ヒメガマ Typha domingensisi  Pers. ガマ科 ガマ属
抽水植物
Fig.1 (兵庫県稲美町・溜池畔の湿地 2014.7/2)

湖沼、河川、溜池、休耕田や用水路などに生育する抽水性の多年草。
泥中には横走する太い根茎があり群生する。草高は1.3〜2.5m。葉はガマに比べて細く、幅5〜15mm。
花序には上部に雄花群が、下部には雌花群がつき、雄花・雌花群間は1.5〜7cm間隔が空き、中軸が裸出する。
雄花群はふつう雌花群よりも長く、長さ11〜25cm、淡緑黄色、ふつう3段が接続して、各段の下端には苞葉を1個つけるが離脱しやすい。
雌花群は長さ5〜22cm、茶褐色、ビロード状、ときに2段に分かれ、果時には径1〜2cmでガマよりも細く見える。

同属に在来の2種と外来の1種があり、いずれもよく似る。
ガマ(T. latifolia)は、葉幅1〜2cm、雌花群は長さ7.5〜20cmとコガマより大きく、雄花群と接し、花粉は合着して4集粒となる。
コガマ(T. orientalis)は西日本では稀に生育し、葉幅5〜8mm、雌花群は長さ4〜12cmで雄花群と接し、花粉は合着せず単粒。
モウコガマ(T. laxmanni)は中国原産の帰化種とされ、雌花群と雄花群は間が空き、雌花群は2〜4cmと極端に短く、こげ茶色に熟す。葉幅は2〜4mm。
また、ガマとコガマの種間雑種アイノコガマ(T. × suwensis)も報告されている。
『神奈川県植物誌 2001』によると、ホソバヒメガマ(仮称)(T. angustifolia)が国内に生育している可能性があるとしている。
従来、T. angustifolia はヒメガマの学名とされてきたがこれは誤りで、ヒメガマをT. domingensisi とし、T. angustifolia にホソバヒメガマという仮称をあたえている。
ヒメガマは熟した雌花群が白っぽい褐色、上部の葉の葉鞘口部は下方にはだらかに沿下するのに対し、ホソバヒメガマでは熟した雌花群は濃い褐色になり、
上部の葉鞘口部は膜質で耳状となる、などの区別点を挙げている。
近似種 : ガマコガマモウコガマ

■分布:日本全土 ・ 北半球に広く分布。
■生育環境:湖沼、河川、溜池、休耕田や用水路など。
■花期:6〜7月
■西宮市内での分布:全域に点々と分布する。

Fig.2 ヒメガマの花序。(西宮市町・砂防ダム内の湿地 2007.8/2)
  上部には雄花群、下部に雌花群がつき、雄花・雌花群間は1.5〜7cm間隔が空き、花序軸が裸出する。

Fig.3 雄花群の一部。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2007.8/2)
  雄花はふつう3個ときに2個の雄蕊からなり、基部には白色毛が2個つく。
  画像の左に見えているのは、雄花群の基部についた苞葉。苞葉は雄花群とともに早い時期に花序から脱落する。

Fig.4 花粉。(兵庫県稲美町・溜池畔の湿地 2014.7/2)
  花粉は合着せず単粒で、球形、径20〜25μ。

Fig.5 雌花群と種子を食害するガマトガリホソガの幼虫。(西宮市・砂防ダム内の湿地 2009.1/4)
  ガマトガリホソガはカザリバガ科の鱗翅目の仲間で、食草はガマ類の種子と茎で、完全にガマ類に依存する狭食性の蛾である。
  成虫は5〜8月と10月、年2回出現し、幼虫はガマ類の穂の中にもぐって種子を食べながら越冬する。

Fig.6 水際に飛散した種子(黄矢印)と小苞(水色矢印)。(西宮市・砂防ダム内 2008.3/3)
  雌花群はガマ属に共通して見られるように、雌花と小苞からなる。小苞は雌花が退化したものとされる。
  小苞は雌花の子房がなく、長い柄の先端部が根棒状となる。

Fig.7 雌花部が2段となったもの。(兵庫県加東市・溜池畔 2010.8/8)
  雌花部が2段となるのもは他のガマ属植物にも見られるが、ヒメガマの場合は、上下の雌花群に隙間ができる。

Fig.8 根茎。(西宮市・砂防ダム内 2007.9/13)
  イノシシによる撹乱によって、ヒメガマの根茎が露出していた。
  根茎は白色で太く、浅い地中を横走して節から多数のひげ根(不定根)を出し、まばらに根生葉と茎を立ち上げる。

Fig.9 野生動物の攪乱を受けたヒメガマ。(西宮市・砂防ダム内 2007.9/13)
  砂防ダムに成立したこの湿地は、まだ30年経っていない。おそらくイノシシによって多くの湿生植物の種子が運び込まれたのだろう。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 砂防ダム内に群生するヒメガマ。(西宮市・砂防ダム内 2006.11/16)
水面に見える浮葉はフトヒルムシロのもの。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. ガマ科ガマ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.144. pl.125. 平凡社
北村四郎, 2004 ガマ科ガマ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.422〜423. pl.108. 保育社
角野康郎, 1994. ガマ科ガマ属. 『日本水草図鑑』 p.84〜85. pls.86〜87. 文一統合出版
大滝末男, 1980. ヒメガマ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 262〜263. 北隆館
大場達之. 2001. ガマ科. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 392〜394. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. ヒメガマ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
角野康郎 2008. ヒメガマ. 兵庫県産維管束植物10 ガマ科. 人と自然19:222. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:11th.Nov.2014

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