅2〜5mm、5脈以上ある。殖芽は不完全。 ホソバミズヒキモ(P. octandrus)は草体は繊細で、浮葉を持ち、葉幅はイトモよりも細く、殖芽は長さ1cm前後で軸は肥厚しない。 コバノヒルムシロ(P. cristatus)はホソバミズヒキモに酷似し、花はより密につき、果実の背稜には顕著な突起が並ぶ。 ツツイトモ(P. panormitanus)は稀。托葉の両側が合着して筒状となり、花穂は長く上下2段に分かれてつく。殖芽は長さ1.5〜2cm、軸は肥厚しない。 エゾヤナギモ(P. compressus)は地下茎がなく、殖芽から水中茎が伸び、茎は扁平。花穂の長さ1.2〜2cmで、花は1心皮。殖芽はアイノコイトモに似る。 近似種 : イトモ、 ヤナギモ、 ホソバミズヒキモ、 コバノヒルムシロ、 ツツイトモ、 エゾヤナギモ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ アジア東部 ■生育環境:河川や水路、湖沼、溜池など。 ■花期:7〜9月 ■西宮市内での分布:西宮市内ではイトモ、ヤナギモの自生地自体が少なく、本種は発見できていない。 |
||
↑Fig.2 全草標本。(兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21) ヤナギモよりも葉が細く、イトモよりも草体はやや大きくなる。 |
||
↑Fig.3 沈水葉。(兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21) 葉は無柄で、線形、全縁、長さ4.5〜7(〜9)cm。 |
||
↑Fig.4 葉幅と葉先。(兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21) 幅1.2〜2(〜2.5)mm、3(〜5)脈あり、葉先は鋭頭。 |
||
↑Fig.5 葉に5脈が見られるもの。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) |
||
↑Fig.6 葉先の拡大。(兵庫県姫路市・溜池 2014.3/24) |
||
↑Fig.7 葉身の拡大。(兵庫県姫路市・溜池 2014.3/24) 明瞭な3脈のほか、中央脈の両側近くに不明瞭な2脈が見られた。 |
||
↑Fig.8 同一倍率での草体比較。(兵庫県尼崎市ほか・溜池・水路 2014.9/14) 左からイトモ、アイノコイトモ、ヤナギモ。アイノコイトモはイトモとヤナギモの中間的な形質を持つ。 |
||
↑Fig.9 3種の葉先の比較。(兵庫県尼崎市ほか・溜池・水路 2014.9/14) 左からイトモ、アイノコイトモ、ヤナギモ。 |
||
↑Fig.10 殖芽を形成した個体。(自宅植栽 2014.11/13) 秋になると水中茎の先端に殖芽を形成する。殖芽はふつうイトモの殖芽よりも大きく、節数が多い。 |
||
↑Fig.11 大きな殖芽と小さな殖芽。(自宅植栽 2014.11/13) 分枝した短い枝先の殖芽は小さくなり、イトモの殖芽と判別しがたいが、中軸肥厚部が長くなる傾向が見られる。 |
||
↑Fig.12 3種の殖芽比較。(自宅植栽 2014.11/13) 左からイトモ、アイノコイトモ、ヤナギモ。ヤナギモの殖芽は不完全である。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.13 皿池に見られたアイノコイトモ。(兵庫県姫路市・溜池 2013.10/21) 丘陵脇の3方向を土堤で囲まれた中栄養な溜池に多くのアイノコイトモが生育していた。 両親種と見られるイトモ、ヤナギモともに見られず、アイノコイトモだけが多産している。 水面は多くの部分がヒシ群落によって覆われ、オオトリゲモ、セキショウモ、キクモが沈水生している。 池畔ではヒメホタルイ、クログワイ、ハンゲショウなどが抽水生していた。 |
||
Fig.14 中栄養な溜池に見られたアイノコイトモ。(兵庫県三木市・溜池 2013.7/20) 谷津の耕作地の間にある中栄養な溜池に生育しているもの。 ここではイトモ、ヤナギモは見られず、ホソバミズヒキモが生育しているため、ホソバミズヒキモとヤナギモの雑種である可能性が高い。 ここでも水面上にはヒシが見られ、ホッスモ、キクモ、ホソバミズヒキモなどの沈水植物、サイコクヒメコウホネ、オオフトイ、アギナシ、 ヌカボタデなどの抽水〜湿生植物、イヌタヌキモ、ウキゴケなどが生育している。 |
||
【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大滝末男, 1980. アイノコイトモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 237. 北隆館 角野康郎, 1994 アイノコイトモ. 『日本水草図鑑』 45〜47. 文一統合出版 角野康郎, 2014 ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 『日本の水草』 110〜136. 文一統合出版 内山寛. 2001. ヒルムシロ科ヒルムシロ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川県立生命の星・地球博物館 村田源. 2004. アイノコイトモ. 『近畿地方植物誌』 200. 大阪自然史センター 角野康郎・高野温子 2006. アイノコイトモ. 兵庫県産維管束植物9. 人と自然18:89. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:22nd.Dec.2014 |